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Skywriter

Author:Skywriter
あまり一般受けしない本ばかりが好きと言う難儀な管理人です。
お勧めした本を面白いと思ってもらえると最高です。

BK1書評の鉄人31号。
鉄人


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1409冊目 珍獣病院 ちっぽけだけど同じ命
珍獣病院 ちっぽけだけど同じ命珍獣病院 ちっぽけだけど同じ命
(2011/07/22)
田向 健一

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評価:☆☆☆☆☆


 図書館で、若者向けの棚にあるのを発見して借りてきた本。対象は中高生らしく、難しい感じにはルビがふってある。恐らくは子どもたちに命の大切を教える役割も期待されている本だろう。だが、こんな面白そうなタイトルを見てしまっては読まないわけには行かないではないか!

 本書は田園調布で動物病院を営む著者が、これまでに経験したびっくりするような話を多数収めたものだ。著者は2003年に開業するに当たり、"この病院に連れてこられたどんな動物でも診る努力をしよう"と心に決めた、という。多くの病院は犬か猫しか診ないとのことで、その姿勢の違いが際立つ。

 実際、その決意は伊達ではない。お陰で著者が診た動物は、ウサギ、ハムスターといったかなり飼われているものから、リスザル、フクロモモンガ、アリクイ、カメ、カエル、イグアナ等々、滅多にペットとしては飼われていないだろう動物に至る。

 石を飲み込んでしまった体重2.8gのカエルから開腹手術で石を取り出したり、トカゲを切開して腸閉塞から助けたり、飼い主が善意で与えた間違った食べ物で困ったことになった動物を救ったりと、将に七面六臂の大活躍だ。

 特にストレスで羽毛を抜いてしまったインコの話には笑った。飼い主に何か変わったことが無かったかと聞いたら、最近猫を飼い始めたのだが、その猫がインコの檻の前でじっとインコを見ている、という。そりゃあ捕食者にずっと見つめられてたら生きた心地もしないよね(笑)

 うちも少し前まで犬と一緒に暮らしていたので、獣医さんには本当にお世話になった。拾ってきたので初期投資はゼロだったのに、障子は破壊するわ(今に至るも我が家の和室はすだれカーテンで誤魔化している)、部屋の隅に設置したケージには頑として入らずムダにするわ(今となってはそれで良かったと思っている)、老いてはキッチンマットの上を自分のトイレと決めてくれたお陰でペットシーツを毎晩敷き詰めなければならなくなったりした。しかも、器用なことにシートとシートの境目にオシッコするので毎回複数枚が消費されるという飼い主の懐に優しくない犬だった。

 そんな子だったが、心臓が弱く、事あるたびに面倒を見てもらっていたわけです。彼は、結局8年しか我が家に居てくれなかったけど、獣医さんたちが居なければその期間はもっとずっと短かっただろう。

 だから、カエルでも手術して助けてあげたいという飼い主の気持ちは分からないでもない。自分ならそうまでしてカエルを飼うことはないだろうけど(笑)

 それにしても、小さな動物の手術は大変だ。動物は1%程度の出血は平気だというが、体重30gのハムスターとなるとたった0.3gで1%となってしまう。いやはや、それを手術しろと言われても、私にはムリだ。プロはやっぱり凄い。

 思わずニヤニヤしてしまうような楽しい話もあれば、動物の殺処分のように、深く考えさせる話もある。それらを貫いているのは、子供の頃からの筋金入りの動物好きだったという著者の想い。どんな動物にでも愛情のある筆致で書かれているので、読んでいてとても楽しい。

 いつかまた動物を飼うことがあると思うが、そのときにはまず正しく飼う努力をして、そして必要な時にはきちんと獣医さんに診てもらうようにしよう。それが、命を預かる者の責務だろうから。
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ノンフィクション | 2014/03/31(月) 19:34 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1408冊目 奇跡を起こした村のはなし
奇跡を起こした村のはなし (ちくまプリマー新書)奇跡を起こした村のはなし (ちくまプリマー新書)
(2005/03)
吉岡 忍

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評価:☆☆☆☆


 地方の衰退が叫ばれて久しい。まあ、当然だろう。バブル時代に糞の役にも立たない下らない箱物に大量の資金を投入して、カネを無駄に使うだけ使った挙句に、都市にまたまたカネを無心するような、そんな乞食根性丸出しの地方は潰れていくしかない。ただでさえ日本が沈没寸前なのだ。というか、時間の問題で、誰もが見て見ぬふりをして誤魔化しているだけの状況なので、このまま破局にぶち当たった時が恐ろしくてならない。困窮した地方は何をやっているのか?呆れたことに、今も公共事業一辺倒だ。しかし、それは地方の地力をつけることにはならない。それとも、未来永劫道路を作り続けるっていうのか?それだけカネを吸い取っていながら、魅力的な産業はないから若者は残らない。無限に続く負の連鎖だ。

 だが、新潟県北東部にあった、黒川村(合併により胎内市となっている)は、そんな凡百の地方ではない。徐々にだが、人口を増やすことに成功する、稀有な村だ。そこが本書で描かれる、奇跡を起こした村のことである。

 何が奇跡なのか?それは、村営の様々な事業がどれも成功していること。その点、大量のカネを投下しておいて大損ぶっこいて、自分たちだけは高給を取っていた無能な天下り官僚どものやることと大違いだ。大量のカネを使い放題で損するだけで高給取れるなら、俺だってできるわ、ボケ。

 話が逸れたが、黒川村では事業を起こすとなると、きちんと採算がとれるか考える。勿論、カネを投下するだけで、利益を上げることなど望むべくもないこともある。公共サービスはそうだし、教育も同じだ。しかし、村営のレストランやビール工場、酪農諸々は、きちんと利益を得ようと思えば得られる。だから、カネの垂れ流しにはならず村の発展につながる。産業があるから若者も村に残る。

 本書の主人公は、この仕組を作った伊東孝二郎村長。およそ半世紀に及ぶ村長時代、若者を次々と海外留学させて農業を学ばせたり、役場で働く人々を一流ホテルで働かせてサービスとはどのようなものか学ばせたりと、意欲的なことを次々と実施してきた。始めたことはやり通す、合理的な理由でダメということが分かればきちんと撤退する。そうして村を発展させてきた。

 それでも村長時代は順風満帆とは行かない。特に、黒川村が洪水被害に見舞われた時がそうだっただろう。しかし、それすらも村をより魅力的な場にするための機会に変えてしまった手腕には脱帽だ。なんとか資金をかき集めるために勉強を怠らない。そして、単なる復旧ではなく、改良復旧を遂げる。特に、災害復旧や本当に必要なことになら、きちんと税金を使うべきだ。その見極めをしっかりできる人をリーダーに頂いた黒川村は本当に幸いだったと言えよう。

 将に奇跡とも言える事業を成し遂げたこの村のことが、こうして広く知られる形になったのは素晴らしいことだと思う。特に地方の自治に関わる方には参考になることが多いのではないか。 
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ノンフィクション | 2014/03/30(日) 19:58 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1407冊目 魔女の黒髪 天使の金髪―カミが見ていた世界の歴史
魔女の黒髪 天使の金髪―カミが見ていた世界の歴史魔女の黒髪 天使の金髪―カミが見ていた世界の歴史
(1994/11)
夏森 恩

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評価:☆☆☆


 随分前、同僚と帰宅中に話の流れで、「Skywriterさんはどんな女性がタイプなんですか」と聞かれたことがある。「取り敢えず、ロングヘアで胸の大きな女性には弱いです」と答えたところ、「それ、大抵の男は弱いんじゃないですか」と、ベタさに呆れられたものであるが、なんと言われようとも黒髪のロングヘアは心を掴むアイテムですよね。

 本書に拠れば、日本人は世界一ロングヘアが好きな人種らしい。勿論、そんなものが遺伝に組み込まれているわけはなく、文化的・歴史的な所産なのであろう。ロングヘアが人気あるのはそれだけ健康な証拠で遺伝子に刻まれている云々はちと怪しい。

 では、いつからの歴史だろうかというと、きっとそれは平安時代である。貴族女性が身長を超えるほどのロングヘアだったことから、今で言うところのセレブへのあこがれ的な何かがあっただろう。やがてそれは遊女たちの豪華な髪型へと姿を変え、やがて今の形に進化してきた。というわけで、身近なところでも歴史の流れがあって良い。

 ともあれ、本書はこうした髪にまつわるエッセイである。タイトルでは黒髪と金髪が並んでいるが、実際にはほとんどが黒髪、つまりは日本人(すこしアイヌ人についての記載もあり)に割かれている。しかも、歴史についての話が多いので、やや文化史的な風に感じられる。日本人形や、記紀神話にも触れられていることに見られる視点の広さも良い。

 江戸時代は自由な髪型など無く、身分や年令によって髪型が決められていたなんていう記述を読むと、そんな不自由な時代に生まれなくて本当に良かったと思う。

 逆立つ髪についてもあったが、それを書くなら『史記』廉頗(れんぱ)藺相如(りんしょうじょ)列伝で、藺相如が趙の使者として秦に使いし、秦王の(それも、泣く子も黙る昭襄王だ)恫喝にも怯まずに宝玉"和氏の璧"を持ち帰ったときのエピソードにある、"怒髪天を衝く"を入れて欲しかったな。尚、"完璧"の言葉は(和氏の)璧を完(まっ)とうする、の意味で、この時の故事から生まれております。しかも、"刎頸の交わり"もこの列伝からならので、故事成語が好きな方は是非是非。

 ともあれ、髪について縦横に語ったエッセイ。もっと実証的だったり文献引用が多い方が私の好みだが、それでも楽しく読めた。
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エッセイ | 2014/03/29(土) 19:33 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1406冊目 街路樹を楽しむ15の謎
街路樹を楽しむ15の謎街路樹を楽しむ15の謎
(2013/04/17)
渡辺 一夫

