![]() | ソロモンと奇妙な患者(クランケ)たち 野村 潤一郎 (2000/09) 筑摩書房 この商品の詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
ほとんどの獣医は犬猫しか扱わない。実際、動物病院に犬猫が冠してあるところの何と多いことか。暫く前までなら、それでなんとかなったかもしれない。ペットと言えば犬、猫、それにせいぜい兎くらいだったのだから。
しかし、現在ではそれでは間に合わない。フェレットのような愛玩動物は簡単に手に入るようになっているし、哺乳類の枠を超えて爬虫類、魚類、両生類、昆虫、節足動物を飼う人も増えてきた。私の友人もイグアナを飼っている。個人的には、イグアナがあのいかつい顔で植物食なのは納得いかないのだが。
ではいとしの蛇や鰐や蜥蜴が怪我をしたり病気になってしまったらどうするのか。まさか蜥蜴と犬を同じような治療をするわけにもいくまい。
動物達の医療砂漠に敢然と立ち向かっているのが著者。といっても、著者の場合、使命感だの正義感だのが背景にあるわけではない。広く生物一般へ抱いている愛情の故である。
というと胡散臭く感じるだろうが、それは誤解だ。なにせ、著者はただ単に動物が好きで動物の傍にいられる職業を選んだ結果として獣医になった変り種。時間とカネは悉くペットにつぎ込む熱心さである。自ら怪物館と呼ぶ自宅には常時100匹以上のペットがいるというのだ。著者が(ついでに私も)最高のペットと信じる犬を筆頭に、猫や蝙蝠、スカンクのような哺乳類、大型熱帯魚、蜥蜴、蛇、亀と実に様々。人間から進化した犬人間だと主張する始末である。
著者の周りには、同好の士が集まってくるというので、その話の濃いこと。夜中に山まで虫取りに行ったり(山の中では飲食、喫煙、はては大声まで禁止という)、得体の知れない事件に出くわしたり、深夜に公園で犬を離していて警官に喧嘩を売られたりと事件は続く。
この辺りの話は実に面白い。そして、随所に織り込まれるのが動物の都合の良い飼育をきちんとやっているのかという問いかけ。著者は働き始めた頃、毎日おかずが納豆だけで、それでも犬の食事は手を抜かなかったという。動物の命を預かる以上、こちらも対等に相手のために命やカネを削るのは当たり前だと言い切るのだ。
これはなかなかできることではない。爬虫類のためには、環境をできるだけ野生状態に近づけるためにカネをはたき、触れ合いは求めない。それで良しとする覚悟がなければ飼うべきではない。確かにその通りだけど、愛情が湧けば触れ合いたくなるのも人情だろう。だからこそ人間の覚悟が必要かもしれないのだが。
実のところ、著者のマッチョな生き方は苦手だったりする。しばしば暑苦しく感じられて仕方のないところもある。それでも、著者に飼われた動物は決して棄てられたり殺されたりはしないと確信できてしまう。ハチャメチャさと相俟って、読み物としてはとても楽しい一冊だった。
ランキングに参加しています。面白いと思ったら押してくださいませ。
(ランキングサイトが立ち上がります。不快でしたら無視して下さい)




