![]() | 宿命―「よど号」亡命者たちの秘密工作 高沢 皓司 (2000/07) 新潮社 この商品の詳細を見る |
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評価:☆☆☆☆☆
1970年3月31日7:30羽田を発った福岡行の飛行機内で、9人の男たちが行動を開始した。
「我々は赤軍派だ。北朝鮮へ行け!」
当時は飛行機にも名前が付いていたため、このハイジャック事件はこの飛行機の名前で知られている。所謂「よど号」事件である。
福岡で一端着陸した後、北朝鮮へ向かった「よど号」は平壌からと信じた案内に従ってソウルに着陸させられる。膠着した状況下で、北朝鮮が入国を認めたことが決め手となって「よど号」はついに平壌に向かって飛び立つ。北朝鮮で軍事訓練を受けて日本で革命を起こす、というハイジャック犯の希望を載せて。
本書はすべての始まりとなったこのハイジャック事件から説き起こし、「よど号」ハイジャック犯たちの余りに無邪気な希望が潰え、挙句の果ては将軍様の忠実なる僕へと堕していく様を克明に描いている。
北朝鮮にたどり着いた彼らは、共産主義が民主主義に対して収めた勝利の証として王侯貴族にも劣らぬ待遇を受ける。そして、貧しい人々のための革命を夢見たはずの彼らは、決して貧しい北朝鮮の一般人と同じ生活を送ることなく、贅沢を享受した。日本に居ては決して味わえないような生活レベルを、彼らは先進的な自分たちが当然受けるべきものとして受け取ったのだ。
それでも彼らに無かったものがある。それが自由。監禁状態に置かれ、主体<チュチェ>思想(思想なんて大げさなものではなく、将軍様のおっしゃることは全て正しいというレベルの妄言)を強制される。いつしかチュチェ思想の信者となり、将軍様の下僕と化した彼らは世界を舞台に北のための工作に従事するようになっていった。
本書は「よど号」ハイジャック犯が辿った経緯を丁寧な取材とハイジャック犯たち相手のものを含む膨大なインタビューから明らかにしている優れたノンフィクションである。ヨーロッパや日本を舞台にした日本人の拉致、麻薬密輸などの犯罪行為と、読んでいて腸が煮えくり返るような憤りを覚えずには居られない。今も拉致された方々の多くは、北朝鮮からその事実すら認められずに抑留されているのかと思うとたまらない気分になる。
しかし、著者はこの憤りを胸にしながら冷静になぜ日本人の拉致事件が起こったのか、それはどのように行われたのかを追いかけている。その背景については是非本書を当たって欲しいと思う。ここでは「よど号」の犯人たちが他者へ対する最低限の思いやりすら喪い、(彼らとは違って)意に反して北に連れてこられ、監禁されている人々を道具か何かのように扱ってきたことだけを覚えておけば良いと思う。とにかく拉致の被害に遭った人々が一刻も早く帰国されることを願ってやまない。
また、北朝鮮の中で起こったことゆえ本書では明らかになっていないのだが、「よど号」ハイジャック犯のメンバーのうち、姿を消してしまった者が2名いる。彼らについての調査から、ハイジャック犯たちはチュチェ思想から外れた仲間の状況(はっきり言ってしまえば死)すらにも冷淡になっていたことが示唆されている。イデオロギーの恐ろしさであろう。
日本の左翼運動を決定的に叩き潰したのが連合赤軍による浅間山荘事件と、”総括”の名の下に仲間の多くを殺害していたことが明るみにでたことだろうが、「よど号」の転落はまた別の左翼運動の仕方なさを表しているように思えてならない。それは、多様な生き方を認めず、指導者の絶対的な指導に従うことによる弊害である。そして自分たちを”目覚めたもの”として特別視する傲慢な姿勢である。
日本共産党とて例外ではない。ほんの僅かに意見を異にしたというだけの党員を周囲から隔離し、家族にも会わせない厳しい査問を今でも行っていることからも明らかだ。こんな政党が政権をとれば、共産党と対立するような意見の持ち主はどうなるのだろうか。クメール・ルージュも中国共産党もスターリンのソ連も、共産主義を名乗った国がどれほど国内で人々の虐殺に狂奔したか、我々は忘れてはならない。
なお、「よど号」事件の経緯については無限回廊内の「よど号」ハイジャック事件ページが詳しい。
また、本書については敬愛するVIVAさんが取り上げているので興味がある方は是非どうぞ。
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