![]() | ヒューマン・ステイン (2004/04) フィリップ ロス 商品詳細を見る |
評価;☆☆
VIVAさんのエントリで読んだのがきっかけで手に取った本。アメリカにおける人種差別の問題と真っ向から取り組んだ小説である。
地方の大学で古典を教えるコールマン・シルク教授が、全く出席しない生徒二人のことを他の生徒にこう尋ねる。『誰か名簿に載っているこの二人を知っていますか?いったいこの二人は幽霊(スプーク)か』
特に問題はなさそうだ。日本だって幽霊部員なんて言葉があるし。
ところが、このスプークという言葉には黒人を蔑む意味も持っていたことから、コールマンは人種差別主義者のレッテルを貼られてしまう。憤懣やるかたないコールマンはこの事態に断固として闘いを挑むが、一度撒かれた悪意の持つ力は圧倒的だった。結局、過労死のような形でコールマンの妻は死に、コールマン本人は大学に居られなくなる。
世捨て人同然の小説家である主人公の元にコールマンがやってきたのはこのときだった。小説家としてこの不正を糺すよう、コールマンは主人公に命じるのだった。
これが導入。アメリカには今も厳然として差別が暗い影を落としているのが分かる。政治的に正しい言葉遣いなんてものが必要なのは、その裏に悪意が存在するからだろう。そして、残念なことに、言葉を隠せば悪意や差別意識も隠れるだけの話。消えはなしない。
人種差別主義が誤っているのは当然としても、僅かな言葉じりを捉えて他人にレッテルを貼るのは正しいことなのか。
これが前段の問題となる。
ところが、コールマンの怒りは解ける。彼の精神を平安へ導いたのは、若い掃除婦だった。片や教養を身に付けどんな困難も凌いできた71歳の元大学教授。決して生活に困ることは無い。もう一方は、養父の性的虐待から逃げ出した、無教養で離婚暦のある貧乏な女性。二人は例の薬品の力を借りてではあるが、逢瀬を重ねることになる。(何のクスリか分からんという人は近所の電柱100本くらいじっくり見てくること!)
ここでもう一つの主題が出てくる。セックスによって平安を得るという、人間にとって当たり前のことを、老人が行ってはいけないのかということ。どことなく背徳感を感じずには居られないが、実のところ彼らが問題のある行動をしているわけではない。
と言った感じで、アメリカの病理をごった煮のように放り込んであり、高揚感などを期待して読むと失望することになるだろう。ベトナム帰還兵、フェミニズム、人は莫迦である権利があるのか、等々。傑作なのは、ギリシャ古典を読んだ莫迦学生が、”女性が侮辱されている”といった程度の感想しか言えないあたりだ。フェミニズムと反知性主義の悪弊を上手く表現しているように思う。
本書の中盤で、主人公はコールマンの過去に迫ることになるわけだが、そこで我々は皮肉な事実に直面することになる。黒人学生を侮辱したとして追放されたコールマン自信が、黒人だったのだ。
コールマンはどのようにして黒人であることから逃れたか。このあたりは興味があれば本書に当たってみて欲しい。
文章がとにかく冗長で、読んでいて飽きてくるのは残念だった。もうちょっと簡潔にまとめられるように思う。で、通常の人生と同じで、全て納得して胸のつかえが取れるということもなく、なんだか解決したのかしてないのか良く分からないまま話が過ぎていくのでカタルシスが得られない。それが小説の魅力だ!という方には向いているかもしれないが、小説よりもノンフィクション向けの散文的頭脳の持ち主である私にはちょっと期待はずれだったのが残念。
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