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評価:☆☆☆


 殺伐とした、というより他人に無関心な(それはそれで居心地良いのだけど)街にあって、我々の目を和ませてくれる街路樹。なんとはなしに目に入るだけでどこか心を落ち着かせてくれる存在だ。本書はそんな街路樹を15種取り上げ、なぜ街路樹として選ばれたのか、利点と欠点は何かといったトリビアに加え、それぞれの木にまつわるエピソードを載せている。

 タイトルはやや偽りありで、15の謎というよりは15種の街路樹についての物語となっている。取り上げられているのは以下の15種。

ケヤキ
ナンキンハゼ
イチョウ
ソメイヨシノ
キョウチクトウ
ハナミズキ
ニセアカシア
コブシ
シダレヤナギ
ポプラ
プラタナス
ヤマボウシ
トチノキ
タブノキ
ナナカマド

 これらの樹がどうして街路樹として取り上げられたのか、流行に翻弄されてきたかを見ると、街路樹に相応しい特性という単一の価値観で選択されていないことが面白い。

 例えば寿命が短いとか、根の張りが弱く比較的倒れやすいと言った欠点を持つ街路樹もある。もっとも、それは早く育つという利点と背中合わせの特性であり、利点を得るためには欠点も甘受しなければならない、というよううな関係であることが多い。

 意外なことに、ポプラも街路樹には向いていないらしい。それでもポプラが残っているのは、その他の要因、人の好みが反映されたものなのだろう。父方の田舎である北海道に帰ってポプラ並木を見た幼少時代が懐かしく思い出される。

 花や紅葉といった美点、成長の速さ、排気ガスや踏まれることに強い、といったように、街路樹ごとに違いがあるのが面白い。また、シダレヤナギは奈良時代からのクローンである(秋に芳香を楽しませてくれるキンモクセイもクローンだ)とか、キョウチクトウは美しいが毒を持つとか、姿を消しつつあるニセアカシアとか、そういうエピソードを見ると、普段はただ目に映るだけの街路樹が、どこか身近になったように感じられた。
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ノンフィクション | 2014/03/28(金) 23:38 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1405冊目 居酒屋の世界史
居酒屋の世界史 (講談社現代新書)居酒屋の世界史 (講談社現代新書)
(2011/08/18)
下田 淳

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評価:☆☆☆


 なんとも気宇壮大なタイトルである。なにせ、居酒屋の、世界史だ。読んでみた感じだと、世界史というよりもユーラシア史といった趣きのある感じがしたが、それでも東西の居酒屋事情をまとめていることには、まずその努力に敬意を評したい。

 さて、居酒屋は何時からあったか、ご存じだろうか?その質問に少しばかりのヒントになるであろうことは、酒の醸造はいつ始まったか、であろう。ビールは遅くともメソポタミア文明が栄えた時代、紀元前3500年ほどには作られていた。ピラミッド造りに従事した人々への給与はパンとビールだったと言う。ワインはもっと古く、紀元前6000年ごろには飲まれていたらしい。ワインは放っておくと糖分で勝手に発酵してワインになるので、酵母を必要とするビールより歴史が古いのも頷ける。

 で、我らが居酒屋が歴史に登場するのは、紀元前18世紀のことである、という。かのハンムラビ法典に、ビールへの支払いについての規定があるそうだ。そうなると、人類と居酒屋の付き合いはおよそ4000年の長きに渡る、ということになろう。

 この居酒屋が歴史的な役割として担ってきた役割を、本書では"農村への貨幣経済の浸透"、"居酒屋の多機能性"、そして"棲み分け"のキーワードを多用しながら論じていく。

 貨幣経済の浸透は、そもそもそれが無ければ酒を提供する代わりに金を受け取ることができないから当然のことであろう。では、多機能性とはなんだろうか?それは、嘗ては居酒屋が、ただ酒を飲む場というだけに留まらず、結婚式の場であったり売春が蔓延っていたり、社交の場であったりしたことを示している。多くの男にとって、酒と女は情熱の対象であったわけだから当然といえば当然のように世界中で居酒屋と売春が結びついてようだ。

 中には居酒屋の店主が強盗団と結びついていたというようなこともあったようで、先日読んだばかりの『アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド)』にも書かれていた現代とは価値観の違う世界を垣間見ることができた。

 ヨーロッパを中心に、中国や日本、中東と幅広く居酒屋の歴史を扱っている意欲作ではある。ただ、中国関係の話題はちょっと怪しい。

 中国での居酒屋は前漢からとある。しかし、『史記 本紀』(ちくま文庫)の高祖本紀は、劉邦についての記事であるが、そこに”高祖は酒と色を好み、いつも王媼と武負の二軒の酒屋へでかけ、掛けで酒を飲み、酔うてはその場に醉い臥した”云々とある(P.237)。

 漢の法律で集団での飲酒が取り締まりの対象だったというのは事実であるが、居酒屋の成立は少なくとも漢よりも前は確実。法律の厳しかった秦より遡るであろう。

 刺客列伝の荊軻の条では、荊軻は酒を好み、”荊軻は酒が好きで、日ごとにその犬殺しや高漸離といっしょに燕の街で酒を飲み、酒の興が高まってくると、街のまん中で、高漸離が筑をうちならし、荊軻が筑にあわせて歌い、楽しんだが、やがていっしょに泣き出し、そばに人無きがごときありさまであった”とある(『史記 列伝二』岩波文庫)。これも酒屋があった証拠では無かろうか。

 余談だが、”そばに人無きがごときありさま”は原文では傍若無人であり、これがこの故事の出典であります。

 というわけで、怪しい記述はあるにはあるが、居酒屋とはどのようなものかというところに遡って歴史を眺めさせてくれるのは利点。イスラム圏でも居酒屋はほそぼそと生き残ってきたというのも面白い。ある意味で人類史を巡るノンフィクションであると言えよう。
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ノンフィクション | 2014/03/26(水) 19:44 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1404冊目 世にも奇妙な人体実験の歴史
世にも奇妙な人体実験の歴史世にも奇妙な人体実験の歴史
(2012/07/06)
トレヴァー・ノートン

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評価:☆☆☆☆☆


 人間の体はどうして死ぬのか。定性的に言うのは簡単だ。酸欠、潜水病、感染症、低圧、高温、低温、エトセトラ。しかし、医学を科学たらしめるにはそれだけでは足りない。なんとなれば、そこには"どれくらい酸素が無ければ人は酸欠で死ぬのか"だとか、"どのようにすれば人は感染症に罹るのか"、"どれほど高くに登ればどれほどの危険があるのか"といった、定量的な議論がないからだ。

 しかし、それらの問いに答えるのが難しいのは分かろう。なにせ、それらを知るためには、死なないギリギリを知らなければならないからだ。答えを知るには、死にかける人が必要となるのである。

 本書は、その謎に挑んできた人々の戦いの記録である。

 人体実験には2種類ある。ひとつは、ナチスや731部隊で実施していたおぞましい類。それは、他者の体を用い、しばしば実験者の好奇心を満たすためだけに他者の命を易易と奪うことになったもの。しかし、本書はそんなものを取り上げているのではない。もう一つの、人体実験でありながら気高く、勇気に溢れたものである。なぜそう言えるのか?それは、実験に用いる体が自分のものだから、である。

 冒頭を飾るのは、かのジョン・ハンター(尚、彼は先日レビューした『
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』のダニエル先生のモデルである)。彼は思った。梅毒と淋病は進行段階が違う一つの疫病なのではないか?と。思ったからには実験する。自分の体で。その結果、彼は淋病にだけ罹るつもりで梅毒に罹ってしまうのだ。二つは異なる病気なのだから当然といえば当然かもしれない。

 本書にはこれに類する話題がぎっしりと詰め込まれている。麻酔の効き目であったり、どんなものを食べることができるのかだったり、寄生虫感染症との戦いで住血吸虫症を研究するために自分が感染してみたり、プルトニウムの吸入実験を行ってみたり、栄養不足で何が起こるか確認してみたり、自分の心臓にカテーテルを通してみたり、爆発や毒ガスに身を晒してみたり、大西洋を漂流して海水の飲用可能性を確かめたり(少量ずつであれば問題ないらしい)、サメの生態を確認しようと一緒に泳いでみたり、遥か海底や上空に挑んだり。

 その性格上、医者の話題が多い。黄熱病の感染経路を確認するためのボランティアが黄熱で死亡したり、エボラを封じ込める中でも患者は助けようと救助に向かい命を落とした医師もいる。だが、彼らは自分の命が失われることですら、知を発展させるためには惜しくないと思っていた。彼らの偉大なチャレンジがあって、今の我々がいる。そこには本当に感謝だ。

 この手の話題になったら確実に顔を出す、科学史を彩る奇人変人の中にあっても永遠にその名を留めるであろうJ・B・S・ホールデンはやはり健在。潜水病の解明、ナチスの使う毒ガスから兵士を守るために塩素ガスの充満する部屋でテストに励んだり。彼の姿を見るためだけでも本書を読む価値があると言えるほどだ。

 戦場で命をかけることばかりが勇気じゃない。勇気と使命感と、そして好奇心に満ちた人々の熱い戦いを描いた一冊。意外な視点から人類の知の歩みを明らかにしてくれているところがたまらなく面白かった。


関連書籍:
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)
(2013/09/05)
皆川 博子

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自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝自分の体で実験したい―命がけの科学者列伝
(2007/02)
レスリー デンディ、メル ボーリング 他

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人間はどこまで耐えられるのか (河出文庫)人間はどこまで耐えられるのか (河出文庫)
(2008/05/02)
フランセス アッシュクロフト

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医学・脳・精神・心理 | 2014/03/25(火) 19:50 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1403冊目 ゼロからトースターを作ってみた
ゼロからトースターを作ってみたゼロからトースターを作ってみた
(2012/09/14)
トーマス・トウェイツ

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評価:☆☆☆☆


 いったい、どうやったら石ころがトースターになるんだ?そんな疑問を抱いた著者は、物凄いチャレンジに挑む。トースターをゼロから作る、という。

 ゼロから、という定義が半端ではない。鉄やプラスチックのような素材は、原料から成型まで自分でやる。そんなことができるのだろうか?

