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今年も振り返ってみると色々な本に出会えた。本屋でたまたま巡り合った本、ブログや雑誌で紹介されていた本、参考文献などから探り当てた本、等々。面白い本もあればダメな本もあった。そんな中から本年のベスト10を発表する。どれも面白かったので私と趣味が合いそうだという方にはどれも強くお勧めしたい。
では発表~
10位 368冊目 深海のパイロット
宇宙探査に立ちふさがる課題が基本的には距離の問題であるならば、深海への旅を困難にしているのは圧倒的な圧力と闇である。そのため、宇宙について明らかになったことよりも深海について知っていることの方が少ない、ということになっている。そんな深海に挑むパイロット達のノンフィクション。パイロットであり同時にエンジニアであり、しかも科学者でもなければならないというのが本書を盛り上げる一因だろう。本書を読めば深海探査の面白さと興味深さを知ることが出来ると思う。
9位 323冊目 恐竜VSほ乳類
恐竜の化石を見に行くたびに、あの巨大な肉食獣の脅威を思い、生きた彼らの前に立つことが無くて良かったとつくづく思うものである。ティラノサウルスやアルバートサウルスに狙われたらどんな恐ろしい目に遭うことか。
実際、我々の先祖は恐ろしい目に遭っていたらしい。その証拠が色々あるのだ、となると俄然興味が沸く。恐竜が哺乳類の進化を左右してたという面白い事実を知っただけでも読む価値はある。テレビ番組がベースなのでやや映像を気にした作りになっている面はあるが、新発見をなるべく逃さずに広く紹介しているので、私のようにマニアックではない恐竜好きには丁度良いレベルの一冊。
8位 272冊目 マークスの山 上下
高村薫の設定の細かさは相変わらず異常。お約束どおり殺人事件が起こるのだが、奇妙なことに加害者側より被害者側に謎が多い。犯人に対するは合田雄一郎。その同僚達の設定も深くなされていて、どの人にも人生が透けて見えるのが凄いところ。
7位 285冊目 なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか
アメリカには結構な数の”自分はエイリアンに誘拐された”と思い込む人がいるという。そんな話を聞いても、普通は頭のおかしい人はどこにでもいるのだなぁ位にしか思わないだろうが、そう思い込める心はどうなっているのかに正面から取り組んだ本書は大変面白い。本書を読めば、宇宙人に誘拐されたと自称する人は頭のおかしい人ばかりではないことはすぐ分かる。
6位 391冊目 怪獣記
こりゃゲテモノ間違いなし、というタイトル。しかし本人は至って大真面目。大真面目だからこそ面白い、異形の旅行記でもある。
有名な未確認動物を既知の未確認動物と呼び、人に知られていない未確認動物を未知の未確認動物と呼び分け、未知の未確認動物発見に情熱を燃やす著者の姿勢に心打たれる。こう紹介してしまうとアレなヒトみたいだけれども、本人は極めて冷静。懐疑の立場を保ちながら未確認動物に情熱を燃やす、そんな立場はもっとあっても良いと思う。
5位 346冊目 宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作
全ては「よど号」から始まった。北朝鮮に日本の極左武装集団が渡ったとき、後に多くの日本人を悲劇に巻き込む邪悪な作戦の芽が出てしまったのだ。
「よど号」事件発生から現在までに「よど号」ハイジャック犯達が辿った皮肉な人生を余すところ無く書ききっていると思う。「よど号」があったから日本やヨーロッパを舞台にしての拉致作戦が実行されたのだから、彼らの罪は重い。
それにしてもつくづく皮肉なのは、極左集団が嫌悪した日本では彼らの主義主張が武装蜂起に関わるもの以外なら何でも流通させえたのに、彼らの信じた北朝鮮では首領様の意に沿わない主義主張は一切表明することが出来ない(したら殺される)ということだ。どちらが好ましい体制か。当の独裁者と甘い汁を吸う一部の層以外にとって、答えは一つだろう。共産主義社会が崩壊したのも理由なきことではない。
4位 380冊目 タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代
オリヴァー・サックスが自らの子供時代を振り返るエッセイ。オリヴァー少年が深い化学の知識を身につけていることに驚かされる。
両親だけではなく、身近な大人たちがオリヴァー少年の知的好奇心に応えるのが素晴らしい。医者として活躍する彼が、一歩違えば著名な化学者になっていたかもしれないというのは面白い。好奇心に燃える人々に化学の楽しさを余すところ無く伝えてくれていると思う。
3位 253冊目 アポロとソユーズ
宇宙開発において先駆者たるスプートニクの地位は不動だ。でもロマンを掻き立てるといえばやはり有人宇宙計画を置いて他にない。現在までのところ有人宇宙探査の最たるものこそ月面探査であるわけで、必然的に光が当てられるのはアメリカとソ連が月面着陸No.1を目指して争った宇宙開発競争になる。本書はアメリカとソ連で宇宙開発を担った二人の宇宙飛行士による開発史だ。渦中に居た人物だからこそ書ける迫真の物語には今でも心を動かされるものがあった。
2位 ラーマーヤナシリーズ
とりあえずリンクしてあるのは352冊目の蒼の皇子〈上〉。いやー、面白い。やはり、伝説が何時までも語り継がれるのは多くの人々に訴えるものがあるからだろう。文化を越えても面白さは伝わることの好例と思う。なかなか名前を覚えられないのだが(笑)
王宮で巡らされる陰謀、女同士の諍い、兄弟同士の篤い信頼関係といった人間模様。当たり前にある世界に、かつて無い脅威が襲い掛かる。数百万の阿修羅侵攻を防ぐことができるのか。悠長に修行なんかしてる場合じゃないぞと読者にハラハラさせつつ、無駄に見える全ての行動に意味がある。伝説を近代的に甦らせた名作だと思う。
1位 300冊目 人類が知っていることすべての短い歴史
科学は面白いものだけど、それを面白く伝えることは難しい。ビル・ブライソンはそんな難関を見事に突き崩してくれた。兎に角ひたすら面白い科学史にまとまっている。
科学者同士の人間関係も爆笑もので、電車の中などで読むのに困ったほど。なのに、宇宙論、地学、古生物など実に多くの話題が扱われているのでここ数百年の科学の歩みの概要を知ることが出来る。こんなところで私の駄文を読んでいる暇なんてありませんよ、すぐこの本を手に取らなきゃ。それくらい面白い。この本に巡り合えたその一事だけで、2007年に感謝。
