丸山優二、NHKスペシャル「人体」取材班/NHK出版新書
評価:☆☆☆☆☆
「体の中には巨大な情報ネットワークがある」をコンセプトに制作されたNHKスペシャル「人体 神秘の巨大ネットワーク」を書籍化したもの。
従来は脳が体をコントロールしていると考えられてきた。脳が身体を動かすのは勿論、臓器にもホルモン等を通じて指令を出している、と考えられてきたわけだ。脳下垂体から多様なホルモンが出ていることを鑑みれば、このような考えが正しいと思われていたのも無理はない。
ところが、逆に臓器からも様々な物質が分泌され、他の臓器と情報をやり取りしていることが分かってきたのである。
例えば心臓。心臓は心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptides 略称ANP)というホルモンを出している。名前の通り利尿ホルモンなのだが、なぜ心臓が利尿ホルモンを出す必要があるのだろうか。答えは、血液が増えて心臓に負担がかかった時に、ANPを出すことで血液を尿として排出し、血液を適正な量に保つためだ。
このANPのように、臓器が単体では完了できない調整を行うために、他の臓器に働きかけるためのホルモンがどうやら沢山有るようなのだ。臓器同士は血流にホルモンを放ち、他の臓器に働きかけることで全体としての最適化を図っている。なるほど、そう考えると人体を巨大ネットワークとして理解しようとする本書の立場が理解できてくる。
私の感じた本書の素晴らしいところは、1つは人体が思いもしないほど複雑に結びつき、システムとして高いレベルで恒常性を保とうとしていることを伝えてくれるところであり、1つはホルモンの持つ驚異的な働きに好奇心が刺激されることであり、そして1つは意外な臓器からもホルモンが出ているという驚きと興奮を伝えてくれるところだ。
上述の心臓からの利尿ホルモンも、勿論その例の1つである。
また、各臓器の働きを改めて教えてくれるのもありがたい。例えば腎臓は血液のあらゆる成分を調整している。そのために、腎臓は1日に180リットルもの尿を作り、そこから必要なものを回収しているという。排出すべきものをきちんと排出するためには、このやり方が効率が良いようなのだ。それにしても、180リットルとは驚きだ。ざっくり、成人の血液が4~6リットル程度なので、全血液が1日に30~45回ほど(!)尿となり、回収されている計算になる。
他にも、脂肪、筋肉、骨からも情報は発信されているし、腸がどれほど健康に寄与しているかも明らかにされる。腸どころか、腸内細菌も健康に大きな影響を与えていることも。
がんもまた、体内ネットワークを利用している。ということは逆に、体内ネットワークからがん由来の情報を締め出してやれば、がん対策にもなる可能性もある。これについても本書には面白い事例が載っているので、興味がある方はぜひ眺めてみてほしい。
我々はつい、思考する部分こそが命の根源と考えてしまいがちだが、臓器同士のネットワークこそが生命活動の本質とも思えてくる。生命に対する見方まで改めなければいけない気がしてくる、刺激的な本であった。
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