東嶋 和子著
講談社 (2006.12)
\987
評価:☆☆☆☆
放射線利用には大きな課題がある。それは人々が抱く負のイメージ。平和利用においてもチェルノブイリやスリーマイル島、そして東海村の事故があり、軍事利用では数十万の被害者を出した原爆の使用と相互確証破壊(MAD)という略称に相応しい狂った理論が大手を振ってまかり通っていた。
しかし、だから放射線は危険だから使用するべきではない、というのは合理的な立場とは言えないだろう。
本書は寺田寅彦の名言「ものを怖がらな過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい」を引き、正当に怖がるための知識を深めようと呼びかける。孫子曰く、彼を知り己を知れば百戦して危うからず、というやつだろうか。
読者の多くは、放射線が実に多様で生活に密着した使われ方をしている事実に驚かされるのではないか。
たとえば夏に欠かせない野菜、ゴーヤを食べることができるのは放射線を利用して害虫の根絶に成功したから(この話に興味がある方には『害虫殲滅工場』をお勧めしたい。文章は退屈だけど^^;)。
病院にいけば診断にMRIやレントゲンを使うし、旅行先ではラドン温泉で体の芯から温まり、ゴミ焼却炉ではダイオキシン除去に一役買い、歴史学では年代測定の強い味方となる。そのほかにもタイヤや半導体の製造には欠かせない技術として確立され、食品に照射することでO-157などの有害細菌を殺菌しジャガイモの発芽を抑えることにも使われる。
多くの例を取り上げることで放射線を無意味に恐れる必要はないのだと納得させてくれる。利用方法が正しければ我々の生活を豊かにしてくれるすばらしい技術になりうる、ということだ。
利点もあれば欠点もある。チェルノブイリでも東海村でも残念なことに死者が出てしまった。その危険性については正しく認識する必要がある。そして危険性についてもきちんと評価をしているのが心強い。利点を認識しつつ、どのように安全を確保するかを考えるのが重要だろう。
もう一つ。それでも放射線とかなんとかというのは難しそうだと思う方もいるかもしれない。しかし、本書は実に平易に書かれている上、キュリー夫人などによる発見の歴史をかいつまんで解説しながら放射線の性質や原理を丁寧に教えてくれている。中学生でも十分に理解できるほどのレベルではなかろうか。ちょっとでも興味を感じたら、タイトルだけで敬遠せず、どんな使われ方をしているのかを覗いてみるつもりで手にとって見てることをお勧めしたい。
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