特設コーナー。
面白い本が多かったという素敵な誤算のおかげで私の愛する脳と中国史の分野からベスト10が出なかったという意外な結果に。なので、特例でコーナー設置。
Best 中国史 of the year 320冊目 紫禁城の栄光
中華帝国の首都が北京に移ったのは、明を建国した朱元璋の死後に勃発した権力争いである靖難の変から。南京を落とし甥に当たる建文帝を行方不明にさせた永楽帝はとしては、南京に居座るより以前からの治所の方が居心地が良かったのは間違いない。
それ以来、現在に至るまで北京は中国の首都であり続けた。紫禁城は栄光の舞台でもあり、腐敗の舞台にもなった。明~清を中心に、紫禁城で演じられた数多の政治劇を紹介してくれている。中国史で面白いのは三国志とか春秋戦国時代だけじゃないことを教えてくれる名著。
Best 脳 of the year 405冊目 脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ
毎日訪れる夢にも貴重な意味があることを教えてくれる。記憶を固定するためにはきっちり眠った方が良い、なんていうのは一夜漬けがテストの間は覚えていられても総合的に見たら意味がなかったということからも明らかかもしれないが。やはり脳は面白いということをつくづく実感させてくれる一冊。
今年は190冊弱の本に巡り会うことができました。知的好奇心を呼び覚ましてくれた本、手に汗握る思いをさせてくれた本はやはり宝です。
また、多くの方からコメントやトラックバックをいただけたことが本当に励みになりました。他のブログに面白い本を見出すことも度々でした。ネットをやっていて良かったと思える時間が多く、そのことにも感謝したいと思います。
来年は事情があって読める冊数は激減すると思いますが、それでも沢山の素晴らしい本に出会えますように。皆様にも良書との出会いが多いことを祈りつつ、2007年の更新を終わりに致します。では皆様、良いお年を。
では発表~
10位 368冊目 深海のパイロット
宇宙探査に立ちふさがる課題が基本的には距離の問題であるならば、深海への旅を困難にしているのは圧倒的な圧力と闇である。そのため、宇宙について明らかになったことよりも深海について知っていることの方が少ない、ということになっている。そんな深海に挑むパイロット達のノンフィクション。パイロットであり同時にエンジニアであり、しかも科学者でもなければならないというのが本書を盛り上げる一因だろう。本書を読めば深海探査の面白さと興味深さを知ることが出来ると思う。
9位 323冊目 恐竜VSほ乳類
恐竜の化石を見に行くたびに、あの巨大な肉食獣の脅威を思い、生きた彼らの前に立つことが無くて良かったとつくづく思うものである。ティラノサウルスやアルバートサウルスに狙われたらどんな恐ろしい目に遭うことか。
実際、我々の先祖は恐ろしい目に遭っていたらしい。その証拠が色々あるのだ、となると俄然興味が沸く。恐竜が哺乳類の進化を左右してたという面白い事実を知っただけでも読む価値はある。テレビ番組がベースなのでやや映像を気にした作りになっている面はあるが、新発見をなるべく逃さずに広く紹介しているので、私のようにマニアックではない恐竜好きには丁度良いレベルの一冊。
8位 272冊目 マークスの山 上下
高村薫の設定の細かさは相変わらず異常。お約束どおり殺人事件が起こるのだが、奇妙なことに加害者側より被害者側に謎が多い。犯人に対するは合田雄一郎。その同僚達の設定も深くなされていて、どの人にも人生が透けて見えるのが凄いところ。
7位 285冊目 なぜ人はエイリアンに誘拐されたと思うのか
アメリカには結構な数の”自分はエイリアンに誘拐された”と思い込む人がいるという。そんな話を聞いても、普通は頭のおかしい人はどこにでもいるのだなぁ位にしか思わないだろうが、そう思い込める心はどうなっているのかに正面から取り組んだ本書は大変面白い。本書を読めば、宇宙人に誘拐されたと自称する人は頭のおかしい人ばかりではないことはすぐ分かる。
6位 391冊目 怪獣記
こりゃゲテモノ間違いなし、というタイトル。しかし本人は至って大真面目。大真面目だからこそ面白い、異形の旅行記でもある。
有名な未確認動物を既知の未確認動物と呼び、人に知られていない未確認動物を未知の未確認動物と呼び分け、未知の未確認動物発見に情熱を燃やす著者の姿勢に心打たれる。こう紹介してしまうとアレなヒトみたいだけれども、本人は極めて冷静。懐疑の立場を保ちながら未確認動物に情熱を燃やす、そんな立場はもっとあっても良いと思う。
5位 346冊目 宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作
全ては「よど号」から始まった。北朝鮮に日本の極左武装集団が渡ったとき、後に多くの日本人を悲劇に巻き込む邪悪な作戦の芽が出てしまったのだ。
「よど号」事件発生から現在までに「よど号」ハイジャック犯達が辿った皮肉な人生を余すところ無く書ききっていると思う。「よど号」があったから日本やヨーロッパを舞台にしての拉致作戦が実行されたのだから、彼らの罪は重い。
それにしてもつくづく皮肉なのは、極左集団が嫌悪した日本では彼らの主義主張が武装蜂起に関わるもの以外なら何でも流通させえたのに、彼らの信じた北朝鮮では首領様の意に沿わない主義主張は一切表明することが出来ない(したら殺される)ということだ。どちらが好ましい体制か。当の独裁者と甘い汁を吸う一部の層以外にとって、答えは一つだろう。共産主義社会が崩壊したのも理由なきことではない。
4位 380冊目 タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代
オリヴァー・サックスが自らの子供時代を振り返るエッセイ。オリヴァー少年が深い化学の知識を身につけていることに驚かされる。
両親だけではなく、身近な大人たちがオリヴァー少年の知的好奇心に応えるのが素晴らしい。医者として活躍する彼が、一歩違えば著名な化学者になっていたかもしれないというのは面白い。好奇心に燃える人々に化学の楽しさを余すところ無く伝えてくれていると思う。
3位 253冊目 アポロとソユーズ
宇宙開発において先駆者たるスプートニクの地位は不動だ。でもロマンを掻き立てるといえばやはり有人宇宙計画を置いて他にない。現在までのところ有人宇宙探査の最たるものこそ月面探査であるわけで、必然的に光が当てられるのはアメリカとソ連が月面着陸No.1を目指して争った宇宙開発競争になる。本書はアメリカとソ連で宇宙開発を担った二人の宇宙飛行士による開発史だ。渦中に居た人物だからこそ書ける迫真の物語には今でも心を動かされるものがあった。