 まずはリバースエンジニアリングから、というわけで、トースターを分解し、どのような部品があるのかを調べるところから始まる。そこで、既に困難は見えてくる。あの安価なトースターに、かなりの数の部品が使われているのである。

 困った著者は、大学教授に助けを求める。そこで語りあったことは、手軽なトースターの作り方なんてものではなく、人類の文明史まで感じさせられそうなものだ。材料科学が文明を支えていることが感じられる。

 素材ごとに分け、それらをどう組み立てるか考える。と言っても、やはり難しいのは成型ではなく、部品を作るところ。

 鉄の部品を作るために、まず訪れるのは鉱山。そこで鉄鉱石を入手したら、鉄の精錬だ。それを考えただけで途方に暮れるしか無い気がする。何とかして鉄を作ったら次はマイカ(これは天然素材なので比較的簡単そうだ)、プラスチックと進むが、プラスチックは大変だぞぅ。近代文明に至るまでプラスチックが無かったのは、そこに膨大な化学反応が絡むからだ。

 ところが、この難関すら突破して、銅、ニッケルへと進む。いやはや、その不屈の闘志には頭が下がる

 最終的に、"時間にして9ヵ月、移動距離にして3060キロ、そして金額にして1187.54ポンド(約15万円)"をかけて、トースターは完成する。身近にある安価な電化製品ですら、一人の力で作るのはほぼ不可能だ。それなのに、衆知を結集し、労働力を集約することで、我々は便利な暮らしを手に入れた。そのありがたさを感じさせてくれる。

 では、肝心のトースターは働いたのだろうか?その答えは、是非本書を読んで知ってほしい^^
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技術 | 2014/03/24(月) 19:01 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1402冊目 アルモニカ・ディアボリカ
アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド)アルモニカ・ディアボリカ (ミステリ・ワールド)
(2013/12/19)
皆川 博子

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評価:☆☆☆☆


 18世紀のイギリスを舞台にした『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― 』の5年後を描いた続編である。というわけで、前作で出てきた魅力的な登場人物たちが本作でも活躍するのが楽しめる。しかし、これはレビューが難しい。何を書いても前作を読んでいない人へのネタバレになってしまいそうだ。

 なにせ、前作で解剖医ダニエル先生の家の暖炉から解剖用に墓盗人から買った死体の他に2つの死体が出た以上、犯人はどう考えてもダニエル先生の関係者だ。今作で登場人物の名前を書いただけで、誰が前作の犯人かのヒントを与えてしまう。というわけで、前作を未読の方のために、ネタバレにならない程度に。

 盲目の判事ジョン・フィールディングの下で犯罪抑止のための新聞づくりに励むことになったダニエル先生の弟子たち。そこに、変わった依頼が舞い込む。自領で見つかった死体に、"ベツレヘムの子よ、よみがえれ! アルモニカ・ディアボリカ"との謎の文句が書かれていたのである。

 ベツレヘムの子とは何なのか?それにも増して、アルモニカ・ディアボリカとは一体何なのか?その謎は、5年前の事件へと彼らを導くのであった。

 18世紀のイギリスの雰囲気をよく表しているのが魅力なのは変わらない。ヒ素による毒殺の可能性だとか、馬車での旅の苦労だとか、よく調べて書いているなぁと感じさせる。いや、本当は感じさせては行けないのかもしれないけれども、そこに目が止まるわけですよ。

 ただ、一般には金持ちと貧乏人では貧乏人のほうが先に目的地につくはずなのだ。金持ちは自分の馬に馬車を引かせるので、一定距離を進むと馬の体力が回復するまで出発できないが、貧乏人は乗合馬車なので途中で馬が変わるので、体力回復を待つ必要がない。というところでちょっと疑問を持ったが(小うるさい読者でスミマセン)、他は素晴らしい。

 更に謎は続く。ある少女が行方不明になった恋人の行方をケンタウロスの見世物(両足を失った男性に馬の剥製を繋げたもの)に訊いたら、その人物はベツレヘムにいる、というのだ。

 死体に書かれた文句と行方不明の少年のつながりのように、幾つもの謎が複雑に絡み合って、容易に先を読み通せない。深みを感じさせるミステリである。このシリーズ、ミステリファンはきっと楽しめると思うので、機会があったら是非手にとって見てください。



関連書籍:
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)
(2013/09/05)
皆川 博子

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推理小説 | 2014/03/23(日) 19:17 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1401冊目 僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。――東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑

僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。――東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。――東大発バイオベンチャー「ユーグレナ」のとてつもない挑戦
(2012/12/19)
出雲 充

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評価:☆☆☆


 ユーグレナという会社がある。バイオベンチャーで、売っているのはミドリムシだ。

 ミドリムシには懐かしい響きがある。中学校の理科で、ミカヅキモだとかゾウリムシとかミジンコと一緒に教わる生き物だ。ヤツらが特殊なのは、葉緑素を持つ植物でありながら、運動能力を持つ動物でもあるところ。

 確かにユニークな生き物かもしれないけれど、売れるほどのメリットがあるのか?という疑問が沸くが、それが大有りなのだ。何の役に立つのか?それを知るには、まず社会問題を見つめる必要がある。

 南北問題とも称される、先進国と途上国を隔てる大きな差の一つに、飢えがある。と言っても、きっと飢えという言葉から抱く印象とは異なっていよう。なにせ、途上国では肥満が深刻なのだ。それなのに、彼らは飢えている。なぜか?それは、足りているのはカロリーで、その他の必要な栄養素が足りていないから。モノカルチャー経済による穀物の大量生産によって、カロリーベースでは満たされる人が増えているだけだ。

 しかし、そこから先は難しい。ビタミンやミネラルに富んだ野菜や動物性蛋白質をどうやって届ければ良いだろう?

 居るじゃないか。ミドリムシが。彼らは動物であり、植物である。ということは、彼らは動物の栄養も、植物の栄養も作る、と言えるのだ。本書はこのミドリムシ、学名ユーグレナに賭けた人物の物語である。

 なぜ著者がミドリムシに魅せられ、全てを投じるようになったのか。その理由を追いかけると、多くの社会問題が立ち現れてくる。資源問題だったり、貧困問題だったり。そうした問題に対して、ミドリムシができそうなことは実に多いことが分かる。

 特に飛行機のジェット燃料にミドリムシから得られた成分が利用できそうだというのは実に興味深い。まだまだ研究途上のようだが、今後の進展に自ずと興味が湧いてくる。

 この、利用できる便利な道具であるという側面に加えて、ベンチャービジネスを立ち上げた半生という点も特筆できよう。事業を起こすには何が必要か、将来企業を考えている人にはヒントになることも多そうだ。
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未分類 | 2014/03/20(木) 19:38 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1400冊目 植物のあっぱれな生き方 生を全うする驚異のしくみ
植物のあっぱれな生き方 生を全うする驚異のしくみ (幻冬舎新書)植物のあっぱれな生き方 生を全うする驚異のしくみ (幻冬舎新書)
(2013/05/30)
田中 修

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評価:☆☆☆


 植物は、苦労知らずに見える。日々の糧を得るためにあくせく働く人間を尻目に必要な栄養は光合成で得ることができるので、彼らはただ立っていれば良い。動く必要がないということは、大量のエネルギーを消費する脳のような非効率的組織を抱える必要もない。

 だが、植物を取り巻く社会はそれはそれで、やはり生きていくのが難しい。草食動物がやってきては食べられてしまったり、多雨や乾燥や火事にやられることもある。

 こうした危機のうち、植物が耐えられないものも勿論存在する。しかし、実に多くのピンチを、植物は乗り越えられるように進化してきた。その結果、彼らは見た目からは信じられないほど色々な技能をも身につけている。

 例えば、春になったら一斉に色とりどりの花が咲き乱れる。あの開花のタイミングは、精緻なスケジュールに基いて決まる。冬の間に花が咲いてしまったら、受粉が不可能だ。だから、夜の長さを正確に計り、頃合いは良しと見るや、一気に花を咲かせるのだ。

 植物のライフサイクルは、驚くほど正確にコントロールされている。本書はその植物の姿に迫る意欲作。

 食べられないように毒を持ってみたり、子孫を残すために性戦略を発達させていたり、簡単に死なないような仕組みが備わっていたりと、タイトル通り実にあっぱれな姿を見ることができる。

 その植物を、我々はうまく利用もしてきた。彼岸花に毒があることは知っていたし、経験上、墓場で見ることも多いとは思っていたが、あれは土葬していた時代、小動物が遺体を食い荒らすのを防ぐためだったという。知らなかった!

