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380冊目 タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代
タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代 タングステンおじさん―化学と過ごした私の少年時代
オリヴァー サックス (2003/09)
早川書房
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評価:☆☆☆☆☆


 神経科医で、『レナードの朝』で知られるオリヴァー・サックスは優れたエッセイストでもある。私は脳に損傷を持った患者達との触れ合いから生まれた名著『火星の人類学者―脳神経科医と7人の奇妙な患者』を読んで以来、医学的な探究心と患者への暖かい思いやりを強く感じさせる著者のファンになってしまった。

 本書は著者が子供の頃を振り返ったエッセイである。多くの人には馴染みのなさそうなタイトル、「タングステン」の正体を知れば、サックス少年が科学、とりわけ化学の世界に魅惑されたことが理解できるだろう。

 自前の少年の頃から自前の実験室を構え、ナトリウムなどの反応性に富んだ金属を水に放り込んで燃焼させたり、炎色反応を楽しんだり、希ガスのような反応性に乏しい元素やハロゲンのように激しい反応をする元素の間の違いについて思いを馳せたり、といったことを心底楽しんでいたとは意外だった。そこには後に神経科医として縦横に発揮されることになる知的好奇心が見られるのではあるが、興味の対象が余りにも深く化学に特化されているように思えてならないのである。

 私も化学を学んだ身ではあるが、ここまで化学を楽しいと思ったことはないのではないか。我が身の不明を恥じつつそう思わされた。

 さて、サックス少年を化学の世界にいざなったのは伯父達の影響が大きいようである。その一人が本書のタイトルともなった”タングステンおじさん”である。タングステンの持つ独特の力にビジネスと魅力を感じたであろうこの科学の徒によって、若きサックス少年は化学の世界に誘われることになる。その魅力の伝え方は学校ではとてもできないほど。(どうして学校ではできないかというと、かなり危険な実験も自由にさせてあげていたことなのだろうから仕方がない面もあるのだけれども)

 戦争や身近な人々の死によって動揺した当時の心境を重ねながら化学に魅せられていた日々をつづった一級品のエッセイだと思う。実に驚くべきことに、サックス少年は子供の頃に判明していた化学の知見を幅広く習得し、自らも実験を行っていた。化学を楽しんでいたからこそできることだろう。化学の世界の面白さを縦横に語り尽くしている名著であると思う。異才に驚かされながら、身をもって知ることの楽しさを感じさせてくれた一冊。
エッセイ | 2007/09/19(水) 23:32 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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