![]() | 深海のパイロット (光文社新書) 藤崎 慎吾、田代 省三 他 (2003/07/17) 光文社 この商品の詳細を見る |
評価:☆☆☆☆☆
パイロットと聞くと、どうしても遥か天空を駆ける人々を思い浮かべるだろう。そこにあるのは高さとスピード、そして孤高である。
しかし、正反対の世界にも冒険の世界がある。いや、むしろ、空という、ある意味で開発されつくした世界ではなく、本書が取り上げるような違う世界だからこそありうる冒険というのも確かに存在するのだ。
というのは、知ってのとおり人類は月まで到達している。その距離およそ38万キロ。ところが足元の、海底1万メートルの世界はほぼ人跡未踏の状態に留まっているのである。1万メートルというと、たかだか10km。その距離を歩くとするとわずか2時間30分で事足りる。その”近場”に、人類はほとんど足を踏み入れることができないのだ。障害となるのは距離ではない。圧倒的な水圧である。
水中に10メートル潜るごとに、1気圧分の圧力がかかる。100メートル程度の深さであれば人間も生身で耐えられても遥か深みには耐えられない。海底に潜るというのはそれだけ大変なことなのだ。おまけにたかだか数百メートルも潜れば、そこには太陽の光も届かない闇の世界となる。
高圧の闇の世界。そこに何があるというのか。漆黒の闇の世界を前に、多くの人は何もない世界を思い浮かべてしまうだろう。しかし、そこには地上からは想像も付かない不思議な世界が広がっているのである。本書は、そんな深海に潜る人々の話をまとめている。
深海に潜るための船、それを操る人々、そして深い潜行から何かを知ろうとする人々。本書ではそれぞれの立場から深海の探検に何があるのかが生き生きと描かれている。本書に出てくる誰もが暑い情熱を持って課題に取り組んでいる上、一般に知られていない冒険であれば面白くないわけがないのだ。
深海2000に始まり、6500メートルまで潜れる深海6500を駆使しての調査には、思いもかけないことが多い。とりわけ、科学者の誰もが予想すらしていなかった発見の数々には、読者も興奮を味わえると思う。
私が面白かったのは、科学者が飽くなき好奇心を発揮して、無人機ですら到底できないような作業を有人で行わせること。科学者曰く、無人だと危なすぎてやってもらえない。それを黙って有人でやってしまうというのは凄い。
また、チームごとにも争いがあるのも面白い。あいつらにできたら自分達にできないわけがない、という自負。世界の一線に立つ人は誰でもきっと持つものなのだろうが、はっきり表明されると気持ち良い。しかも結果が伴っているのがすばらしい。
深海の持つ魅力をたっぷり味あわせてくれる一冊。海に興味がない方でも、表層近くの水に隠された奥の世界を知る喜びを知らしめてくれるだろう。文句なしにお勧めできる冒険の書であると思う。
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