 と、トピックは面白いものが多いのだが、文章がややくどいかな。短い間に同じような内容が繰り返されるので飽きてくる。そこがちょっと残念だが、植物の意外な姿を教えてくれるのには感謝。
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生物・遺伝・病原体 | 2014/03/19(水) 19:11 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1399冊目 この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義
この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義この社会で戦う君に「知の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義
(2012/11/15)
池上 彰

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評価:☆☆☆


 タイトルの大仰さが良いねぇ。「知の世界地図」ですよ!自身はむしろ痴の世界の住人でありながら知に憧れるワタクシメとしては、こんなタイトルを見たら放置するわけにはいかんわけです。

 最初のページ、"東京電力福島第1原子力発電所で事故が発生した後、記者会見やテレビで解説する専門家たちの発表や説明が、視聴者や読者にとって理解不能であったのは、どうしてなのか。専門家たちに、「わかりやすい伝え方」の能力が欠如していたからではないか"とあって、そうか、一般人(というか、理系教育を受けていない人)にはあの説明は分からなかったのかとちょっと別の意味で感慨深かった。

 苦言を呈するのが、分かりやすい説明で定評のある池上さんとあらば、ぐぅの音も出ないだろう。

 本書は、その池上さんが世界はどのように動いているかについて、東工大で講義した内容をまとめたもの。目次を見ただけで、その扱う領域の広さに舌を巻く。

1.科学と国家 実は原爆を開発していた日本
2.国際情勢 世界地図から見える領土の本音
3.憲法 日本国憲法は改正すべきか?
4.金融 紙切れを「お金」に変える力とは
5.企業 悪い会社、優れた経営者の見分け方
6.経済学 経済学は人を幸せにできるか
7.世界経済 リーマン・ショックとはなんだったのか?
8.社会保障 君は年金に入るべきか
9.メディア 視聴者が変える21世紀のテレビ
10.宗教 オウム真理教に理系大学生がはまったわけ
11.社会革命 「アラブの春」は本当に来たのか?
12.アメリカ 大統領選でわかる合衆国の成り立ち
13.中国 なぜ「反日」運動が起きるのか
14.北朝鮮 "金王朝"独裁三代目はどこへ行く
15.白熱討論 君が日本の技術者ならサムスンに移籍しますか?

 15は学生にプレゼンの仕方を教えるのが目的みたいな感じなので、正直読む必要を感じなかったが、それを含めたとしても論点をしっかり押さえながら分かり易く噛み砕いて説明しているのに脱帽した。知っていたことも多かったが、知らなかったことについてはかなり理解できた気がする。忘却力に人一倍、いや、人三倍くらい優れた能力を持つ私の事、一週間後には記憶の彼方に消え失せていようとも。

 一方で、それぞれのトピックについての掘り下げは十分とは言えないように思える。なので、興味をもった人は関連する本をガンガン読むべきなのだろう。

 ただ、10の"オウム真理教に理系大学生がはまったわけ"は、もうタイトルからして間違いだ。実際は、オウム真理教に入信した信者の文系理系比率は一般社会と変わらない。オウムはその邪悪な目的を達成するために、理系学生の能力を必要としたから高い地位に付けただけだ。

 「知の世界地図」というが、少なくともここ最近の200年くらいで最も知を積み重ねてきた科学分野はほとんど全く触れられていないし。(原爆で少々触れられているが、それも日本の核戦略についてに過ぎない)

と、理系出身者としてはやや違和感を感じた所もあるが、取っ掛かりとして読むには良さそうだ。
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ノンフィクション | 2014/03/18(火) 19:16 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1398冊目 ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見
ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見 (幻冬舎新書)ベテルギウスの超新星爆発 加速膨張する宇宙の発見 (幻冬舎新書)
(2011/11/29)
野本 陽代

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評価:☆☆☆☆


 法学部出身ながら、科学系の本の翻訳者、あるいは一般向けの科学書の著者として有名な野本陽代さんが、最新の天文学の世界を優しく教えてくれる本。

 まず、タイトルに名前の見えるベテルギウス。オリオンの右肩に当たる赤い星は、既に晩年を迎えているようだ。そして、あのくらいのサイズの星は、超新星爆発を起こすものと見られている。つまり、ベテルギウスの超新星爆発は近い、ということである。

 それにしても、寿命が何億年、何十億年という星の寿命が近いとか生まれたばかりなどとどうすれば分かるのだろうか?驚くべきことに、それは観測から導き出された。ベテルギウスのサイズが15パーセント程も縮んだことが分かったのだ。冬の夜空を明るく飾る存在ではあるが、太陽からはるか640光年余り離れている星のサイズが分かるほど精緻な観測ができるというのは、技術の凄まじさを語るものであろう。

 ベテルギウスの超新星爆発が起これば、それはここ数百年来で最大級の天体ショーとなることだろう。そこから話を初め、主系列星と呼ばれる典型的な星が辿る一生、その最期を彩る超新星爆発、そこで作られる重元素、と話題が豊富で読んでいて楽しい。

 遥か離れた銀河までの距離をどうやって求めるか?その一つにセファイド型変光星と呼ばれる星の、周期的な明るさの変化を追う方法がある。その驚くべき発見を語りながら、学術的な成果を紡ぎだすのに裏方として活躍した多くの無名の女性達のことを書いているのも、発見の裏にどれほど多くの力が注がれていたのかを感じさせてくれる。その成果を簡単に知ることができることもまた、実に素晴らしいことだ。

 宇宙の大規模構造や、膨張が加速している証拠など、最先端の知識も触れているし、望遠鏡の技術的な困難さにも言及するなど、本当に広く論じている。新書に求められる役割通り、入門書として宇宙への興味を感じさせてくれる絶好の書。
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素粒子・宇宙論 | 2014/03/17(月) 19:52 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1397冊目 開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―
開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU― (ハヤカワ文庫 JA ミ 6-4)
(2013/09/05)
皆川 博子

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評価:☆☆☆☆


 舞台は、18世紀のロンドン。そこは、今の常識からはかけ離れた世界であった。その一つに、解剖が禁じられていたことが挙げられよう。恐ろしいことに、当時の医者になるためには死体の解剖はできず、徒弟制度はあってもいきなり行きた人間を相手に切った貼ったをやっていたのである。『死体はみんな生きている』で描かれる、死体を徹底的に生者のために利用せんとする現在とは大違いだ。

 しかし、解剖の必要性を強く感じる者もいる。そういう人々はどうしていたのだろう?答えは、こっそりと死体を掘り出して、バレないようにやってしまう、である。死体を必要とする医者のために墓を暴いて新鮮な(?)死体を売っていた者もいた。

 本書は、非合法に入手した死体を解剖しようとしている医者の解剖室で幕を開ける。妊娠6ヶ月の若い女性の遺体。妊婦の死体は珍しく、早速解剖に取り掛かろうとする医者と助手たちだが、困ったことに、そこに警察が乗り込んでくるのだ。慌てて暖炉の後ろに死体を隠し、なんとかその場を乗り切ったのは良いが、解剖を再開しようと見たところ、そこにあったのは四肢を切断された少年の死体であった。しかも、妊婦の死体を取りに暖炉に潜り込んで発見したのは顔を潰された男の死体。

 斯くして、妊婦の死体一つを解剖するはずが、意図せずして三つの死体を得てしまった医者たち。妊婦の遺体は兎も角、残りの死体は一体どうしたことか?

 と、ややユーモアがかった始まりを見せるミステリ。

 まず、四肢を切断された少年と顔を潰された男は何者なのか?どうして解剖教室の暖炉に隠されていたのか?その大きな謎がある。やがて、少年の正体ははっきりする。地方からロンドンに出てきた、文学者を目指す世間知らずのネイサン。彼は、解剖教室の助手と友人だった。それは分かったとして、何故死体がここにあるのか、四肢が切断されているのは何故か?

 と、少しばかり謎が解けても、次から次へと新たなる謎が生じてくる。この謎の解決に当たるのが、盲目の捜査官と、彼の眼の代わりとして働く姪。女性が働くことなどほぼありえなかった時代に女性を活躍させるための上手い手だなぁと感心する。

 ミステリとしても十分に面白いし、夢を抱きながらも若い身空で横死することになったネイサン少年の短い生涯を追いながらロンドンの闇を見ることができるのも良い。

 本書が面白いのは、時代考証をしっかりとやっていることだろう。例えば皮をなめすのに犬の糞を使っており、犬の糞を集める職業まであった(だから、犬を飼っている人は基本的に自分の飼い犬の糞は拾わなかった)なんてこととか、殺人事件も親告罪なので訴える人が居なければ裁判にならない(!)とか、監獄では見せ者にされる刑があるとか、知っている人にはたまらないネタが散見される。

 という感じの、歴史とミステリが好きな方にはたまらない作品。


関連書籍:
死体はみんな生きている死体はみんな生きている
(2005/01/27)
メアリー・ローチ

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推理小説 | 2014/03/16(日) 19:43 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1396冊目 メモリークエスト
メモリークエスト (幻冬舎文庫)メモリークエスト (幻冬舎文庫)
(2011/07/07)
高野秀行

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評価:☆☆☆


 外国を訪れ出会った人。こちらが帰国してしまえばそれでもう会うことのない、そんな人をふと思い出すこともある。思い出してどうなるって?大抵は、どうにもならない。ああ、あいつどうしてるかな?と思って、それでおしまいだ。ほとんど全ての場合は。だが、例外もある。

 本書は、そんな"あの人どうしてるかな"を辺境作家として独自のノンフィクション路線を驀進する高野秀行が追ったものだ。

 絶対会えるわけ無いだろ!と唸ってしまうような依頼を受けて、取り敢えず旅立ってしまう著者。タイで出会ったスーパー小学生を探してくれ(場所がはっきり分らないどころか名前も分らない)とか、やはりタイで半分ストーカー的につきまとってきたガイドはどうしているかとか、どう考えても行くだけ無駄だ。

 ところが、思わぬ展開で手がかりが入手できてしまう。最初のスーパー小学生探しからして、友達の奥さんの出身地がそこの近くかも知れないというのが幸運の始まり。気がつけば場所が分かり、そこから新たな手がかりを得て調査は進む。実際に探し当てたかどうかは本書を当たってみて欲しい。

 全体的に、適当な依頼、つまるところは軽い好奇心くらいのものが続くのだが、4人めで切実になる。故郷から命からがら逃げ出そうとしているところを著者に助けられたコンゴ人を、著者が南アフリカに探しに行く旅だ。なにせ、国に戻れば命がない。着の身着のままたどり着いた南アフリカは、知っての通り世界でも有数の治安の悪さで悪名を馳せている。住所もわからない、連絡先も勿論わからない、そんな人を探しに行って会えるだろうか?