2位 ラーマーヤナシリーズ
とりあえずリンクしてあるのは352冊目の蒼の皇子〈上〉。いやー、面白い。やはり、伝説が何時までも語り継がれるのは多くの人々に訴えるものがあるからだろう。文化を越えても面白さは伝わることの好例と思う。なかなか名前を覚えられないのだが(笑)
王宮で巡らされる陰謀、女同士の諍い、兄弟同士の篤い信頼関係といった人間模様。当たり前にある世界に、かつて無い脅威が襲い掛かる。数百万の阿修羅侵攻を防ぐことができるのか。悠長に修行なんかしてる場合じゃないぞと読者にハラハラさせつつ、無駄に見える全ての行動に意味がある。伝説を近代的に甦らせた名作だと思う。
1位 300冊目 人類が知っていることすべての短い歴史
科学は面白いものだけど、それを面白く伝えることは難しい。ビル・ブライソンはそんな難関を見事に突き崩してくれた。兎に角ひたすら面白い科学史にまとまっている。
科学者同士の人間関係も爆笑もので、電車の中などで読むのに困ったほど。なのに、宇宙論、地学、古生物など実に多くの話題が扱われているのでここ数百年の科学の歩みの概要を知ることが出来る。こんなところで私の駄文を読んでいる暇なんてありませんよ、すぐこの本を手に取らなきゃ。それくらい面白い。この本に巡り合えたその一事だけで、2007年に感謝。
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Best 中国史 of the year 320冊目 紫禁城の栄光
中華帝国の首都が北京に移ったのは、明を建国した朱元璋の死後に勃発した権力争いである靖難の変から。南京を落とし甥に当たる建文帝を行方不明にさせた永楽帝はとしては、南京に居座るより以前からの治所の方が居心地が良かったのは間違いない。
それ以来、現在に至るまで北京は中国の首都であり続けた。紫禁城は栄光の舞台でもあり、腐敗の舞台にもなった。明~清を中心に、紫禁城で演じられた数多の政治劇を紹介してくれている。中国史で面白いのは三国志とか春秋戦国時代だけじゃないことを教えてくれる名著。
Best 脳 of the year 405冊目 脳は眠らない 夢を生みだす脳のしくみ
毎日訪れる夢にも貴重な意味があることを教えてくれる。記憶を固定するためにはきっちり眠った方が良い、なんていうのは一夜漬けがテストの間は覚えていられても総合的に見たら意味がなかったということからも明らかかもしれないが。やはり脳は面白いということをつくづく実感させてくれる一冊。
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![]() | 歪められる日本現代史 (2006/01) 秦 郁彦 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
近現代史というのは現代と余りにも密接しているために冷静な判断が難しい。政治的・イデオロギー的なスタンスやら特定の人物への好悪などによって評価が変わる。個人的には右も左も敬遠したいなぁと思うわけだけど、避けて通れる訳でもないのがややこしいところだろう。
ただ、ややこしいからといって逃げて通るわけにも行かないのも事実で、そうであるならば冷静な判断をしなければなるまい。そういう点で、私は著者を評価している。
扱っている話題は多岐に渡る。大江健三郎『沖縄ノート』の虚構、”南京虐殺”で話題になったアイリス・チャンと本宮ひろ志、慰安婦問題、昭和天皇と責任問題等。
南京事件については『南京事件 増補版―「虐殺」の構造』を著しており、その冷静な史料の扱いと、ともすれば政治的な議論になりがちな話を上手く捌いているところに感銘を受けたものだ(南京事件が政治性を帯びるのは中国が政治カードとして使っているのも一因だと思うが)。 本書でもその姿勢は変わらず、好感が持てる。
例えば、渡嘉敷や座間味で軍が住民に集団自決を強制したか。これについては、当事者全てが軍命令を否定している。軍の強制があったとされたのは、軍の命令があったことにして年金をもらえるようにとの意図からであり、貧しい島民のためなら汚名を被るのも辞さなかった当時の士官の覚悟からであることが明らかになっている。
沖縄が、いや、沖縄だけがアメリカとの上陸戦に晒された結果として、多くの人命が喪われたのは事実だ。だが、その事実があるからと言って一部の軍仕官が必要以上に貶められてはいけないと思う。一部の人にスケープゴートを押し付けて、戦争を反省した積もりになったとしてもそんな反省には何の価値もないだろう。
南京事件にしても、昭和天皇の責任問題にしても、事実を歪めようとする人々はいる。左右、どちらの側も。ここで深く触れるつもりはない。というのは、これらの問題が神学論争に陥りやすいことを知っているからだ。なので、ここでは南京事件についてアイリス・チャンの著作には問題が余りにも多すぎ、本宮ひろ志の『国が燃える』もほぼ否定されていることまで事実であるかのように書いてしまったことを挙げておこう。
また、昭和天皇の責任問題としては、昭和天皇が処刑されることも覚悟して全ての罪を自分が負いたいとしたこと、皇室の財産を渡すから国民を飢えさせないで欲しいと求めたこと、敗戦後退位を考えたが情勢から不可能だったことが明らかになっていることを書いておこう。
毀誉褒貶はあるだろうが、天皇が危機的状況にあって保身を図ったことはないことだけは覚えておいて良いと思うようになった。
近現代史については歴史家としての面目躍如たるものがあり、面白いと思うのだが、現代時評となると余り評価できないことになってくる。言葉遣いについても槍玉に挙げているが、評論家じゃないんだからそんなことしなくても、と思わずにいられない。しかも、当人も”耳触りが良い”なんてみょうちくりんな言葉を使っているし(耳障りは、なにをどうやっても良い意味には成らない。”くたばる”を”おくたばり遊ばす”としても敬語に成り得ないのと同じ)。そんなわけで、総合的に見るとちょっと評価が下がるが、歴史部分については面白かったと思う。
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![]() | 誰か (文春文庫 み 17-6) (2007/12/06) 宮部 みゆき 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
