![]() | 歪められる日本現代史 (2006/01) 秦 郁彦 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
近現代史というのは現代と余りにも密接しているために冷静な判断が難しい。政治的・イデオロギー的なスタンスやら特定の人物への好悪などによって評価が変わる。個人的には右も左も敬遠したいなぁと思うわけだけど、避けて通れる訳でもないのがややこしいところだろう。
ただ、ややこしいからといって逃げて通るわけにも行かないのも事実で、そうであるならば冷静な判断をしなければなるまい。そういう点で、私は著者を評価している。
扱っている話題は多岐に渡る。大江健三郎『沖縄ノート』の虚構、”南京虐殺”で話題になったアイリス・チャンと本宮ひろ志、慰安婦問題、昭和天皇と責任問題等。
南京事件については『南京事件 増補版―「虐殺」の構造』を著しており、その冷静な史料の扱いと、ともすれば政治的な議論になりがちな話を上手く捌いているところに感銘を受けたものだ(南京事件が政治性を帯びるのは中国が政治カードとして使っているのも一因だと思うが)。 本書でもその姿勢は変わらず、好感が持てる。
例えば、渡嘉敷や座間味で軍が住民に集団自決を強制したか。これについては、当事者全てが軍命令を否定している。軍の強制があったとされたのは、軍の命令があったことにして年金をもらえるようにとの意図からであり、貧しい島民のためなら汚名を被るのも辞さなかった当時の士官の覚悟からであることが明らかになっている。
沖縄が、いや、沖縄だけがアメリカとの上陸戦に晒された結果として、多くの人命が喪われたのは事実だ。だが、その事実があるからと言って一部の軍仕官が必要以上に貶められてはいけないと思う。一部の人にスケープゴートを押し付けて、戦争を反省した積もりになったとしてもそんな反省には何の価値もないだろう。
南京事件にしても、昭和天皇の責任問題にしても、事実を歪めようとする人々はいる。左右、どちらの側も。ここで深く触れるつもりはない。というのは、これらの問題が神学論争に陥りやすいことを知っているからだ。なので、ここでは南京事件についてアイリス・チャンの著作には問題が余りにも多すぎ、本宮ひろ志の『国が燃える』もほぼ否定されていることまで事実であるかのように書いてしまったことを挙げておこう。
また、昭和天皇の責任問題としては、昭和天皇が処刑されることも覚悟して全ての罪を自分が負いたいとしたこと、皇室の財産を渡すから国民を飢えさせないで欲しいと求めたこと、敗戦後退位を考えたが情勢から不可能だったことが明らかになっていることを書いておこう。
毀誉褒貶はあるだろうが、天皇が危機的状況にあって保身を図ったことはないことだけは覚えておいて良いと思うようになった。
近現代史については歴史家としての面目躍如たるものがあり、面白いと思うのだが、現代時評となると余り評価できないことになってくる。言葉遣いについても槍玉に挙げているが、評論家じゃないんだからそんなことしなくても、と思わずにいられない。しかも、当人も”耳触りが良い”なんてみょうちくりんな言葉を使っているし(耳障りは、なにをどうやっても良い意味には成らない。”くたばる”を”おくたばり遊ばす”としても敬語に成り得ないのと同じ)。そんなわけで、総合的に見るとちょっと評価が下がるが、歴史部分については面白かったと思う。
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