 5人目は、アメリカで出会ったユーゴスラビア人(そこから先の民族は分らないという)を探して欲しいという、編集者の奥さんからの依頼。なにせユーゴ紛争の後だ。生きているかどうかも分らない。

 さあ、高野さんの世界中を回る旅は、吉と出るか凶と出るか!?

 小説で書かれたら、「おいおい、幾らなんでもリアリティ無さ過ぎだろ!ご都合主義やってんじゃねぇよ」とツッコミを入れたくなるような、奇跡的な出会いが続くのが可笑しい。もう、高野さんには幸運の神様か何かが憑いているのじゃないかという感じがしてくるほどだ。相変わらずの妙な旅を楽しく読める一冊。
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ノンフィクション | 2014/03/15(土) 20:14 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1395冊目 下町ロケット
下町ロケット (小学館文庫)下町ロケット (小学館文庫)
(2013/12/21)
池井戸 潤

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評価:☆☆☆☆


 新開発のエンジンを積んだロケットは、異常振動によって保安コマンドによって破壊されるという結末を迎える。それは、1人の研究者の学者生命を奪うことになった。詰め腹を切らされる結果となったのが、本書の主人公である佃である。

 数年後、佃は家業である下町の中小企業を率いる身となっていた。しかし、ここにも危機が迫る。大口取引先から一方的な取引中止を告げられた上、ライバル企業でもある大企業が、メイン商品が特許権に抵触すると訴えてきたのだ。

 会社の存続すら危ぶまれる中で、それでもロケット部品の技術に夢を持ち続ける佃。その危機を乗り越えることはできるのか?

 と言ったストーリーで、ここから下町の小さな会社の巻き返しが始まる。外部からの圧力はものすごい上に、社内で内紛の種まで抱えた主人公は、夢を追うことができるか?

 物語の核には、主人公たちの会社が持つ特許がある。しかし、技術が中心になるかというとそうでもなく、むしろカネの動きとそれを巡る人と人との衝突が描かれることが多いのがちょっと残念。見下されていたのを跳ね返して、きちんと応酬するところは溜飲が下がるのはあるが、技術的な話を期待すると残念なことに終わる。

 それにしても、ロケットを扱った物語は、やはり絵になる。最後はロケットが遥か宇宙目指して大空を駆け登るシーンというのがお約束というものだが、これがまた分かっていても胸を打つのだ。それは、技術をどこまでも突き詰めた成果であり、それまで延々と描かれた苦労や努力が全て結晶する瞬間だから。ただ、個人的にはバイコヌール宇宙基地が出てくることに象徴されるように、宇宙開発史に関心のある人の興味を引くネタが多い『夏のロケット』の方が面白かったかな。
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その他小説 | 2014/03/14(金) 19:51 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1394冊目 “放射能”は怖いのか―放射線生物学の基礎
“放射能”は怖いのか―放射線生物学の基礎 (文春新書)“放射能”は怖いのか―放射線生物学の基礎 (文春新書)
(2001/06)
佐藤 満彦

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評価:☆☆☆☆


 まず、本書が刊行されたのは2001年であることを述べておく必要があろう。つまり、東日本大震災と、それに伴う原発議論が生まれる前に書かれたということだ。311後に雨後の筍の如く湧きでた放射能の危険を過剰に煽る、あるいは過度に安全だとする意見とは一線を画している。

 次に、著者の姿勢として、原発の経済性といった価値判断に踏み込むこと無く、純粋に放射線生物学の立場から、どのような放射線を・どのくらい浴びたら・どのようなことが起こるのかを冷静に見つめようとしているところがある。

 この2点から、311後の状況を考えるに当たり、本書の価値が高いことは間違いないと思う。

 本書はまず、とかく混同されがちな"放射能"、"放射線"、"放射線物質"をきちんと区別して、正しく用いるべきだと説く。その理由は"科学的自称の厳密な記述を妨げるだけでなく、生体にとって本当に怖い実態についての人々の認識や理解を誤らせる(P.19)"とする。指摘の重さには頷くしか無い。

 続いて、α線、β線、γ線がどのような物理的性質を持ち、そこから導かれる生体への影響はどのようなものか、という基礎からきちんと説明されている。

 途中で発ガンに関して言えば被曝線量と発ガン率にしきい値は無く直線的な関係があるとしていて、疑わしいと感じた。これは広島・長崎の被爆者のうち、低線量の方々では統計上明らかに発ガン率が低下しているという事実を説明できない。ラムサールのように、年間400mSv以上被曝するところでも発ガン率の顕著な上昇は見られないこととも矛盾する。

 そう思っていたら、きちんと自然放射線レベルが通常の3倍程度である中国ではむしろ発ガン率が低いこと、アメリカのロッキーフラッツ・プラントでプルトニウム239の吸入を伴う作業に従事していた作業者についての調査では、ガン死は対照群の70%、最も懸念される肺ガンでは14%との数字が出ているとのことも紹介されていて、バランスのとれた記述に感銘を受ける。

 放射線についてはホルミシス効果を認めて然るべきであろし、低線量では発ガンはむしろ抑えられるとする知見には十分な科学的根拠があるとすべきだろう。

 また、世界各地で起こった被曝事故についての紹介があるのも貴重だ。『人は放射線になぜ弱いか 第3版―少しの放射線は心配無用』と共に、放射線障害について正しい知識を得るための本としてお勧めできる。


 同著者の他の本として『ガリレオの求職活動 ニュートンの家計簿―科学者たちの生活と仕事』とあるのを見て驚き。こちらも面白かったのでお勧めしたい。


関連書籍:
ガリレオの求職活動 ニュートンの家計簿―科学者たちの生活と仕事 (中公新書)ガリレオの求職活動 ニュートンの家計簿―科学者たちの生活と仕事 (中公新書)
(2000/08)
佐藤 満彦

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人は放射線になぜ弱いか 第3版―少しの放射線は心配無用 (ブルーバックス)人は放射線になぜ弱いか 第3版―少しの放射線は心配無用 (ブルーバックス)
(1998/12/18)
近藤 宗平

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医学・脳・精神・心理 | 2014/03/13(木) 19:58 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1393冊目 凍
凍 (新潮文庫)凍 (新潮文庫)
(2008/10/28)
沢木 耕太郎

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評価:☆☆☆☆


シェルパ語で"百の谷が集まるところにある雪山"を表すギャチュンカンと呼ばれる山がある。ヒマラヤの屋根の一角を成すこの山は、余り登られていない。一つには名前の示す通りアプローチの困難さがある。もう一つの理由は、標高が7,952メートルという、8,000メートルに僅かに及ばないというのもあるようだ。8,000メートル級の14座は、その数字の分かりやすさから登られているが、この山を制覇しても、その凄さが分かりづらい。

 2002年、そのギャチュンカンに挑んだ日本人がいる。山野井泰史妙子夫妻である。

 ニュースにもなったことで、ネタバレではないだろうから書いてしまうと、この登山で悪天候に襲われた2人は生還を果たしはするが、泰史は手足の指10本を凍傷で失い、それまでに18本の指を第二関節の先から失っていた妙子は両手の指の付け根から先を全て失うことになる。

 山で、一体何が起こったのか?

 本書は、その答えに辿り着くために、山野井泰史という孤高のクライマーの半生を追っている。山登りに焦がれるようなった青年は、やがて岸壁の制覇に情熱を燃やすようになる。

 1000メートルほども垂直に切り立った崖を登っていく。人間、10メートルの高さから落ちればまず死ぬ。岸壁に挑むということは、ほんの僅かなミスが死に直結する、過酷なスポーツだ。しかも、彼のスタイルは単独あるいは少数メンバーでの、短期決戦的な登山である。多人数で前線基地たるキャンプを徐々に進め、頂点を極めるアタック隊を選抜するようなものではない。それ故の困難がある。

 読めば読むほど、氷壁というのは恐ろしいものだと実感させられる。垂直の壁に張り付いた氷雪は、所によっては脆く、打ち込んだハーケンが抜けてしまうリスクを背負う。天候の悪化も恐ろしい物があるし、雪崩に巻き込まれる危険がつきまとうのだ。

 夫妻がどのようにしてこの困難に立ち向かっていったのか、それが刻銘に描かれている。読んでいながら肌に粟を生じるようなシーンの連続だ。それでも2人の楽天的とでも言うべき姿勢には驚かされる。その最大のものは、死の一歩手前まで行き、指を失ってもまだ山を制覇し続けるところだろう。そもそも、私のようなインドア派人間にとっては、垂直の壁に上るということ自体が信じられないのだが。

 興味深かったのは、どうやらサードマン現象が現れていたこと。『奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」』では、まるで守護天使のように振る舞う存在がいるように感じる人も居るというが、本書で描かれるのは傍観者だ。極地では本当にこういうのもあるのだなぁ。感じるようなところに行くことはないだろうが(笑)



関連書籍:
奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」奇跡の生還へ導く人―極限状況の「サードマン現象」
(2010/09)
ジョン ガイガー

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ノンフィクション | 2014/03/12(水) 19:51 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1392冊目 カメのきた道―甲羅に秘められた2億年の生命進化
カメのきた道―甲羅に秘められた2億年の生命進化 (NHKブックス)カメのきた道―甲羅に秘められた2億年の生命進化 (NHKブックス)
(2007/10)
平山 廉

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評価:☆☆☆☆


 鈍重で、ちょっと突くと首と四肢を甲羅に仕舞いこんでしまうカメと戯れたことのある人は多いだろう。斯く言う私もその1人である。カメにとっては遊びになってないどころか、単なる恐怖体験だっただろうが。

