カール・シファキス著 / 鶴田 文訳
青土社 (2001.10)
\5,040
評価:☆☆☆☆☆
タイトルどおり、古今のありとあらゆる類の詐欺とペテンが網羅されている。もちろん、騙すのが好きな人と騙されやすい人がいれば新たな詐欺やペテンが登場するのは避けられないが、パターンとしてみれば本書には詐欺とペテンに関する全てがあるといっても過言ではないだろう。
大百科と名乗るために高い質はもちろん、量も必要だと思う向きもあるかもしれない。だが、安心召され。量も凄い。550ページ以上にも渡る二段組で、これでもかといわんばかりの実話が満載されているのだ。百科事典を眺めるのは楽しいのと同様、本書も実に面白い。ただし、通読しようとするのは愚かしいと言うのも付け加えておこう。枕元において、毎日10〜20ページくらいずつ楽しむのが最適ではなかろうか。持ち歩くには重いし。
とは言っても、詐欺とペテンの集大成では腹立たしいばかりではないのかと言う方もおられよう。しかし、そうではない。詐欺とペテンとは言っても微笑ましいものもある。実質、被害者がいなかったものもある。こんなのに騙されるなよ、というものもあれば紛れもない歴史の一ページと思わせるものもある。
私が気に入ったのは農民虐殺の話。ある王が毎朝農民をライフルで撃つのを楽しみにしていたのだが、実は王に渡されたのは空砲で近衛兵が撃たれる農民を演じていた、というのは人を騙すことが必ずしも悪に結びつくわけではないことを示しているだろう。悪ふざけとして雪の朝に動物園にしかいないような動物の足跡を付けて回った人もいれば、ネス湖のネッシーに代表される珍奇なものの目撃談もある。大英博物館で実物を見てきた日本製の人魚のミイラも紹介されている。オーソン・ウェルズによる火星人襲来の偽ニュースもあれば、ドイツで断髪税なるものがかけられているというでっち上げが報道された事件もある(ちなみに、税金を払おうとする人々で市役所が囲まれたらしい)。
オカルト観察が好きな方にはフォックス姉妹やポルターガイストといった話が面白いだろう。"幽霊のまやかし"という項目ではイギリスで幽霊目撃談が多い意外な話が紹介されている。ありとあらゆる類の偽医療もあるが、これはつい先日"食べてやせる"という明らかな法螺を多くの人が信じ込むという信じ難い愚かさを呈した日本人には笑えない話かもしれない。ポール・マッカートニーの死亡説や、ミケランジェロが売れなかった頃にはインチキをしていたことも面白い。
歴史という点では、考古学者を翻弄したピルトダウン人事件や忌まわしき魔女狩りに関する話が載っている。魔女狩りの話で唯一面白いのは、オランダでの話で広場に秤を設置し、魔女と訴えられた女性をその秤に載せると「箒で飛べるほど軽くない」として無罪放免したというもの。ナチスドイツとソヴィエトの、国の命運を賭した壮絶な騙しあいには息を呑むし、シオンの賢者の議定書のように偽書として世界史を動かしたペテンにもお目にかかる。マリー・アントワネットの処刑の裏にも詐欺行為があったことを知る人は少ないだろう。
詐欺という点では、エッフェル塔やブルックリン橋、メトロポリタン美術館、マディソンスクエアガーデン、自由の女神像を売った話には不謹慎ながら笑ってしまう。ジョージ・C・パーカーという男は二週間に一度ほどの割合でブルックリン橋を売っていたそうで、そのとっぴなアイディアと実行力には感心させられる。
その他、お約束の美人局やネズミ講(マルチ商法)、ギャンブルでのイカサマ、不動産売買における各種のトリックや小売店でのごまかしなど、とにかく大量の詐欺とペテンの実例に圧倒される。これを知ることで騙されることに抵抗がつくか?それは分からない。最後は冷静さと上手い話には裏があるというシニカルな見方がものを言うような気がしてならない。だから、この本はなにかためになることを求めて読むよりも、楽しむことを目的に読むべきだろう。そして、その目的は達成されること間違いないだろうと信じる。それくらい面白い本である。
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