夏の暑い最中、一つの事故があった。梶田という初老の男性が自転車に轢かれて死んだのだ。犯人は現場から逃走。
梶田には二人の娘がいた。結婚を直前に控え長女と、歳の離れた次女である。父が生きた証拠を書物にして示したいという二人の願いは、梶田が個人運転手として勤めた立志伝中の人物である今多コンツェルン会長を通して主人公の元に届く。妾腹ではあっても、愛娘の婿として迎えた男である。
といっても、主人公はその才覚を見込まれて今多家に入ったわけではない。いくつかの偶然から娘と知り合い、純粋に二人の付き合いで結婚を決めたのだ。なので、彼の役割は今多コンツェルンの社内報をまとめる部署である。要するに、会長の目の届くところに居ろということ、と把握している。
本を書くには編集が必要、というわけで主人公が駆りだされるわけだ。そんなわけで姉妹に会うと、どうも温度差があることに気付く。本の出版が犯人逮捕につなげられないかと意欲を燃やす妹と、どうやら出版には反対らしい姉。姉の方は、父の過去に影があることに怯えているようだが・・・
自転車事故で亡くなった梶田にどんな過去があったのか。その設定が無理に大きすぎず、小さすぎず、主人公の立場に相応なあたり、プロットは上手いと思う。その一方で、どうにも主人公の魅力というのが伝わってこないのがマイナスだろう。加えて周りの人もどうも紋切り型。思考の流れなどは丁寧に追いかけられているので説明は十分なのだけど、その手のことを目指すのなら叙述トリック物にして欲しかった。
設定の細かさは相変わらず凄いと思う。日常の些細なことまで書き込まれる辺り、作品世界についてかなり考え込まれているイメージがある。ただ、その作りこみの中で伏線として使われているあるネタが、露骨に回収状況を示していたのは如何なものかと思う。
宮部みゆきの小説は久々で楽しみにしていたのだが、ちょっと残念だった。個人的に彼女のベストは『レベル7(セブン)』か『火車』だと思う。この二作を越えることは出来ないのかな。
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![]() | 巨大戦艦大和はなぜ沈んだのか―大和撃沈に潜む戦略なき日本の弱点 (パンドラ新書) (2005/12) 中見 利男 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
史上最大の戦艦は文句なしに大和である。後にも先にもあれほどのサイズの戦艦は誕生していない。言われてみれば原子力空母はあっても原子力戦艦はないと思う方もいるかもしれない(いないだろ)。
なぜか。それは、巨大な戦艦が無用の長物と成り果てたことにある。皮肉なことに、その戦術の大転換をもたらしたのは日本だった。
真珠湾攻撃の際、湾内には太平洋艦隊の戦艦が並んでいたが空母は外洋に出ていて攻撃を受けなかった。アメリカ国内でも日本と同じように艦隊決戦派が優位を占めていたのだが、戦艦群が喪われた結果として空母へ傾斜することになる。空母部隊の威力が明らかになるや、もう二度と大鑑巨砲主義の時代は戻ってこなかったのである。
大和は結局のところ太平洋戦争においてほとんど全く活躍する場を持たないまま、沖縄へ水上特攻に駆り出されて撃沈されることになる。最後はそれこそ雰囲気だけのもので、戦術・戦略的に完全に無意味な行為だった。だからこそ、死にゆく人々は自分を納得させるための理由を持とうとしたのだ。
本書はこの役に立たなかった大和について一つの戦艦の問題として捉えるのではなく、大和を生み出し破滅へと導いたシステムとして扱っている。大和の失敗には戦術の変化に対応し切れなかったという以上に問題視されるべき点がある、というのだ。
読み進めると、確かに著者の指摘が正しいと思う点もある。そもそも戦争指導に当たった人々が無為無策だった(目新しい指摘ではないが)。その無為無策さが、大和の運用にも当てはまる。建造から水上特攻に至るまで、大和を覆ったのは将に日本的な問題点であったことは指摘のとおりだと思う。
ただ、一隻の戦艦として大和を見ると、それは実に近代的なものだったことも分かる。近代的で技術の精化であることは本書を読めばよく分かる。問題は、これが無用の長物だったことだ。我々はこの大和システムを生んだ背景について、もう一度考えるべきだという著者の主張には同意する。
しかし、安易に大和システムの問題点を現代に置き換えるのは賛同できない。そこにはどうしても牽強付会が付いて回るし、ノストラダムスの予言と同じで好き勝手に解釈すれば当たっているようなこと言えるよ、と思うからだ。なので、その手の営みをしている分マイナスポイントだが大和の就航から撃沈までを手軽に知ることが出来るのは間違いないと思う。
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![]() | 暦と数の話―グールド教授の2000年問題 (1998/10) スティーヴン・ジェイ グールド 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
子供の頃に言われていたような未来都市が実現したわけじゃないけど、今は21世紀で、きっと22世紀も未来都市は実現していないのだろうけど、それでも22世紀はやってくるはずだ。どうせその頃には生きていないので来ても来なくてもどちらでも良いと言えば良い。
さて、問題なのは世紀が切り替わる瞬間だ。前世紀の終わりは、1999年なのか2000年なのか。まかり間違えば、本当の21世紀の瞬間じゃない時に21世紀おめでとう、などと騒ぐ輩が出かねない。2000年問題を考える人々のお陰でそのような混乱は無かったようだが。
さて、なぜこれが問題になるかというと、感覚の世界と暦の世界が食い違うからだ。やはり、1999年が前世紀の最後で2000年が新世紀の始まりというと美しさがある。なにせ、1999から2000への変化は数字の上では1つだけど、構成する4桁が全て変化するのである。これを世紀末といわずになんとするか。ノストラダムスも恐怖の大王が降って来ると言っていたし。
ところが、暦を作った時にスタートを紀元1年としてしまったが問題の始まりである。なにせ、どの世紀にも平等に100年間を割り付けると、1世紀の終わりは100年となる。以後その繰り返しで行けば、20世紀の終わりは2000年になるはずだ。
面倒くさいこと言うなよ、両方祝ってしまえば良いぢゃ無いかと好い加減な私などは思ってしまうわけだけど、そうは思わない人々もいる。世紀の終わりが近づくたびに、大論争が繰り広げれるのだ。