 甲羅が捕食者に対する防御であることは見るからに明らかだ。では、カメはどうやってこの戦略を進化させてきたのだろう?鎧竜(正式には曲竜類という)のアンキロサウルスを彷彿とさせる姿からは、遥か過去からカメは甲羅を背負ってきたように見える。

 実際のところ、2億年ほど前のカメの先祖だとハッキリしている爬虫類の化石には、既にほぼ完成された甲羅があったことが分かっているらしい。ということは、どうやってあの甲羅が進化してきたのかは全く分かっていないということだ。今後の発展が楽しみになるではないか。

 スタートは分かっていなくとも、途中はかなり分かる。本書は、カメが甲羅を背負うようになってからの2億年の進化を見るのと同時に、その進化の結果として、カメがどのように生きているかを記した、カメまみれの一冊となっている。

 一ヶ月もの断食に耐えうるエネルギー効率の高さ、乾燥地帯から海にまで至る生息域の広さにまず驚くべきであろう。硬い卵という、乾燥に強い形で産卵することは、彼らの先祖が進化した場所は乾燥していたことが分かる。それが海に棲むようになっている。まるで海竜や首長竜みたいだ。

 しかも、ウミガメは深海に潜ることもできる。それを当たり前のように思ってきたものだが、深海の低温に爬虫類が適応するのは並大抵のことではない。防御なしに深海に潜ったら、体温が下がって動けなくなってしまうではないか。そうした不具合を避けるため、カメは運動し続けることで体内に熱を蓄えている、という。面白い!

 卵の硬さはまた主竜類とのつながりを思わせるとか、白亜紀末の大絶滅でもカメ類はほとんど影響を受けていないとか、オサガメはクラゲばかりを食べているが食性に合わせた進化を遂げているとか、興味深い話題が多く、楽しかった。ただ、寿命が人間に匹敵する(大型のカメでは人間を遥かに凌駕する)カメは、どうやらペットには出来そうも無さそうだ。
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地球史・古生物・恐竜 | 2014/03/11(火) 19:56 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1391冊目 三国志〈第1巻〉
三国志〈第1巻〉 (文春文庫)三国志〈第1巻〉 (文春文庫)
(2008/10/10)
宮城谷 昌光

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評価:☆☆☆☆


 なんとも迂遠な小説である。三国志と言えば、劉備・関羽・張飛が桃園で義兄弟の契りを結ぶ桃園の義、曹操との熾烈な争い、孫権との同盟と抗争と言った物語を思い浮かべるだろう。しかし、本書にはその誰一人として出てこない。何故か?一巻では、まだ彼らが生まれる前の時代を書いているからだ。

 本書での実質的な主人公は、曹操の祖父で後漢4代の皇帝に仕えた宦官の曹騰である。三国志前夜から説き起こすのであれば、党錮の禁からで十分と思うのに、なぜ曹騰を取り上げたのだろうか?

 それは恐らく、三国志の状況を現出させたのが、外戚・宦官・官僚の三つ巴の争いだったので、宦官が強大な力を握るようになった契機でもあり、かつ官僚が勢力を伸ばすようになった時代だからだろう。三国志は、こうした中で起こった。宦官が外戚である大将軍何進を殺害し、それをきっかけに袁紹が宦官を誅滅する。帝位にあるのは権力を行使できないほど幼い少帝。では、権力は誰が握る?官僚しかいない。

 官僚の力の増大という大きな歴史の流れに加えて、この時代から取り上げるのは、もう一つの意味があろう。それは、曹操に関わる。前述の曹騰は、曹操の祖父である。と言っても、曹騰は宦官なので子供は作れない。そこで、曹嵩という養子を迎えている。

 当時の政治は乱れに乱れ、国庫が空となったのを売官という制度で維持しようとしていた。見ての通り、官位をカネで売るのだ。この売官を利用し、曹騰は曹嵩を三公と呼ばれる官僚のトップ、太尉に付ける。その額、一億銭。曹操はその曹嵩の息子であり、コネを利用して出世していた。(自称)皇族の落ちぶれた末裔で何ら力のなかった劉備や、地方で成り上がった孫堅とはスタート地点が違う。この辺りの流れをも書きたかったのだろう。

 では、前史を延々と書いているから面白く無いのかというと、そうはならないのが著者の凄さ。

 宦官と外戚が力を持つ中、皇帝権力は衰えていた。中には外戚によって弑逆された者まで居たくらいだ。魑魅魍魎が跋扈する様な宮廷にあって、後の順帝に誠心誠意仕える曹騰。そして、先帝の死によって、命がけのクーデターで順帝即位にこぎつけるあたりは手に汗を握らせる。

 順帝は、それなりに名君の素質を持った人物だった。惜しむらくは、彼が早世してしまうことであろう。残された幼い子が帝位に登るとなると、お定まりのコース、外戚が権力を握るということになる。この時の外戚のトップにあったのが、後世に悪名を伝えられる梁冀。本書が描くのは、彼が遂に権力を握るところまで。

 権力闘争の激しい後漢王朝を描いた意欲作。三国志がより分かるようになりそうな、そんな一冊。ただ、彼の文章、やっぱりあまり好きじゃないのだよなぁ……。
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その他小説 | 2014/03/10(月) 19:38 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1390冊目 先生、モモンガの風呂に入ってください!: 鳥取環境大学の森の人間動物行動学
先生、モモンガの風呂に入ってください!: 鳥取環境大学の森の人間動物行動学先生、モモンガの風呂に入ってください!: 鳥取環境大学の森の人間動物行動学
(2012/03/13)
小林 朋道

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評価:☆☆☆


 著者の本は、『先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!』、『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!―鳥取環境大学の森の人間動物行動学』に続いて3冊目。順番は見事にバラバラですが気にしません。

 まずは帯のモモンガの写真に悶絶。なんて可愛いんだ!非捕食者が視界を広げるために進化させてきたぱっちりとしたツブラな瞳にはついついそう言わせてしまう力がある。

 今作も、いつも通りの軽いノリで、鳥取環境大学の学生と共に巡り会った動物たちを描いている。コウモリが冬眠する洞窟、イワガニの脱皮の秘密、ヒトデの捕食圧から逃れるための貝類の戦略、イモリのオス・メス比率偏りの謎、そしてモモンガの生態。

 どれも面白かったのだけど、獰猛な捕食者であるヒトデと貝の生存戦略が好きかな。これとイモリがオタマジャクシを捕食するのが弱肉強食の関係を描いているのだけれども、結論がでていないのでどうしても放置されてしまったような感じがある。一方で、ヒトデの器用な捕食方法はそれ自体が興味深いし、捕食圧を受ける貝が防御を高めるか生息場所を選ぶかという異なる進化を遂げたこともまた進化の妙を感じる。

 軽い語り口ながら、生物を研究することの楽しさを感じさせてくれるのがシリーズの魅力。ただ、ジョークがかなりワンパターンなので、一気に読むと飽きるという問題もある。というわけで、寝る前に一章読む、というように小分けにしてじっくり取り組みのに向いているかもしれない。


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先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!先生、カエルが脱皮してその皮を食べています!
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エッセイ | 2014/03/09(日) 19:51 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1389冊目 前へ!: 東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録
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(2014/02/28)
麻生 幾

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評価:☆☆☆☆


 東日本大震災では、本当に多くの人が亡くなった。また、福島第一原発事故はほぼ沈静化はしたものの、帰宅事業はいつ終わるものか、予想すらまだ立てられない状態だ。その爪あとは深いと言わざるをえない。

 しかし、あの日、無名の英雄たちの奮闘が無ければ、被害はもっと拡大していたであろう。

 例えば、命がけで原発に放水し続けた自衛官や機動隊員や消防隊員。彼らは、原発の事故を可能な限り押さえ込んだ。あるいは、破壊し尽くされた道路網を、余震が続く中にも関わらず徹夜で復旧した人々もいる。道路が寸断されたままではけが人の救助などできないし、それどころか救援物資すら届かない。

 本書は、そうした無名の戦士たちがどのようにして巨大な災害に立ち向かっていったのかを記したノンフィクションである。

 まずは原発への対応。現場の必死さと、それを知らない官邸のちぐはぐさは恐ろしい物があるが、もっと怖いのは、東電のダメさ。勿論、自衛隊員に焦点を当てた本書だけから東電の対応を云々するのは一面的で不公平ではあろう。しかし、放水に当たる組織へ、全く情報が流れていかないとなると、これは問題だ。なにせ、原子炉の正確な位置さえ、消防隊は与えられなかったという。

 エネルギー政策論として、原発を手放す訳にはいかないとは思う。しかし、東電のような組織にそれを委ねるのは怖いと思わされた。

 一方で、情報が錯綜する中、ほんの少し状況が変われば大量被曝する危険性の中で作業に当たった方々には、本当に頭がさがる思いだ。警視庁放水隊は、3つの班に分かれ、そのうちの1班は高圧放水車から降りて外で作業する仕事を割り振った。隊員たちは次々と1班に立候補した、という。線量計が限界を知らせるアラームを鳴らしても、限界線量まではまだまだあるからと、更なる行動をしたがった。

 効果という点から見れば、単なるパフォーマンスに過ぎなかったヘリからの放水にしても、隊員たちは被曝のリスクを抱えて、黙って飛んだ。彼らの奮闘があって、今のこの状況がある。そこに深く感謝したい。

 あの日の、あの場所での、現場の方々の奮闘を知るのにもってこいの一冊であろう。
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ノンフィクション | 2014/03/08(土) 19:28 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1388冊目 すべての美人は名探偵である
すべての美人は名探偵である (光文社文庫)すべての美人は名探偵である (光文社文庫)
(2007/12/06)
鯨 統一郎

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評価:☆☆


 タイトルが良い。小説において美人はどうしようもなく頭が悪い、あるいは才色兼備(場合によっては文武両道も兼ねる)に二分されるわけだが、本書においては後者である。

 そんな美人で、しかも主役の座をも射止めたのは早乙女静香。鯨統一郎のファンならその名をご存知であろう。かの快作『邪馬台国はどこですか?』で素人にやり込められる狂言回し的な役回りだった人物である。

 美人でかつ歴史学者という才色兼備の彼女は生放送のテレビ番組に出演するのだが、そこで赤穂浪士の話を巡って学界の権威・阿南完治と揉めた挙句に、「てめえ、ぶっ殺す!」と物騒なことを言い放った挙句、番組終了後には殴り倒してしまう。そう。彼女の直情型な性格は全く治っていなかった。

 謹慎中の早乙女静香は、彼女に惚れた金持ちボンボン学生・三宅亮太の資金でかねて計画していた沖縄に研究旅行に行くのだが、そこで彼女を待っていたのは阿南の死体であった。しかも、第一発見者である静香は容疑者にされてしまう。

 どうやら彼の死には徳川家光の秘密があるらしい。阿南はその決定的な古文書を手に入れたらしいのだ。しかも、それには童謡の"ずいずいずっころばし"が絡んでいる!

