![]() | チャター―全世界盗聴網が監視するテロと日常 パトリック・ラーデン キーフ (2005/11) 日本放送出版協会 この商品の詳細を見る |
評価:☆☆☆☆
ジョージ・オーウェルの『1984年』を読んだときには戦慄したものだ。ビッグブラザーによって何もかもが盗聴された世界。そこでは政府はその情報を使って徹底的に人々を管理しているのである。
オーウェルが描いたディストピア社会をもたらす盗聴社会は、まず彼の想定通り共産主義国において猛威を振るった。しかし、最も完璧に近い形で盗聴社会をもたらしたのは皮肉なことに民主主義国家においてだった。
アメリカにおける国家安全保障局(NSA)を中核とするエシュロン・システムはそれこそ世界中の情報を盗聴していると思って間違いはない。ジェイムズ・バムフォードの『すべては傍受されている―米国国家安全保障局の正体』にはあらゆる情報へ貪欲に触手を伸ばすNSAについて詳述されていた。
本書は、諜報機関としてのNSAとエシュロン・システムに対し、人々のプライバシーは保たれているのかを縦軸に、期待されている役割を果たしているのかを横軸に、現代の諜報組織の姿をあぶりだしている。
プライバシーについては各自で考える必要があることだろう。本書では、プライバシー擁護派の意見を述べることでとても参考になると思う。
しかし、ここでは著者が指摘するとおり、あなたや私の電話やメールの内容が全てエシュロンで盗聴されているからといっても、実のところ誰もそんなものに興味を示したりはしないという事実を述べておくに留める。
諜報機関が役割を果たせているどうかはそれでは済まない問題だ。なぜなら、我々の税金が適正に使われているのかという問題が一点。そしてもう一点は、我々の安全や平和が保てるのか、という問題だ。
なんといっても、我々はつい最近、NSAをはじめとする諜報機関の大失敗を二つ、目の当たりにしてきた。それは911の同時多発テロを防げなかったことであり、イラクに大量破壊兵器が存在する確かな証拠があるとしてアメリカがイラク戦に踏み切ったことである。
911では、後知恵の見地に立てばテロを示す数多の前触れがNSAに集められていたことが分かっている。しかし、膨大な情報量の中から差し迫った危機に気付き、対応することは果たして可能なのか。また、イラク開戦では間違いのない証拠とされたものがお粗末なでっち上げだったことが判明している。
どの情報が重要で、どの情報を急いで解析しなければならないのか。困難さは増す一方だ。多くの興味深い話題を交えながら、現代のスパイの実像と限界を明らかにしている。とても興味深い一冊。
なお、情報戦に興味があるのなら、この分野における必須技能である暗号について、サイモン・シン『暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで』を強くお勧めしたい。
ランキングに参加しています。面白いと思ったら押してくださいませ。
(ランキングサイトが立ち上がります。不快でしたら無視して下さい)