この大論争、実はかなり起源が古いらしい。博学で知られるグールド迫るのは世紀末論争。前の世紀末でカタストロフィが語られたように、他の世紀でも人類滅亡の危機が囁かれていたというのは予想通りなのだけど、予想通りの中に予想外の発見があるのが面白いところ。
広がった話題は遂にカレンダー計算の達人の話にまで及ぶ。これについてはつい先日紹介した『なぜかれらは天才的能力を示すのか―サヴァン症候群の驚異』が思い浮かんだ。後書きを確認したところ、サヴァン症候群についての本としてこちらが言及されていたのは何たる偶然か。
世紀の変わり目がいつか、などという実世界で生きていくには何の意味もない話題を広げ、素敵な歴史の物語にしてしまうグールドの腕は本当に見事。亡くなったのが惜しまれる。
なお、今の暦が作られるまでの苦難の道のりについては『暦をつくった人々―人類は正確な一年をどう決めてきたか』が大変参考になりますので興味があれば是非どうぞ。
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![]() | キノコとカビの生物学―変幻自在の微生物 (1993/05) 原田 幸雄 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
我々の食生活に彩を与えてくれるキノコたち。そのキノコとカビの生物学はなかなかに面白い。
分解者としての役割が広く知られているこれらの生物は、しかし生物の死体をただ待ちわびるだけではない。中には積極的に生きている動植物を乗っ取ってしまうものもあれば、共生するものもいれば、寄生するものもいる。更には寄生生物に寄生するものまでいる始末だ。
キノコも様々で、栄養にするものが違うし生き方が違う。根っこと共生するのもあれば、梢に根を張る(?)ものもいる。そのバリエーションの豊富さには、生物が生きる場所を探し出す能力の凄さを感じさせられる。
更には冬虫夏草、カビ類も同じように見事。カビなんて好きではないという人もいるだろう。梅雨時にちょっと油断するとどの食べ物にも灰色の絨毯が出来上がっているのは本当に忌々しい。麦角による中毒で命を落とした人も少なくないし、ピーナッツに忍び込み猛毒アフラトキシンをばら撒く厄介者もいる。しかしその一方で感染症への心強い味方、ペニシリンを生み出しているのもカビだ。
かなり多くの話題を取り上げているので個々のキノコやカビについての知識を吸収するのは難しいけれども、彼らのたくましい生き方に触れることは十分出来ると思う。
個人的に残念なのは、本書が出た後で騒がれるようになったから載っていないのは仕方がないにしても八丈島の光るキノコが紹介されていなかったこと。あの幻想的な美しさが加わればなお魅力が広まっただろうにと思うと残念である。いつか本物を見に行きたいなぁ。
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![]() | 北朝鮮・中国はどれだけ恐いか (朝日新書 36) (2007/03) 田岡 俊次 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
近隣の国というのは過去に攻めたり攻められたりした関係で、仲の悪いことが多い。ドイツとフランスが良く取り上げられるけれども、日本とその近隣国家だって負けてはいないだろう。日本が他国を嫌うのは故有ってのことという人も居るかもしれないが、なに、相手も同じことを思っているものだ。
取り分け険悪なのが北朝鮮であることは明白で、核実験などを機に先制攻撃論まで飛び出したのは記憶に新しい。もっとも、先制攻撃論をぶち上げた人は他国を攻撃するより前に自分の政権を放り投げちゃったわけだけども。
次に懸念されるのはやはり中国。軍拡はかねてから指摘されているし、尖閣諸島を巡ってのイザコザに面白くない思いをする人々は多いだろう。
そういう自分自身もこの両国に加えて半島のもう一つの国を好ましからぬ存在(可能な限りオブラートに包んだ言い方)と思っている。好悪の念から言えばそうなるが、では現実的な脅威といえばどの程度あるのか。
北の核はどうなっていて、中国の軍拡はどのレベルなのか。中台で紛争はあるのか。この辺りの専門的なことを、素人にも分かりやすく解説してくれている。日本を取り巻く環境が客観的にはどうなっているのかを知らなければ、軍事の基礎を知らなければ、
我々は現実に立ち向かうことは出来ない。このような本が貴重な示唆を与えてくれるのは間違いない。
ミサイル防衛があってもなくても変わらない程度にしか役に立たないことは知っていたのだが、北の核に絡めて実は世界(もっと言えばアメリカ)が懸念しているのは日本の核武装化であるとは意外ではないか。
他にも親日国である台湾に同情する人々が台湾独立論を唱えたりしているが、当の台湾人自身が独立を望んでいないことや中国も現状維持を認めていることを考えれば現実味が全く無いことが分かる。では中国が心変わりをして台湾占領を図ったらどうなるか。これについては、かなり丁寧に双方の戦力分析をした結果、台湾占領は現実味がないことが分かる。興味がある方は是非本書に当たって欲しい。
これらの現実を踏まえた上で、著者は先制攻撃論や日本核武装論などの現実を見据えない論に対し、”タカ派というよりバカ派”と延べ、危うさを指摘している。これらがバカな論なのは、軍事的にありえないことだったり、政治的にそんなカードは絶対切れない(少なくとも太平洋戦争をもう一回やるくらいの覚悟が必要)ものだったりする。情勢を知れば、これらの論は幻想に過ぎない、というわけだ。当否が気になる方は是非読んでみて欲しい。
なお、国民の命が護れるならSDIという高額な防衛兵器でも導入するべきだという意見もあろう。しかし、護れる現実性はほぼ完全にゼロであるなら前提が崩れる。また、仮に効果があるとしても、金と命を比べて命を取るのは間違いだろう。無限のカネは存在しないわけで、限られた資源を投入するならば投資対効果は考えなければならない。例えば、SDIの運営費が毎年1000億円なら良いかもしれないが、100兆円なら決して手を出してはいけない。ボーダーラインがこの金額の間にあるのは間違いないだろうけど、その辺りの議論もして欲しい。ちなみに私は効果がないから導入反対であるが。
