![]() | 補給戦―何が勝敗を決定するのか (中公文庫BIBLIO) (2006/05) マーチン・ファン クレフェルト 商品詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
腹が減っては戦は出来ぬ。
人類の歴史は戦争の歴史とも言われるが、ということは補給をどうするかということが絶えざる問題だったということになる。戦場において、いかにして兵士に飯を食わせるか、消耗品をいかにして手に入れるかは、しばしば戦略そのものよりも大きな問題となって立ちふさがったのだ。
しかしながら、これほど重要な補給について、十分な研究は行われてこなかったと著者は指摘する。第一次世界大戦前に、ドイツの参謀長だったシュリーフェンの計画した壮大な計画であるシュリーフェンプランは、ベルギーやオランダを迂回することでフランス-ドイツ間の国境地帯にある要塞を無力化し一挙にフランス中枢に攻撃をかけるというものだった。
このシュリーフェンプランへの兵站面での批判が、迂回する半径より行動距離が長いので補給が現実的ではないという程度のものとはなんとも意外な話である(もっとも、本書の初版が1977年であることを考えればその後に研究が進んでいる可能性もある)。
厳密に事実と妥当性に基づいて近代戦争における兵站の問題を取り上げる意欲作である。といっても、取り上げられるのはヨーロッパの戦争であることは手に取る前に知っておいたほうが良いだろう。具体的にはナポレオン戦争から二次大戦に至るまでの戦争である。従って日露戦争やアメリカ独立戦争は扱っていないし、島嶼を舞台にした戦争についても触れられていない。その点で、日本の読者としてはちょっと物足りなさを感じるかもしれない。
さて、本書では近代戦争に移る前、16〜17世紀の戦争について述べるところから始まる。スウェーデン王グスタフ・アドルフの戦争を取り上げることで、近代戦とそれ以前の闘いの違いがはっきりしてくる。
補給に興味がある方は是非読んで確認して欲しいのだが、兵站のあり方が大きく変わったのは、意外なことに二次大戦という。私のような半可通の場合、普仏戦争において大モルトケが列車を利用した補給体制を築いたのが変化点だと認識していたのだがそれは違ったようだ。
具体的にいってしまえば、ナポレオン戦争のような大規模な軍事行動を含め、軍は現地調達に頼っていたという。従って、補給線の問題は存在しなかった。むしろ、行動を止め、一箇所に留まろうとするとその地方の食料を食い尽くしてしまうという問題が起こった。ということは、歴史上ほとんどすべての軍隊は食料を求めて徘徊する武装集団と言い換えることすら可能かもしれない。
なんとこれがナポレオンも可能だったというのだから驚くのは当然だろう。なにせ、グスタフ・アドルフの軍はたかだか数万で、それですら一箇所に留まれば食料が不足したというのにロシアに攻め込んだナポレオンの軍は60万である。皮肉なことに、ナポレオンはロシア遠征にあたって過去になく兵站に気を配ったというのだが補給計画は画餅に終わった。大モルトケが失敗した理由は、なんと列車によって兵站駅に到着した物資を前線まで運ぶ手段がなかったことだという。
兵站の重要性に視点が置かれているため、取り扱っている個々の戦争の展開や帰趨について詳しく触れられていないのが残念だが、どれほど兵站業務が実行困難かつ重要か思い知らせてくれている。
冗談抜きでかなり専門性が高く、私を含め一般人が読んでも何かの役に立つということはないだろう。しかし、兵站という思想、特に近代戦においては戦略や政略すら兵站の限界に従わなければならない以上、このような専門知に触れる機会があることは評価されるべきだろう。どれほど嫌でも、今後も戦争は起こるだろうし、そうなれば兵站が死活問題として迫ってくるのだから。
また、ナポレオン戦争、モルトケの分進合撃、シュリーフェンプラン、砂漠の狐ロンメルの戦いと、興味を引く戦争を中心に扱っているので戦史に興味がある方は兵站という視点からこれらの戦争を眺めると、戦略中心の観点からは得られなかった知識を得られるのではなかろうか。難解ではあるが価値ある一冊だった。
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