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評価:☆☆☆☆☆


 実に15年ぶりくらいの再読。

 韓非子は戦国時代末期の思想家である。戦国時代に先行する春秋時代には沢山の小国が林立していたが、それらはやがて大国に吸収されて姿を消していく。戦国時代初期には生き残った秦、楚、斉、燕、趙、魏、韓の七大国が並び立っていたことから戦国の七雄と言われたが、韓非子の時代には秦が頭一つ抜きん出ていてた。一強六弱の世界で、弱い方はどう生き残っていくかが常に政争の中心で、秦以外の国々で結んで秦を封じ込める合従策と秦に庇護を求める連衡策が凌ぎを削っていた。

 特に韓の国は秦に隣り合っていたために早くから領土を削られていつ滅んでもおかしくないほどにまでなっていた。韓非はその韓の公子である。母国の状況をなんとか打開したいとの篤い思いが、韓非を徹底した法家とさせたのだろう。性悪説で知られる荀子に学び合理的思考を身に付け、道家の思想を背景にしながら法家思想を完成させた。

 一言で纏めてしまえば、官吏が民衆をコントロールすための法と、君主が臣下を使いこなすための術。この二つの重要さと使い方を説いていくのが韓非子という著作の内容と言って良い。徹底して磨きをかけた思考の跡からは、今も学べるところが少なくない。

 韓非はまた、例え話の才にも恵まれていた。

 堯と舜という伝説の帝王を取り上げてこう説く。堯が完璧な聖人だとしたら、その下で舜が活躍することはありえない。なぜなら堯が全ての問題を解決してしまうからだ。なのに堯も舜も聖人だという人々がいる。これはおかしい。

 これに続いて、かの有名な矛と盾を売る商人の話をするのである。どんな盾でも打ち破る矛とどんな矛でも防ぐ盾、これらは両立できない。堯と舜を同時に聖人とすることはできないのだ、と。

 他にも”まちぼうけ”で知られる話や逆鱗など、誰もが知る言葉や話が織り込まれているので、短編集を読んでいるかのような楽しみがある。

 しかし、その思想のあまりの苛烈さにはついていけない、というのも事実だ。例えば、韓非は厳罰主義を説く。軽微な罪でも死刑になるとなれば、ほとんどの民衆は決して罪を犯さなくなる。これによって社会の安定は保証される。だから賢い君主は刑を重く用いるべきとする。刑と対になるのは賞である。この賞も与え方は慎重にするべきだ。なぜなら罰と賞の権限を一手に握ることが君主の権力を保たせるからだ、という。

 だから何も無いのに恩賞を与えてはいけないとする。それは確かに言うとおりだろう。しかし、飢饉になっても食料を供出すべきではない。なぜなら、民衆を救うためとはいえ功の無い者に何かを与えると信賞必罰のルールが崩れ、ひいては社会から真面目に働く者が居なくなってしまうからだ、というのである。ここまでくると諸手を挙げて賛成することはできない。

 韓非に国を救うための熱烈な思いがあったのはひしひしと伝わってくるし、そのために思考を巡らせた事も分かる。だが、その議論は机上で組み立てられたものであって、現実性という点では欠ける点が多いな、と思わされた。

 この韓非は、始皇帝の元に趣き、そこで兄弟弟子だった李斯に讒言されて死を遂げることになる。皮肉なことに、法家思想を社会に広め完成させたのは、この李斯だった。更に秦の後に成立した漢が秦の法律を引き継いだことで、韓非の思想の少なからずはその後の中国を形作った。そういう点からも興味が尽きない著述である。思想に共鳴するかどうかは別問題として、読んで面白い本であることは間違い無いと思う。
未分類 | 2008/05/02(金) 23:59 | Trackback:(0) | Comments:(2)

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