”タカ派というより莫迦派”などと言われないためにも、最低限の軍事的センスを身につけるのは必要だろう。知っていれば、恐れるべきことを正しく恐れることができるようになる。得難いかもしれないが、重要な知識であると思う。
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![]() | なぜかれらは天才的能力を示すのか―サヴァン症候群の驚異 (1990/10) ダロルド・A. トレッファート 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
先日悪友たちと忘年会をやったのであるが、その際にレインマンの話になった。悪友に、あれってサヴァン症候群だよねと言われたのであるが、私はアスペルガー症候群と記憶していたため急遽本書を読むことにした。そんなことがなければ、この面白い本を積読にしたままになるところだった(実は結婚前から積読だった)。
サヴァン症候群というのは、重度の精神遅滞を示しながらも一部の能力だけ突出している症状である。その突出ぶりは、本書の”はじめに”で余すところなく明かされる。
強度の自閉症で数を数えることが出来ないのに、すぐ横を通過する貨物列車の有蓋貨車の台数を言い当てる。一桁の足し算もできないのに20桁の素数を言い合って楽しむ。ナイフやフォークを持つことすらままならず、会話もろくに出来ないのに一度しか聞いたことのない曲をピアノで再現する。また、ある者は見事な彫刻をこしらえ、ある者は語り継がれるほど見事な絵を描きだし、またある者は足し算や掛け算の暗算を得意とする。いずれも通常の生活など送れない人々ばかりというのに。
人間の精神が持つ複雑さと可能性の高さを、サヴァンは教えてくれる。それにしてもこれほどの天才が精神遅滞の人々の間において高い確率で発現するのは、実に不思議だ。
本書はこの謎に真っ向から取り組んでいる。謎解きの前段階として多くのサヴァンの症例を取り上げているのだが、その中に”裸の大将”こと山下清も居て驚いた。恥ずかしながら、サヴァンで特長的なのはカレンダー計算と音楽の再現能力だと思っていたからだ。
その事例を見ていて驚くと同時に納得するのは、周囲の愛情がどれほどサヴァンの才能を高めるか、ということ。サヴァンを心の底から支え、その才能を我がことのように誇る周囲の人々の姿には胸を打たれる。
事例だけでも興味深いのだが、本書はそこから更にこの不思議な現象が起こる原因を突き詰めようとする。遺伝、環境、脳科学と様々な武器を駆使して天才の起源に迫っているところは科学としても面白いと思う。その結論のさわりだけをちょっとだけ書くと、脳の左半球の損傷が右半球有利をもたらすため右脳に関連した才能が発現する、という。
この結論だけ見てしまうとかなり乱暴ではあるけれども、とにかく基礎としてはこれで良さそうだ、というのは納得がいくように説明されている。終章で著者が述べたことに痛く共感したので、それを引用して筆を置きたい。
われわれがなすべきことは、機会と可能性を高めることだけであり、そうすることで、一つの心が多少とも開き、やがては、われわれが自分自身に望んでいるのと同様に、花をつけるようになることを願うのみである(P.338)。
なお、冒頭で書いたレインマンの件はサヴァンのことでした。
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![]() | ロンドン塔―光と影の九百年 (中公新書) (1993/07) 出口 保夫 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
漱石の『倫敦塔』を導入に、ロンドン塔と、塔で行われた栄光と暗黒の歴史をまとめた本。新書らしく、重要な点や読者が興味を持ちそうなエピソードは漏らさず押さえているので大変読みやすく面白い本に仕上がっている。
征服王ウィリアムが建設した要塞が、王宮として、またあるときは監獄・刑場として使われた。栄光の歴史として現在も語り継がれる宝物類があり、血塗られた歴史を示すものとして収監された人々のダイイング・メッセージであるかの如き刻印がある。
収監された人々の中には王位に就く前のエリザベス一世もいる。彼女は生きて監獄を出て至高の位に就くが、命を落とした者も多かった。トマス・モア、ヘンリー八世の二人の妃(うち一人はエリザベス一世の母であるアン・ブーリン)が最も有名だろう。
しかし、最も胸を打つのはなんといっても幼くして殺害された(と推測される)エドワード四世の二人遺児エドワード五世とヨーク公リチャード、権力を握るための捨て駒とされ若干16歳で命を落としたジェーン・グレイの挿話だろうか。
この二つのエピソードに関しては有名な絵と『倫敦塔』の記述を追い、かなり丁寧に取り上げている。また、彼らへの思いは多くの人が共有しているらしく、以前取り上げた『幽霊(ゴースト)のいる英国史 (集英社新書)』でも紹介されているので興味がある方はどちらかをどうぞ。
ロンドン塔のエピソードを見ていくと、イギリスの近代史を大まかに眺めることができることに気付く。デーン人らの支配についてはロンドン塔が舞台にならなかったためほとんど触れられていないものの、観光旅行に行く前にちょっと情報を仕入れようかという方にはうってつけである。私も行く前に読んでおけばよかった。
個人的に意外だったのは、ナチスの高官でイギリスに飛んで逮捕されたルドルフ・ヘスがロンドン塔に最後に拘留された人物である、ということ。ロンドンの歴史を体現するかのような存在であることをつくづく実感させられた一冊。
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![]() | 宇宙開発の50年 スプートニクからはやぶさまで (朝日選書 828) (朝日選書 828) (2007/08/10) 武部 俊一 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
タイトルどおり、スプートニクに始まって現在に至るまでの宇宙開発史を大雑把にまとめている。
スプートニクという、電波を発信するだけの機器が50年も絶たないうちに急速に進化を遂げて他の惑星、小惑星、衛星、彗星などの探査を成功させるまでになったのは驚くほど。
その間の主な話題を取り上げているので、宇宙開発の全体像を掴むには良いかもしれないが、いかんせん話題が多すぎて一つ一つのトピックに割かれるスペースが少ないのが残念なところ。
思い入れのある宇宙探査計画もあっさりと流されてしまうと残念さを禁じえない。
