高村 薫〔著〕
講談社 (2003.1)
\680
評価:☆☆☆☆☆
緻密な設定と圧倒的な文章力、そして考え抜かれた人物を書かせたら右に出るもののない高村薫の魅力に溢れている。
物語は昭和51年(関係ないが私の生まれた年)に始まる。飯場の作業員が登山者を殴り殺してしまった。本人は酔っ払っていて野生の動物と間違えたというのだ。自供と状況証拠に全く矛盾がないことから事件は酔っ払いの犯行として片付いた。片付いたはずだった。
同じ山から、一体の死体が発見されたことから状況が変わる。その死体のすぐ傍からは、登山者を殺した作業員のものと思しき腕時計が出てきた。身元を特定するものを何一つ持たない死体は、ご丁寧に歯をたたき折られていた。同時期の二つの死体。これは連続殺人なのか。
もう一つの殺人事件が、上記の殺人事件と交錯し、事態は混迷の度を深めることになる。都心で元ヤクザが殺害される。いや、それだけでは大事件にはつながらない。ところが、今度は高級官僚が殺害されてしまう。同一の手口と見られる犯罪から、合田雄一郎刑事は二つの事件を密接な関連を持つとして捜査に当たる。ところが捜査には不可解な圧力がかかり、上層部は連続犯罪であることを認めない。合田らを嘲笑うように、殺人が続く。
キーワードは、山。不可解な事件の裏で、山に繋がりを持つ男達の姿が見え隠れする。犯人の心に去来する山、殺人が行われた山。
犯人が誰なのかは、早々に読者に分かるようになっている。そのため、推理小説ではなく警察小説のようにも思われる。しかし、その範疇には収まらないように感じられてならないのだ。
また、本書は合田雄一郎を主人公とする一連のシリーズの記念すべき一作目である。合田という人物像がすでに高度に完成されていると感じられてならない。その合田が犯人と対面する最後のシーンは迫力とともに静かな感動がある。
相変わらず細かい描写が得意で、個人的には高級さを演出するために述べられている緑青にいたく興味をそそられた。銅の薬液がついた網を焼いた時の、鮮やかな炎色反応を思い出したからなのだけれども、さりげなく科学好きの心を揺さぶる何かがあるのは間違いない。(レディ・ジョーカーの記述によると合田は日経サイエンスを購読している)
彼女のファンである大学時代の友人I君から本書を薦めて貰った。期待以上の面白い小説であった。彼がこのブログを覗いているかは不明だけど、ここで感謝を述べておこう。また、ひろの東本西走!?のひろ009さんからもお勧めいただいた。改めて感謝したい。
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