高村 薫〔著〕
講談社 (1999.2)
\750
評価:☆☆☆☆☆
さすが高村薫。冒頭の、“毎朝、あるのは重力だけだ”という書き出しでもうやられてしまう。
自然科学に興味を寄せ、大陸の人々と機械工とが大活躍する彼女の作品らしく、今回もその類の人々が縦横に活躍する。
主人公の吉田一彰は毎朝重力を感じるだけで何かを成し遂げる覇気はない。女性との逢瀬を重ねながら怠惰な日々を送っていた。その彼の生活が一変したのは、バイト先で否応無く殺人事件に巻き込まれてからのことだった。犯人は李歐。若く、美しい男だった。
李歐に魅せられる吉田となぜか吉田を気に入る李歐。李歐の依頼人や対立する犯罪組織、そして大陸の政治事情と複雑怪奇な情勢に置かれても、相変わらず吉田は自ら何かを選び出す生き方はしない。ただ、機械をいじるのが楽しいだけだった。
やがて李歐は大陸へ去る。再会を約して。
壮大なストーリーとカネや力が複雑に絡み合い、おまけに共産中国などの政治情勢が見え隠れする。そんな客観情勢と、どこで知ったのか不思議に思うほど書き込まれる機械加工の話がどうにもアンバランスに見えながら独特の世界を形作っているのを実感する。
構想力や人物の書き込みは本当に見事なもので、物語に引き込まれる楽しさを味わうことができた。あの人が死ぬのは見え見えだったけど。手軽に読める本ではないけれども、面白いので小説好きにはお勧めしたい。
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