![]() | 心は実験できるか―20世紀心理学実験物語 ローレン スレイター (2005/08) 紀伊國屋書店 この商品の詳細を見る |
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評価:☆☆☆☆☆
形があるわけでもなく、常に一定の働きをするわけでもない心。その心のあり方を探ろうと、多くの実験が行われてきた。少なからぬ実験で、意外な心のモデルが提唱されてきた。本書は著者が重要と思った10の心理学実験を取り上げている。
本書の性格上、有名な実験が多い。生物に自由意志があることを疑ったスキナー、人間は権威に従うなら暴力性すら発揮できることを示したミルグラムの実験(通称アイヒマン実験)、記憶とは過去の出来事の正確な経緯ではなく記憶を取り出す際にあらゆる変形を遂げるものであることを証明したロスタフ。
そのいずれも、一つの実験と実験から導かれる理論によって心のあり方の全てを解き明かしているわけではない。それぞれの実験から心のあり方の興味深い側面が浮き彫りになってきたのだが、たった10の理論からも矛盾が出てくる。
人間の存在を確かに抉り出しているように思えた実験が、別の実験によってあっさり覆る。しかし、いずれの実験を元にしても現実の少なからずを説明できるのは確かなのだ。認知的不協和理論も、行動心理学も、偽の記憶も、依存症の研究も、どれも。
だから、唯一の真理を知るために本書を手に取るのではなく、人間の心が持つ複雑さを知るためにこそ読むべき本なのかもしれない。そう思えば、多くの示唆に富んだ良書として本書と付き合えると思う。
個人的には、失敗以外の何ものでもないと思っていたロボトミー手術が精神外科として形を変え、しかも一部の患者には福音をもたらしているという確かな証拠があることが意外で面白かった。豊かな環境があれば動物は薬物に耽溺しないなんて、動物がどれほど人間に近いか感じさせてくれる。
また、精神科医は精神病者を正しく見分けることが出来るかという実験も興味深い。精神科医を訪れた実験者は統合失調症を疑われ、入院させられてしまう。入院した患者は自分は正常だから出してくれと主張しても医者は信じない。ところが、入院患者はその正体を性格に見破ったという。精神科の存在意義についても考える一助になるのでは無いか。
ちょっと残念なのは、かなり自分語りが見られること。冷徹に実験の意義と現実への適用を書いてくれた方が良かったように思う。それでも、そのような視線を持つからこそ多くのインタビュー(実験を行った科学者を含む)を得られ、本書の糧になっているのかもしれないのだが。
精神のあり方について興味を持たせる、なかなかの良書だと思う。スキナーやミルグラムの名前に聞き覚えがある方はぜひ手に取ってみてください。
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