私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫) (2007/10/16) 島村 英紀 商品詳細を見る |
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国際的に有名な地震学者が逮捕された。ノルウェーとの共同研究で、地震計の代金として払われた2000万円を詐取した、という詐欺罪である。
しかし、実際はノルウェー側は研究資金を得るために機材を購入する形だけは取りたかったため、共同研究費を購入資金っぽくしただけの話であり、共同研究費を受け取って管理するルールが著者の勤めていた北大には無かったため、その資金が個人の口座に振り込まれた、というだけのことだったようだ。
事実、その後の検察の調べでも、その資金を私的に使用した形跡は見当たらず、それどころか詐欺にあったとされるノルウェー側は詐欺に遭ったとは思っていないとはっきり述べている。
それなのに、著者は逮捕された。そして、接見禁止のまま保釈もされず、拘留期間は171日にも及んだのである。
だが、著者はめげない。科学者らしく、自分の身に降りかかった理不尽な事件を冷静に分析している。逮捕の瞬間、取り調べ(幸いなことに、検察お得意の拷問は無かったようだ。拷問についてはこちら参照。机の下に被疑者を蹴れないよう透明な板を巡らしました、なんて威張ってちゃダメだよな)、それに収監中の生活、とりわけ食事事情。
友人はおろか家族とも連絡が取れない中での唯一の楽しみだからであろうか、食事に何が出たか、かなり詳しく記録にとっているし、豪華だったときのうれしさは素直に伝わってくる。
驚いたのは、ほぼ監禁されているにも関わらず、そのダメージが少ないように見えるところ。研究で長く船上生活を送った経験が役立ったのだろうか。私だったら、自由がない、本もない、誰とも話もできない、で犯罪を認めろと言われ続けたら心が折れそうだ。
結局、著者は171日に及ぶ拘禁をなんとかやり過ごし、そして裁判で敗北する。詐欺に遭ったと思う人も居ない、不適切な金のやり取りはない、金の私費への流用はない。どうしてそれで有罪にできるのか。この国の裁判官は検察の方しか見ていないという現実がある。著者が指摘する通り、判決は勿論、起訴に至るまでの流れはほぼ検察の狙い通りになる。濫用される法、被疑者を尊重しない司法。
この国の司法の現実にぞっとする。罪を犯さないことが重要じゃない。警察に捕まらないことが重要。捕まれば、罪人に貶められる。そんな悪夢のレールから逃れられる人は少ない。著者はその稀有な例外であろう。その強さを見習いたいものだ。
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