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14冊目 壊れた脳生存する知
壊れた脳生存する知

山田 規畝子著

講談社 (2004.2)

\1,680

評価:☆☆☆☆

 脳科学の本の、一番ややこしいところは科学だからと言って容易に実験ができないことにある。脳科学の本は、医者が脳の壊れた患者の行動パターンと脳の破壊された部位から脳の機能を測るというのが一般的なのである。この本を特徴付けているのは、3度の脳出血によって脳の一部が壊れているのが、医者でもある著者自身である、ということである。

 医者なので、自分の脳のどの部位が破壊されているのか、ということは分かっている。しかし、分かっていないのは、そのことによって世界をどのように認識するようになってしまうのか、ということだったようだ。詳しくは本書に譲るが、例えば空間識を失ってしまうと階段の凹凸が、上りなのか下りなのかが分からなくなってしまう。これは非常な恐怖だ。なにしろ、階段を前にして、それが上りなのか下りなのか、判断するための基盤を失ってしまうのだから。

 そこで、この本を特徴付けている、二つ目の魅力が出てくる。それは、著者が「頑張らない」と言いつつ、類稀な努力で社会復帰し、リハビリ関係の仕事をされている、というそれこそ稀有な事実だ。この手の、医者が自分の病気を書くという本は、大体ガンになって初めて患者の立場が分かったとか、そういった「脳機能には問題が無い状態で」書かれる物である。そうなるのは、脳が壊れて書けなくなってしまう(書くための能力が失われる)ことに原因がある。なのに、かなり重篤なダメージを受けつつも、著者が自分のことを書いているところこそ、この本を一番面白いと感じさせるポイントがあるように思われる。そして、それだからこそ胸を打たれる。

 脳が破損するということがどういうことなのか。社会は果たして(一見普通の人と変わりの無い)脳の破損した人々に対してバリアフリーといえるのか。医療の現場はどうあるべきなのか。いろいろなメッセージがある。「医者の癖に」と聞こえよがしに悪し様に言われてしまう医療現場。もうこれ以上の改善は望めませんと医者に突き放される患者。そういった、辛い闘病を行いながらも報われない人々を、生み出してはいけないと思う。そういった点で、特に脳関係の医療従事者、リハビリ関係の仕事についている方、バリアフリーについて考えておられる方にとっては必読と言っても過言ではないように思う。
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医学・脳・精神・心理 | 2004/04/30(金) 10:27 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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