![]() | 現代アラブの社会思想―終末論とイスラーム主義 (講談社現代新書) (2002/01) 池内 恵 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
科学や金融、芸術の歴史を調べれれば必ずやアラブの多大な影響に触れられるのだが、アラブが世界の最先端であった時代は遠い昔に去った。今ではイスラムやアラブという単語に寛容さや進歩的な概念を感じる人はほとんどいないに違いない。フセインの暴政、タリバンやビンラディンといった西側の思想とは相容れない人々の存在がそのイメージ低下に拍車をかける。
それは表層に出てくるイメージだけの話ではないのか。我々が接する、マスメディアを通しての少量の情報がアラブへの偏見を植え付けているのではないか。
本書は、そんな疑問への回答となっている。アラブ社会の現状は、自己憐憫と陰謀論の隘路に陥ってしまっていることが明らかにされているのだ。
「イスラームが解決だ」と、耳に心地よいかもしれないが具体的な解決策を示せない知識人たち、蔓延する陰謀論。これらをもたらした直近の起源としては、中東戦争の連敗やパレスティナ問題での社会の分裂、湾岸戦争などが挙げられるだろう。しかし、本書はそこから更に一歩踏み込んだ議論を展開している。即ち、コーランが持つ終末論観念が根源にある、という指摘である。
終末論がオカルトと結びつきやすいことは改めて論じるまでもあるまい。終末論自体がオカルトであるからそれは避けられない。そこに、西欧からのオカルト情報が入り込み、それがイスラエルの陰謀論と混ざり合うと、ゲテモノ以外の何物でもない怪しげな思想ができあがる。悲しむべきことに、これが社会に受け入れられてしまっているのである。
アラブ世界の思想が隘路にはまり込んでしまっていることを丹念に示しているのは見事。特に、象牙の塔に篭っている研究者からは無視されてしまうであろう、終末論への傾倒に少なからぬ紙幅が割かれているのもありがたい。こうした状況を説明してくれることで、現在のアラブ世界の理解を助けることができると思う。
興味を向ける先の社会が、現実を見据えておらず他文化と共存する未来を描いていないことを示すのは研究者にとって辛いことだろう。著者自身は「アラブ世界が不本意な歴史の展開の過程で行き着いた思想的袋小路を描くのは、著者にとって非常な苦痛だった」と述べている。
西洋社会がもたらした世界規模の破壊の跡が、今もこうして活きていることに深く同情せざるを得ない。それがイスラーム的な社会と相容れるとは思えないので、当面の間、今の状況が続くとは思う。それでもいつかこのような隘路を抜けて、現実を見据えて社会の変革を図る人々が生まれくることを願ってやまない。
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