 いかにも著者らしく、本格ミステリと歴史ミステリが組み合わさっている。更にユーモアミステリなのでヒロインは完全に狂言回し、事件と平行して賞金5000万円のミスコン開催があり、こちらもドタバタな感じで進んでいく。事件解決に当たるのは、主人公の他に別作品で活躍した桜川東子。というわけで、著者のファンなら楽しめるだろう。

 一方で、ユーモアがややクドいので、この分量を読むと飽きてくるのは事実。直情なだけの早乙女静香には人間的な魅力どころか人間味もあまり感じないのが困ったものだ。そんなわけで、ちょっと評点は辛め。
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推理小説 | 2014/03/07(金) 19:43 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1387冊目 親たちの暴走 日米英のモンスターペアレント
親たちの暴走 日米英のモンスターペアレント (朝日新書)親たちの暴走 日米英のモンスターペアレント (朝日新書)
(2008/03/13)
多賀 幹子

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評価:☆☆☆


 モンスターペアレント、と呼ばれる存在がいる。ウィキペディアでは"学校などに対して自己中心ともいえる理不尽な要求をする親を意味する"と定義されている存在だ。この現象、日本だけではなく、他国でも発生しているらしい。本書は、サブタイトル通り、日本・アメリカ・イギリスにおける親の暴走を取り上げたノンフィクションである。

 まず、非常識な親が多いことに驚く。私も2人の子を持つ親として、教師相手だろうが譲れないことはある。納得行かない場合には学校側とも徹底して争うつもりだ。しかし、本書で取り上げられているのは実に些細な事で、学校にとんでもないクレームを付ける。

 例えば子供の給食から☓☓の食材を取り除けというクレーム。アレルギーで生死に関わるからというのではない。子供が嫌いだからとなると、唖然とする。あるいは、自分の子が学芸会で主役になれないのはおかしいとか、ピアノ演奏に選ばれなかったのは贔屓だとか、どこまで脳みそお子様なんだよとのが挙げられている。こんなクズを見ていると日本の民度は低いなぁと思ってしまう。いやはや、教師は大変だ。

 一方で、教師の側に問題がある場合もある。著者の娘は、水泳の授業の後で必ず覗きに来る男性教諭(そんな奴は無期懲役くらいにはして欲しいと言いたいところではあるが、女子校とかだと「まだ着替え中でーす」とか言って授業の開始を遅らせるテクニックを使うということもあってややこしい)が担任だったという。生徒は生徒できちんと自衛していたというが、それでは済ませられない問題だろう。

 教師が特に問題だったのは、何と言っても中野富士見中学いじめ自殺事件であろう。陰湿なお葬式ごっこといういじめに担任含め3名の教師が加担し、しかも担任は"担任教師らは自分の身を守るために、担任を行っていた生徒らに対し自殺した生徒について口止めするように言っていたことも発覚。他にもいじめを知っていながら教育委員会などに対し報告も行わなかったり、自殺後に開かれた聞取調査では自殺した生徒に原因があるかのような発言まで行っていた"(ウィキペディアからの引用による)というのだから世も末だ。自殺した生徒の絶望を思うとやりきれない。

 こうした場合に親が堂々と学校と渡り合うのに問題などありはしないだろう。というか、こんなクズを教師にしないでくれ。息子の通う学校でも、スパッツを履いてきた女子生徒が教師に叱られたが、その理由は「前の学校ではスパッツが禁止されていたから」だったという目も当てられないようなもので、そんな教師が威張るためルールに従う必要なんて無いと思うわけであります。

 確かに、異常な要求を突きつける親はいる。しかし、モンスターペアレントを生むのは学校側の不誠実な対応であるという側面もある。本書は、その間をつないで、学校と保護者の間をスムーズに繋いでいくことが重要であり、そのために何ができるかという提言を行っている。理不尽な要求と、正当ではあるが学校には不利な指摘との区分はしっかりしなければならないし、後者をモンスターペアレントとして扱うのは建設的なものにはならないだろう。

 後半は、アメリカとイギリス事情を取り上げる。大学生の子供の授業選択やら、寮のルームメートへまでクレームを付けるというのだから、あちらの親も相当どうかしている。そういう親はヘリコプターペアレントと呼ばれるらしい。就職先にまで親が電話をかけて子供の待遇改善を要求するなんてこともあるらしい。そんなのは、子供が自分の才覚でやるものだよ。やはり、そういう人は不利になっていくというが、さもありなん、である。イギリスでは教師への暴力が増えているとの由。いやはや、権利意識ばかり強い親には困ったものだ。

 モンスターペアレント問題について、親側ばかりを問題視するのではなく、学校側にも問題があるという視点があるところが良い。他国の事情も記すことで、日本を相対化して捉えられるところも魅力だろう。学校と関わる人には是非読んでみて欲しい。
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ノンフィクション | 2014/03/06(木) 19:55 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1386冊目 夜は短し歩けよ乙女
夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)
(2008/12/25)
森見 登美彦

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評価:☆☆☆☆☆


 ダメ人間の大学生(京大生をモデルにしているっぽいが、いくら勉強ができてもダメ人間はダメ人間なのだ^^)が、意中の女性とお近づきになるべく色々と奮闘するのだが、そこは森見ワールド、なかなか上手く行かない。ふと気がつけばドタバタコメディを演ずる羽目に陥ってしまっている。

 この人の良さは、全く難しいところがなく文章がすっと頭に入ってくるところ。そうでありながら、無駄に大仰な表現を使い、語彙も豊富。高尚な方にではなく突き抜けた俗人という感のある主人公、ちょっと常識から外れた行動を取る周りの人、そして奇妙な人々が織りなす珍妙な世界が素晴らしい。

 大仰というのは、例えばヒロインである黒髪の乙女が飲み屋で知り合ったおっさんと意気投合して飲んでいる間に、おっさんの手が彼女の胸を揉むのであるが、"そうしているうちに東堂さんの手が私の胸の界隈へ滑り込んだことに気がつきました。彼は私を揺さぶりながら私のお乳をも揺さぶっているらしいのです"ということになるし、その回想は"たかがお乳の一つや二つ、まあ、お乳は二つしかございませんが"という妙におかしい文章。大笑いというより、ニヤニヤしながら読む感じ。

 さて、物語はまず結婚式から始まる。そこで後輩であり意中の女性でもある黒髪の乙女と近づこうとするのだが、彼女は酒を飲むために二次会の誘いを断ってどこかへ行ってしまう。彼女を追いかける主人公だが、気づけば夜の街に彼女を見失い、二人はそれぞれ別のところをうろつき回っては珍妙極まる事件に遭遇する。でありながら、二人の行動は絶妙に交差して、巡りあったり別れたり。

 基本的にはこのパターンで色々なイベントを通過していき、二人の視でシーンが次々と切り替わりながら一つの物語が完結していく。告白などとても出来ないチキンな主人公がただひたすら外堀を埋め続けるのを、情けない自分の過去に重ねながら読むとなおいっそう楽しめる。

 さり気なくサブカルネタも潜んでいて、思わぬところでニヤリとさせられるのも魅力。

 取り敢えず、森見さんの本を読んだことが無いひとは、騙されたと思って読んでみてください。
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その他小説 | 2014/03/05(水) 19:26 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1385冊目 ノンフィクション宣言
ノンフィクション宣言 (文春文庫)ノンフィクション宣言 (文春文庫)
(1992/05)
猪瀬 直樹

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評価:☆☆☆


 今をときめく(※時代遅れです)猪瀬直樹さんの、まだ彼がカネの亡者じゃ無かった頃の本。他のノンフィクションライターへのインタビュー集なのだが、相手が豪華だ。

 『墜落の夏 ―日航123便事故全記録―』の吉岡忍(先日レビューした『M/世界の、憂鬱な先端』の著者でもある)、 『テロルの決算 (文春文庫)』の沢木耕太郎、関川夏央(『「世界」とはいやなものである~極東発、世紀をまたぐ視点』くらいしか読んだことがない^^;)と、ビッグネームが続く。

 面白いのは、それぞれの作家が独自のスタイルで執筆していること。

 資料が散らかった部屋に住み原稿はファミレスで書いていたという人もいれば、子供が生まれたのをきっかけに夜型生活から朝方に変えた人もいる。でも、ひとつの作品を仕上げるための情熱は共通している。

 どうやって彼らが優れたノンフィクションを生み出してきたか、その一端に触れることができるのはノンフィクション読みとして嬉しい。

 対談は、語り手同士のレベルが違うと全然咬み合わなくてダメになるが、本書ではそうしたところが見られないのが良い。インタビューに行くだけのことは有り、作品に一通り目を通していることが分かるので、相手の考えやスタンスをしっかり理解した上での会話になっている。

