エリザベス・コストヴァ著 / 高瀬 素子訳
日本放送出版協会 (2006.2)
\1,785
評価:☆☆☆☆
親愛なる、不運なるわが後継者へ
そんな書き出しで始まる謎の手紙を少女が父の書斎で発見したときから、異常が支配する世界が彼女を巻き込んでしまう。「竜」、ここではドラキュラを指すその存在が顕わになっていくのだ。
ブラム・ストーカーのドラキュラは15世紀にワラキアを支配した暴君、ヴラド・ツェペシをモデルにしていることは有名な逸話である。ヴラドはオスマン帝国の侵略から故国を護った英雄である側面と、自国の民であれ他国の捕虜であれ、気に食わないとなればすさまじく残虐な方法で処刑していた。その方法から異名が付けられているほどだ。すなわち、串刺公、である。串刺にされ死に切れない人々が苦悶の声をあげるのを彼は楽しんでいた。
ブラドの異常さは小説とするのに格好の題材だったのだろう。その狂気、その恐ろしさは図抜けている。それゆえだろうか、中欧には吸血鬼伝承が大量に残されているという。(もっとも、中欧の伝説で語られる吸血鬼は血の詰まったぶよぶよの皮袋なのだが)
ブラドは、最終的にはオスマン帝国との闘いの中で命を落とす(別に暗殺説もあり)。彼の略歴はwikipediaに詳しいので興味がある方はヴラド・ツェペシュの項を参照したら本書をより楽しめるだろう。
さて、本書はこのヴラドの陰がちらつく小説である。歴史の深い闇の奥から触手を伸ばす怪物と歴史家(ヒストリアン)と影で争い続けてきた。竜の絵が描かれているだけで残りが空白の謎の書物と出会ってしまった歴史家たちと。
歴史家たちは中欧や中東とヴラドに縁があった地を巡り、彼の存在の謎を解き明かそうとする。その紀行文的な側面だけで十分に面白い。上巻だけだと騒ぐほどの名作とは思えないが最後までは読みたくなる小説、といったところか。
以下、ネタバレ防止。本書を手に取る積りの方は続きを読まないことをお勧めします。
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