山本 明利編著 / 左巻 健男編著
講談社 (2006.2)
\1,208
評価:☆☆☆☆
本書は、高校の実際に授業で使える物理教科書である。採用されている教科書との唯一の違いは、検定を受けているかいないかだけ。
たったそれだけの違いなら無視して良いのではないかと思われるかもしれない。だけど、そうではない。この本は、ある意味で、容赦がないのである。容赦がないから検定外なのだ。
というのは、検定に合格するためには実に多くの制限を我慢しなければならない。それではその教科が持つ全体的な意味合いを俯瞰することはできず、近視眼的に受験テクニックを身に着けるための手段としての教科書にしかならない。
通常、教科書は読み物にならない。子供達が触れ合うべき教材が、読み物として魅力がない。楽しんで学ぶためのものではなく、受験のテクニックが書かれているだけだとしたら。そんな教科書によって挫折させられる人が多いのではないか。
本書は違う。高校で習う初歩的な数学テクニックだけを使って、最新の物理学までを可能な限り導こう、というのだ。詳細な説明はできていなくても、相対性理論や量子力学の初歩的な点が理解しやすいように書かれている。といっても、きちんと数式の変形していく過程を理解するためにはそれまでに出てきた数式を飲み込んでいないといけないのではあるけれども。
検定による制限を越えて、物理学の扱う全体像を垣間見せるのに加え、それぞれの章ごとに、一見簡単に答えられそうな質問が用意されていて考えさせられるのも面白い。たとえば、子供が母親が持つ買い物袋を手伝って一生懸命にしていても、母親の負担は全く減らないことがある。これはなぜか。これは力を合成してみれば一目瞭然となる。具体化することで理解の助けにする、という配慮が見られているのが嬉しい。
個人的にはこんな教科書で勉強したかったと思わせられた。章ごとに取り上げられている問題はどれもはっとするほど身近で当たり前なのに、いざ理屈で答えようとすると分からないようなものだったりする。だから先を読んで知ろうと思う気になる。生徒が学ぶ動機付けになると思う。
残念なのは、強い力、弱い力、電磁力、重力という宇宙に働く4つの力について紹介しているのだから、ビッグバンの直後にはこれらの力が全て同じように働いていたのではないかとする大統一理論など、未解決のトピックが無かったこと。まだまだ分かっていないことが沢山あるのだということを、高校生にもなれば知っていて損することはないだろう。
むしろ、自分こそこの問題を解いてみせる、と思うようになるかもしれない。アンドリュー・ワイルズがフェルマーの最終定理に挑もうと決意したような、そんなきっかけが生まれないとも限らない。科学は、まだ誰も知らないことを扱っているからこそ面白いのだということを、もっと伝えて欲しかった(ちょっとだけ触れてはいるが)。
読み物としてちょっと専門的過ぎるかもしれないが、一般教養として物理の世界を覗いてみようと思うのであれば最適かもしれない。
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