深さを捨てて広さを採ってしまえば仕方のないことだろう。そういう目で見れば、金星や火星といった隣の惑星への調査、深宇宙で出会う謎、他の惑星の衛星や彗星といった謎に満ちた天体と、探査だけでも話題が豊富だし、印象的な月面着陸へのレースや日本の宇宙開発史も手短にまとめられているのは利点。
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![]() | 脳のシワ (新潮文庫) (2006/07) 養老 孟司 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
脳の話が流行った結果、すっかり時の人となった養老さんのエッセイ。個人的には『バカの壁』のように目新しい話が無い本より、本書のように著者の感性がほとばしる方が好きだ。
いつも周りに昆虫や魚などの生物がいた少年時代、まだ幼い頃に亡くなった父親の話、タバコを辞めない理由と、身近な話が続くと思いきや、唐突に内臓の話になるあたりの突飛さが面白い。つまるところ、エッセイの面白さは意外な結びつきにあるわけで、楽しく読むことができた。
東大で教授にまでなっていながら功利主義だとか実利主義とは無縁の養老さんのことだから、体内にも無駄があることを嬉しそうに語っているところなんかは、忙しい生活にあってほっとさせられる。
疲れた時に肩の力を抜いて読むのが良さそうな一冊。
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![]() | 三国志 きらめく群像 (ちくま文庫) (2000/11) 高島 俊男 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
いやー、三国志は面白い。
三国志に限らないのだろうけど、戦国時代というのはそれまでと違う人物達が台頭し縦横無尽の活躍をする。
平時というのは、結局のところ権門が一族を政治の中枢に送り込んでいるだけの時代なのである。従って、追いかけるのも退屈極まることになる。しかし、乱世は違う。治世にあっては能臣として一時だけ名を馳せたとしてもそれだけで消え去る人物が、乱世に会っては姦雄として天下を狙うことになりえるのだ。
曹操、劉備、孫権といった、各国を作り上げた人物は勿論、その配下の人物も気が赴くままに取り上げているのが本書。
取り上げられているのは董卓・呂布、夏侯惇、典韋、許褚、荀、華歆、陳宮、華陀、公孫瓉、袁紹、沮授、献帝、董承、伏皇后、劉表、蒯越、黄祖、徐庶、北宮伯玉、傅燮、馬騰、韓遂、張昭、周瑜、魯粛、闞沢、龐統、関羽、張飛、張松、張魯、丁夫人、呉夫人、甄夫人、曹操、孫権、劉備、諸葛亮に加え、それぞれに関与の強い人々である。
なかにはスーパースター級の人物もいるし、マイナーな人物もいる、例えば北宮伯玉、傅燮、丁夫人あたりはちょっと三国志が好きだというレベルの人には知られていないのではないかと思う。
これらの人々について、正史ではどのように取り上げられているかということを、三国志、後漢書、晋書等の記述に基づいて縦横無尽に語っている。
で、魅力なのは縦横無尽に、というところ。つまり、学術的な研究成果を参考にしながらある意味で好き勝手を書いているとも言える。この、好き勝手を言っている部分というのが実に面白い。なにせ、世間一般の制限がない。だから諸葛孔明が天才ではないと言い切るし、劉備がうだつのあがらないダメ人間だったことも明記してる。この辺りはコアなファンには知られていることだろうけど、知らない人には意外だろう。
これが夏侯惇が戦場に出た記録がほとんどない(あると負け戦)だとか、蜀とか呉なんて辺境の小国で中国史全体で見ればあってもなくてもどうでも良いレベルだったとなると、ファンは鼻白むだろう。このあたりを堂々と、というよりも容赦なく書いているので、読むほうとしては爆笑しながら読み進めることになる。
笑えるのに加え、三国時代の人物のうち、数千年の歴史的な立場から鑑みて重要な働きをした人々についてはしっかりそう評価していることはかなり価値が高い。曹操がどれほど重要な人物だったか、改めて思い知ることが出来たのは収穫。もっとも、ここまでのマキャベリストにはなかなか付いていけないというのが現実なのだけど。
三国志初心者が読むのは全くお勧めできないが、誰のものでも演義を一度でも読んだことがある方にはお勧め。コアなファンにもきっと得るところが大きいと思う。といっても、私のレベルが知れたものなのでアレですけど。私としては三国志の楽しさをたっぷり味わえて満足の逸品だった。
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![]() | トリスタンとイゾルデ (竹書房文庫) (2006/10) ディーン ジョーギャリス 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
英雄物語といえば、昔から戦争か女か、はたまた戦争と女が絡むものと相場が決まっている。そして、周知の如く一番多いのは戦争と女が絡む物語だ。イリアスとか。そんなわけで、本書もご他聞に漏れず戦争と女の話。
アーサー王から題材を取ったものだが、本書はそれを更にハリウッド風味にした一品。
幼くしてアイルランド人に両親を殺されたトリスタンは亡き父の親友で命の恩人でもあるマークに忠誠を誓いアイルランド王への復讐心をたぎらせる。精悍な騎士として成長したトリスタンは、アイルランドの一行に攻撃を仕掛ける。しかし、フグ毒を塗った剣により傷つけられたトリスタンは死んだものと思われ、水葬に付される。
トリスタンが流れ着いたのはアイルランド。その彼を救うのがアイルランド王の娘イゾルデである。父王により政略結婚を強いられそうになっていたイゾルデはトリスタンと恋に落ちる。コーンウォール支配を企むアイルランド王の娘と、アイルランド王へ復讐心をたぎらせるトリスタンの恋の行方は・・・・・・
二人の数奇な運命の持ち上げ方はやはり上手い。全体的に漂うハリウッド臭が気にならないと言えば嘘になるが、運命的な出会いと破滅への道筋などはなかなかに面白い。ハリウッド仕立てではないトリスタンの物語を読んでみたくなった。
ただ、物語がイギリスなのに主君の妻に恋してしまうという辺りで三国志演義の董卓と呂布が被って仕方がない。三国志脳も困ったものです、ええ。
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![]() | 脳が「生きがい」を感じるとき (2006/07) グレゴリー バーンズ、野中 香方子 他 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