 古い本なので今更感は否めないが、時の人なので読んでみても良いかもしれない(笑)


関連書籍:
M/世界の、憂鬱な先端 (文春文庫)M/世界の、憂鬱な先端 (文春文庫)
(2003/01)
吉岡 忍

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テロルの決算 (文春文庫)テロルの決算 (文春文庫)
(2008/11/07)
沢木 耕太郎

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「世界」とはいやなものである~極東発、世紀をまたぐ視点「世界」とはいやなものである~極東発、世紀をまたぐ視点
(2003/07/29)
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未分類 | 2014/03/04(火) 19:45 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1384冊目 分散型エネルギー入門
分散型エネルギー入門 (ブルーバックス)分散型エネルギー入門 (ブルーバックス)
(2012/05/22)
伊藤 義康

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評価:☆☆☆


 311の地震に引き続く福島第一原発事故で、原発のリスクの大きさから反原発を唱える人が随分と増えた。では、代わりのエネルギーはどうするのか?多くの人は夢物語を追い求めているが、本当に脱原発を目指すのであれば、現実的に考えなければならない。本書は間違いなくそのヒントを与えてくれるものだと思う。

 と、結論めいたことを書いてしまったが、分散型エネルギーとは何かというと、小規模で地産地消するエネルギーのことだ。発電効率は確かに悪くなるかもしれないが、そもそも遠距離から送電を行うと、数パーセントは損失となる。熱力学で習う通り、発電の際にもロスがある。そのロスは、利用しにくい熱エネルギーとなって環境へ放出されるものだ。

 地産地消は、まず送電ロスを極小化することが可能である。そして、捨てるしか無かった熱をも利用することで、従来なら損失となっていたエネルギーすら利用することができるのだ。

 地産地消は素晴らしい!

 といって済ませられれば良いのだが、問題は、地産地消の主役となる再生可能エネルギーは、エネルギー密度が低すぎることであろう。その分、数で稼がなければならない。ということは、投資額が大きくなって、元が取れない=誰も手を出さないということになりがちだ。

 それでも利益が出せそうな再生可能エネルギーの導入ポテンシャルはこんなものらしい。

太陽光発電(住宅系):7,520
太陽光発電(非住宅系):15,000
陸上風力発電:28,000
洋上風力発電:160,000
中小水力発電:1,400
地熱発電:1,400
原発一基:100(参考)
単位:万kW


 原発一基は理論上の最大値だとしても、これはデカイ!たった14基で、日本中に地熱発電所を作るのと同じエネルギーが得られる。

 現実問題として、中小水力発電や地熱発電は量が少なすぎる。原発の代替は不可能だな。太陽光も、これを得るには膨大な太陽光パネルが必要で、やっぱり現実味は一欠片も存在しない。夜間は発電できないし。となると、洋上風力発電を開発しないと、原発依存から脱却することは不可能ということだ。

 というわけで、脱原発を目指すにあたって、現実的なのは洋上風力発電を大量生産して量産効果で大幅コストダウンすること以外には無さそうだ。問題はその技術がないことで、であるからには、当面の間、原発は欠くことのできない技術である。私に言わせれば、それだったら風力発電に投資するより全電源喪失となってもメルトダウンを起こさない次世代型原発の開発にリソースを割く方が遥かに素晴らしい、ということになるが。

 私の意見はどうでもよいとして、本書はこうした分散型エネルギーにはどのようなものがあって、どんな利点があって、どれくらいの賦活量があるのかということを丁寧に解説してくれている。エネルギー政策を考えるに当たり、こうした前提を知るのは大切なことなので、脱原発を真面目に考える人こそ読んで欲しい。

 ……とか言いつつ、期待はしていないけど。脱原発を唱える人の欠点は、定量的な議論をしないことにある。東海村JCO臨界事故で亡くなった方の悲惨さをもって、放射線は危険だというのはナンセンスである。私も彼らの死は痛ましいし、最先端の治療を施しても死に行くのをただ遅らせるしか無いという現実には慄然とするものがある。しかし、それは、例えば交通事故やら化学プラントの事故と同じだ。

 放射線の害も、最終的には量の問題である。多量に浴びれば確実に死ぬとしても、少量であれば害が確認できないレベルに過ぎまい。だから、害にならない程度であれば被曝だって問題はない。皆様も農薬まみれの国産野菜食べてるでしょ?なんで体を壊さないかというと、単純な話で、微量過ぎて害にならないから、だ。放射線だけ特別扱いする理由にはならない。原発を推進する側に与するにせよ反対するにせよ、こういう点もきちんと把握して欲しいものだ。
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技術 | 2014/03/03(月) 19:14 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1383冊目動物たちの奇行には理由がある ~イグ・ノーベル賞受賞者の生物ふしぎエッセイ
動物たちの奇行には理由がある ~イグ・ノーベル賞受賞者の生物ふしぎエッセイ~ (知りたい!サイエンス)動物たちの奇行には理由がある ~イグ・ノーベル賞受賞者の生物ふしぎエッセイ~ (知りたい!サイエンス)
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V.B.マイヤーロホ

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評価:☆☆☆☆


 ブクレコで仲良くさせて貰っているFumiko Sakamotoさんのレビューを読んで手に取った本。

 著者は、"基本的な物理学の法則を使いペンギンの体内に起こる圧力を計算し、詳細な報告『ペンギンがうんこする際に生じる圧力:鳥類の排便における計算』にまとめたことに対し"て、2005年度のイグノーベル賞を受賞したことのある科学者である。同じ年にはかのドクター中松が受賞している。凄いのかどうか良く分からない(笑)

 さて、本書は生物学者である著者が、生物の不思議を縦横に語ったエッセイ集。

 分蜂のときにミツバチが新居を定める前に土地鑑定をする話、昆虫で解決した殺人事件、アメンボの波の利用法、カッコウだけではなくカモも託卵する事実(しかも、託卵する理由がそれぞれ違う)、動物も嘘をつくこと、複眼の見え方、サバトマグロの浮袋を捨ててしまうという思い切った進化等々、面白いエピソードに満ちている。

 それぞれのトピックは4ページ程度なので、気に入ったところから読むも良し、ちょっとした空き時間に読む進めるのも良し、である。

 素晴らしいのは、まず話題が豊富であるということ。昆虫の話が多いのは多いが、鳥類や哺乳類もきちんと取り上げられている。そして、面白いエピソードを紹介しようというサービス精神に満ちていること。上述のトピックは勿論、他のところでも難しいロジックなどは出てこない。自然界の興味深い側面を楽しく紹介するということに徹底しているので、読んでいて楽しくなる。生物好きには一読の価値があるだろう。
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エッセイ | 2014/03/02(日) 19:06 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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1382冊目 家のない少女たち 10代家出少女18人の壮絶な性と生
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鈴木 大介

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評価:☆☆☆☆


 家出少女を泊めてあげればセックスできる、というような類のSPAMメールを受け取ったことはないだろうか?件名を見て、荒唐無稽だと思っていた。居るとしても、週末に東京で遊ぶために田舎から飛び出てきた女の子のことだと思っていた。本書を読むまでは。

 虐待や貧困のため、帰る家のない子供が、相当な数に上るという。本書は、そんな家のない少女たちへのインタビューをまとめたものだ。

 まず一人目。のっけからこうだ。
 「虐待は、すごかった。本当にお母さん、怖かった。まず朝起こされるでしょ?椅子が飛んできて、起きるんだよね。おなかの上とかに落ちてきて、ウッてなって。そんなんが毎日。首締められて気絶して、気づいたらウンチもらしてて、それでトイレに閉じ込められたり。あと台所に入ったらまな板で鼻潰されるぐらい殴られたり……」
(P.18より)


 こうした子供たちが、逃げ場がないまま放置されているというのがおかしい。逃げ出したら?彼女らが生きていくための資金を得るには、売春以外存在しないのは自明のことだ。

 読んでいて、彼女たちをこんな状況に追いやった人々に腹を立て、それでもしぶとく生きようとする彼女たちに心を打たれ、そして、様々な事情で潰れていく姿に胃が溶けるような思いをさせられる。

 義父に強姦された少女もいれば、頭蓋骨が陥没するほど殴られた少女もいる。あるいは、同級生に無理やり売春をさせられたり、親から生活保護の出る18歳が過ぎたらお前は要らない、20になったら保険に入って自殺しろと言い放たれる子供の姿を見ると、心が痛む。

 この状況は、本当におかしい。世界でも屈指の経済大国がこれでは、何のための豊かさなのか。著者は後書きにおいて"綺麗事と嗤う人もいるかもしれないが、まず母子家庭の母親に対する就業支援等の公的扶助を充実させれば、家出に関する問題の幾分かは一気に解決するだろう"と述べる。その通りだろう。その為であれば、税率が上がるのだって構わない。家にいると命の危険があるからと、援交という名の売春でその日を凌ぐような子供たちが1人も生み出されないように、社会が動いていくべきだと強く思う。

 本当に切ないのは、援交で自分の父親くらいの男性に抱かれた少女たちが、その間だけの温もりを嫌っていない場合があること。彼女たちが幼いころ、きちんと抱きしめて、愛情を伝える親に恵まれなかったためだ。『神の棄てた裸体―イスラームの夜を歩く』でも同じような子供たちがいて、心が抉られる思いをした。

 社会にあるリソースは、限られている。それが子供の福祉に使われるよう、選挙の際には注意していきたいし、身近で虐待があったら、できるだけのことはしていきたいと思わずに居られなかった。




関連書籍:
神の棄てた裸体―イスラームの夜を歩く (新潮文庫)神の棄てた裸体―イスラームの夜を歩く (新潮文庫)
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石井 光太

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ノンフィクション | 2014/03/01(土) 19:42 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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