三井 誠著
講談社 (2005.9)
\798
評価:☆☆☆☆
最新の人類学について非常によくまとまっており、新書に期待されている役割を見事に果たしている、というのが読んでいるうちにも感じられた。
人類学なんて聞いたこともない単語だという人も、アウストラロピテクスだとかネアンデルタール人やら北京原人やらジャワ原人やらクロマニヨン人なんて言葉を遠い昔に聞いたことはあるはずだ。
個人的には、なにやらサルだかチンパンジーだかと区別もつかないような類人猿が原人になって人類になったような感じの授業を受けた記憶がある。
しかし、現生人類の由来はそんな単純化はできない、というのがどんどん明らかになっている。類人猿から直線的に人類に至ったわけではなく、その過程で多くの分岐が起こり、現生人類に繋がるルート以外の全ての種族が死に絶えてしまった、といのが化石情報や遺伝情報から分かってきたことだ。
本書はそのあたりの発見を簡潔に、だが抜かりなく述べている。人類史を書き換えるような大発見の数々が網羅されているので本書だけでここ暫くの大発見を全て知ることができると言って過言ではない。
また、年代の測定方法として放射線年代測定法や遺伝子変化のスピードを使う方法などについても触れられているので、新聞などで見かける数百万年前と言う推定値がどのように組み立てられているかが飲み込めると思われる。その意味で、歴史や生物進化に興味がある学生向けとして極めて意義が高いのではないだろうか。
更に、遺伝情報からどのようなことが分かるのかといった話題も興味深いものが多い。なぜ冷たい牛乳を飲むとお腹を壊す人がいるのか。なぜ酒の強さに差があるのか。そんな生活に密着した話題も面白いのだが、個人的に最も面白いのは、視覚の話。
犬や猫は色が分からないと聞いたことがないだろうか。実は、哺乳類のほとんどは色を認識できない。そしてその事実は哺乳類の先祖が夜行性だったことを意味している。ではいつごろ夜行性だったのかというと、恐竜が闊歩していた時代である。昼は恐竜の世界だったため、哺乳類は夜にひっそりと出歩いていたのだ。光のない世界の故、色を認識する機能は失われ易かった。一度失った色を認識する力を、人類の先祖が取り戻してくれたおかげで今我々は色のある世界を満喫できている。
なぜこのような推定ができるのか、またどの遺伝子が変異したおかげなのかということが分かりやすく触れられているので、遺伝子の面白さも伝わってくる。
その他にも人類がどのように進化してきたか(証拠がないので実証面では弱いが魅力的な説であるアクア説)、いつからペットを飼い始めたのか、日本に人類がたどり着いたのはいつごろか―――
どの話題をとっても興味深い話題が並んでいる。もちろん、新書なので深い掘り下げはない。そういう点で個人的にはかなり物足りなかったとは思うのだが、それは求めるものが違っているのが原因であって本書の価値や魅力を損なうものではない。人類史の魅力を伝え、入門書として最適な本ではないかと思う。
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