死に至る病、それは絶望であるという。では、生を満喫させるものは一体何であろうか。幸福だとか、生きる喜びだとか、そういったものを説明するのはもっぱら経済学だった。
単純に、快楽をもたらすものが生きがい、というのは答えの候補だろう。飢えているときに食べ、乾いている時に飲み、眠いときに眠り、セックスをする、これらのことは大いなる満足を与えてくれるのは事実だ。
しかし、快楽をもたらしてくれるものが幸福に結びつき、苦痛を与えるものが不幸に結びつくというほど単純ではない。その確かな証拠を求めて著者が訪れるのはなんとSMクラブ。帯にはこの時のエピソードが載せられているのだが、これは日本の販売部の慧眼であろう。
かのサドが初めて逮捕されたのは、メイドに鞭で自分を打たせたためだという。また、マゾの語源ともなったザッヘル・マゾッホは自分自身が相手に鞭打たれることを望み、望みを叶えるための契約まで結んでいた。脳は苦痛をも快楽と感じることがあるという証拠だ。
更に一般的な証拠といえば、ジョギング愛好家が多いことも挙げられる。ジョギングは明らかにカウチポテトより筋肉を酷使する。しかし、ジョギングを楽しむ人々は苦痛を味わっているわけではなかろう。マラソンは42キロ余りをひたすら走る競技で、ゴールと同時に倒れこむような選手も数多いるのに選手は次々生まれてくる。
その究極の姿として紹介されているのがウルトラマラソン。なんと、100マイル(160キロ)以上を走るという。それも一日で。私にとっては拷問としか思えない競技であるがこれも人気だというのだ。
これらは経済学では説明ができない。では、脳科学は答えることが出来るのか。それがどうも出来そうだ、というのが本書の立場である。
脳にあって喜びを与えてくれる部位として著者が目を向けているのは線条体である。では線条体が活動するのはどのようなときか。著者が目を向けているのは、脳の中の動きというよりもむしろ、こちらの疑問なのだ。
著者がたどり着いた結論は、脳が求めるのは新しさである、ということ。これは前書きで既に述べられることだ。脳が新しさを求めるということを示すために残りがあると言って良い。だからこそ著者は謎を解くために様々なことを体験する。そして自らの体験を通して脳研究を平易に語っている。中には驚くような事実もあり、中には身につまされることもある。言えるのは、どれも面白いということ。
脳が新しいことを求めるというなら、性のパートナーもそうなのか、という疑問にも答えている。性の世界の複雑さを再認識させられることに、不思議な事実に感嘆の念を呼び起こされる。新たなるパートナーとの刺激は男女双方にとって魅力が大きいのに、真の幸福はどうやら安定した夫婦生活にあるらしいということの両方がどちらも確からしいという。
矛盾しているように思えてしまうのだが、それでも実は矛盾はない。そこに複雑な存在としての人間が見え、それがまた面白いと思う。
脳内の物理化学的な話はほぼゼロなので、それを求める方には物足りないかもしれないが、不思議の詰まった魅力的な存在としての脳の面白さに興味がある方は満足できると思う。
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![]() | 確率・統計であばくギャンブルのからくり―「絶対儲かる必勝法」のウソ (ブルーバックス) (2001/11) 谷岡 一郎 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆
私はギャンブルをやりたい。どうせなら派手な掛け金が動くもの。勿論、私がやるのは胴元である。
なぜあんなにもパチンコ店が駅前に林立しているのか。簡単な話で、彼らの生活を支える(なおかつ朝鮮半島への送金する)だけのカネを利用者から巻き上げているからである。ラスベガスなどのカジノがなぜ成立するのか。それも同じ。宝くじだって競馬だって、経営側が儲かるからやっているのだ。
しかし、余剰の資金をギャンブルというゲームに費やすというのは分からないことではないし、当然のことながら間違ったことではない。ならば考えようではないか。どのゲームをどのようにプレイすることが最も有利なのか。
本書は競馬や宝くじ、パチンコに丁半博打(これは違法なのだけど)といった日本でも可能なギャンブルから海外のカジノで行われるゲームまで広く取り上げ、それがどのような仕組みになっているかを分かりやすく紹介している。中には意外な結論もあり、また中には笑ってしまうような話も紹介されている。
中でも笑ってしまうのは日本の官製賭博のあまりのぼったくりっぷりである。例えば、海外のカジノでは投資額の95%程度は還元されるような設定になっている。なので、100万円分ゲームをすれば、期待値通りの結果では95万円になる。
しかし、日本では違う。なにせ、宝くじの還元率は45%。100万円分買えば自動的に45万円になるという素晴らしいシステムである。運営側に。競馬などで80%。これでも海外のカジノと比べるとトンでもない数値だ。
ところが、日本でも気を吐く博打が二つ紹介されている。一つは丁半博打。なんと、還元率90%。この数値を見ると一般人から搾取するのはヤクザなのか公権力なのか分からん。そしてもう一つはパチンコ。これは実に意外な話なのだけど、計算式を見れば納得のいくもの。というわけで、勝つために宝くじを買うくらいなら丁半博打をやった方がよさそうだ。
元率だけの話ではない。なんと、本書ではどうすれば勝ちやすいかまで紹介してくれている。これはもう、ギャンブルを楽しむ方なら読まないわけには行かないのではないか。95%以上を還元しつつも胴元の勝ちを保障する大数の法則から逃れられないのは当然だが、少しでも勝てる可能性は高いほうが良いのは間違いない。
取り上げるギャンブルの種類も極めて多い上、詰め将棋などへも話が広がるので読んでいて飽きることがない。更に、良いピッチャーと良いバッターではどちらが勝ちに貢献するかを数学的に示す、なども面白い試みだ。確率論がそもそもギャンブルから生まれた学問であるからには、ギャンブルから確率論としての話になってもおかしくはないだろう。
負けてもどうってことない程度の資金があるので数学なんて要らない、という方以外にはお勧めできる。
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