ぼくが医者をやめた理由 (角川文庫) (1998/06) 永井 明 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
元医者だった著者は、あるとき”これが潮時”と考え、医者を廃業してしまう。といっても、開業医だったわけではないので、病院をやめた、という話だ。
なぜ長年の専門教育の成果と、それなりの地位を捨てることになったのか。なぜ潮時だと思ってしまったのか。そこに行き着くまでの著者の経歴と心の動きを綴ったエッセイ。ベストセラーにもなったということで、読まれた方も多いのではないだろうか。
本書を読んで感じるのは、医者は尊敬される職業であるかもしれないけれども、その現場にはその他の職場と全く同じような苦労がついてまわるのだ、ということ。もう一つは、医者も一般人と同じようなことで葛藤し、不愉快に思い、大変な思いに苛まれている、ということだ。
初めて患者を持つようになったときのこと、目の前で死んでいった患者のこと、医者だからこそ付きまとう厄介ごと。それらに対して、読者と同じように悩む医者の姿がそこにある。恐らく、この自分を飾ることなく、等身大に描き出したことが本書をベストセラーにしたのだろう。
そうやって見れば、本書は単なる個人が燃え尽きるまでを追ったエッセイに過ぎないともいえる。著者が、例えば医者じゃなかったら、本になることなどなかっただろう。等身大の医者の姿が社会にとってそれなりに衝撃だった、というのが、本書が売れた原因ではなかろうか。
同じく医者が書いたエッセイというのであれば、私としてはオリヴァー・サックスのようにもっと温かみのある視点で患者と触れ合おうとする方が好きだ(例えば『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』や『妻を帽子とまちがえた男』、『レナードの朝』など)。これについては趣味の問題なので、興味がある方はぜひ読み比べてみてほしい。
- 関連記事
スポンサーサイト
献本サイト レビュープラス
ランキングに参加しています。面白いと思ったら押してくださいませ。
(ランキングサイトが立ち上がります。不快でしたら無視して下さい)