ゲルト・ギーゲレンツァー著 / 吉田 利子訳
早川書房 (2003.9)
\1,995
評価:☆☆☆☆☆
数学とか確率なんて言葉を聞いただけで敬遠したくなる方もいるだろう。しかし、実は確率の話は面白い。そう思っていたのだが、どうやら面白いだけでは済まないようだ。というのは、数字に弱いということは思わぬリスクを抱え込むことになるかも知れないとの説得力ある指摘を本書から受けたからである。
たとえば、こんな話について考えてみて欲しい。あなたの住む町では、0.01%の人がHIVに感染している。検査方法に次の二つの条件が付きまとっているとする。
1.この検査はHIVに感染している人を99.99%の可能性で陽性を示す
2.同時に、HIVに感染していない人を99.99%の可能性で不感染を示す
さて、あなたがHIVの検査で陽性と判定されたとしよう。あなたが実際にHIVに感染している可能性はどれくらいか。
答えは50%となる。(反転させたら答えが見えます)
この結果には誰もが驚くのではなかろうか。どうも常識から外れているような気がする。その不思議を確かめるには本書をあたって欲しいと思う。
この一事をもってみても、数字から受ける直感的なイメージというものがどれほど事実から離れているかを知ることができるだろう。勿論のこと、話はHIVだけに留まらない。死すべき運命にある人間の一員である以上、HIVに限らず様々な病気に罹患する恐れが付きまとうため、ありとあらゆるリスクについて同様の話が成り立つのだから。
大腸癌や胃癌や肺癌、心臓病に事故災害と恐れるべきものは沢山ある。でも、それらに対して正当な恐れを持つのは困難極めるのだ。あなたが女性なら乳癌も考慮すべきリスクに入るかもしれない。しかし、実際のところは50歳未満の女性に取っては乳癌の検診を受けるメリットは全く存在しない。あなたが50歳未満の女性で病院経営者であれば他人が検診を受けてくれるメリットはあるだろうが。
数字を言われるとつい鵜呑みにしてしまうのは多くの人が一緒だろう。そんなことを言う私もその一員である。しかし、それがどれほど危険な態度なのかは知っておくべきだろう。
本書を読むことで、医者から言われる数字のその計算方法について当否が判断できるようになればあなたは自分と家族の健康についてより確かな自信を持てるようになるはずだ。なにせ、本書にも多くの例がある通り、医者も確率的な考えが苦手なのだから。
医者が数字に弱い結果として、不利益を蒙るのは患者だけである。死の恐怖に苛まれ、苦しい検査を我慢し、おまけに多額の出費まで強いられる。ところが、実はあなたは病気ではなかったのかも知れないのだ。
そんなことは滅多に無いだろうし、それが自分の身に降りかかる可能性は更に低いというのは一つの意見かもしれない。しかし、そのリスクはあなたが思うより高い。先に挙げたHIV陽性と判定された場合の実際の感染率があなたの予想より遥かに低かったように。
確率を知ることで見えてくる意外な話を上手くまとめていると思うし、話題も我々の人生に身近なものが多いので楽しく読むことができる。そして、自分自身についての判断を他人に委ねることがどれほど危険なことなのかも知ることができる。楽しくてためになる、素晴らしい本である。患者は勿論のこと、医者を初めとする医療従事者にも是非読んでもらいたいと思う。
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