![]() | 韓非子―不信と打算の現実主義 (中公新書) (2003/05) 冨谷 至 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
著者の本を読むのは『古代中国の刑罰―髑髏が語るもの』、109冊目で紹介した『教科書では読めない中国史―中国がよくわかる50の話』に続いて三冊目。いずれも面白かったのだが、本作も期待を裏切らない面白さ。戦国末に現れた異色の思想家・韓非の言説をコンパクトに分かりやすくまとめている。
韓非は、戦国の七雄の一つだった韓の公子である。と言っても、韓非が生まれた頃には戦国の七雄とは名ばかりで、秦の一強と関東(函谷関の東の意)の六弱といった情勢だった。取り分け貧弱だったのが燕と韓だったのだが、韓は一強、秦と隣り合っていた上に、残った国境線で魏、楚に囲まれていたので成長の余地が無かった。ために、より滅亡に瀕していたのは韓だった。
その韓の公子である。祖国を救おうという熱情は人一倍だった。だからこそ、韓非は韓を救うために思索を重ねることになる。名高い思想家、荀子に学び、荀子の合理主義に独自の思索を重ねた結果として著されたのが韓非子であるわけだが、皮肉なことに韓非の思想を現実に移したのは、韓のライバルたる秦だった。
韓非を秦で自殺に追いやったのが李斯である。李斯も荀子の門で学んだ男なのだが、この李斯こそが韓非の唱えた法家思想の完成者であるのは歴史の皮肉か。いずれにしても、韓非の思想は秦を支え、更には漢に受け継がれることで中国の思想を決定付けることになる。
中国の姿を決定付けた思想の持ち主、韓非のその思想とはどのようなものなのか。他人を信じれば他人に制せられる、あるいは、厳罰を用いればほとんどの人民は犯罪を犯さなくなるので名君はすべからく厳罰主義者たるべし、といったあたりの思想には感心する反面で反発も覚えるのではないか。
なぜこのような思想が戦国時代に出来したのか。そのあたりの考察に加え、孟子の性善説、荀子の性悪説と比して韓非子の思想がどのような位置づけなのかを解説することで韓非子の思想の全体像が分かるようになっているのはありがたい。
韓非子は、例え話が多く、読み物としても大変に面白いものなので、本書で韓非子に興味を持たれた方は是非韓非子にも手を出してもらいたいと思う。その一方で、韓非子という書物自体には韓非子以外の書き手の意見も入り込んでいるため、こうして一歩離れた著作の価値は決して衰えることは無いと思う。 異色の思想家の全体像に迫ったなかなかの作品と思った。
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