デイヴィッド・スコット著 / アレクセイ・レオーノフ著 / 奥沢 駿訳 / 鈴木 律子訳
ソニー・マガジンズ (2005.5)
\2,100
評価:☆☆☆☆☆
著者のデイヴィッド・スコットとアレクセイ・レオーノフの名前を聞いてもぴんとこない人が圧倒的多数だろう。そんなことを言う私自身もその一人だった。簡単に済ませてしまうと、アレクセイ・レオーノフはボスホート2号に乗り込んで人類初の宇宙遊泳を成し遂げ、デイヴィッド・スコットはアポロ15号の船長として月面を歩いた7人目のとなった人物である。
知ってのとおり、宇宙開発にはアメリカとソ連という当時の二大大国の威信を賭けた壮絶な争いがあった。国も違えば政治的な情勢によっては戦場で相まみえたかもしれな2人が活躍した舞台はこそがその宇宙開発だった。彼らに共通していたのは幼少の頃からパイロットに憧れていたことと自分の道は自分で切り開こうとする独立心、そして夢を適えるためには自分に打ち克てる強い意志だった。
本書はスコットとレオーノフという、冷戦の最中に宇宙開発で凌ぎを削った2人がそれぞれの生い立ちから自分たちが遭遇することになった宇宙開発の歴史を語っている。
前半で面白いのは圧倒的にレオーノフ。なにしろ、彼は当初から宇宙飛行士を志し、かのガガーリンの親友で、仮にソ連がアメリカに先んじて月面到着を果たしていたら人類最初の月面歩行者になっていたであろう人物である。スプートニクに代表されるように、宇宙開発の前半においてソ連が大きくリードしていたことを考えるとソ連の活動の面白さは言葉では言い尽くせない。もっとも、今の私は面白いといえるが、当時はその面白さを100倍にした以上のショックをアメリカは受けていたことだろう。
アメリカが逆転する機会は容易には訪れない。アメリカ側は知らなかったことだが、ソ連の開発をリードしたコロリョフが死去するまでアメリカはソ連の後塵を拝することになる。コロリョフと並び称されるフォン・ノイマンが健在であった頃から。初の衛星も、初の有人宇宙飛行も、初の宇宙遊泳もソ連が先んじていたのだ。
アメリカがリードするのはようやく月に人類を送り込むというケネディの宣言からである。
事故も付き物だった。たとえばジェミニ8号の事故は宇宙開発史に残るものだった。月面到着に向けた事前のドッキング試験において、宇宙船は突如として回転運動を始めてしまい、予定をキャンセルして地上への帰還を余儀なくされる。そのときの船長はニール・アームストロング。後に月面を歩いた最初の人物となった彼である。その副官として同乗していたのが著者の一人であるスコット。絶体絶命の危機を2人の冷静沈着な判断は耐え抜いた。
月面を目指した苦労の結晶は月面に人類を送り込んだという大きな成果となって実る。この際、どちらが先かというのはつまらない話であろう。
苦労の果てに大きな成果を手にすることができた当事者の経験が面白くないわけがない。本書を読むことで読者は自室にいながらにして宇宙開発の苦労と大変な経験と、そしてその成果とを知ることができる。
確かに多くの死者が出た。アポロ1号はグリソム船長、ホワイト、チャフィーの3人の宇宙飛行士と共に焼けて無くなり、ソユーズ1号に乗り込んだコマロフは宇宙まではたどり着いたものの遂に生きて地上に降り立つことは無かった。レオーノフの親友だったユーリ・ガガーリンは飛行機事故で世を去った。惜しくも志半ばに舞台から去らざるを得なかった彼らの姿を含め、高い目標を掲げた冒険者たちの物語は読むものの心を打ってやまない。
彼らは偉大な冒険を成し遂げた。その軌跡を追いかけるのはとても楽しい。スコットが月面に降り立った際の「人類は冒険しなければならない。そして、これはもっとも偉大な冒険なのだ」という言葉や2人が宇宙から地球を眺めとても言い尽くせないほどの美しさに打たれた話など、当事者でしか味わえないだろう興奮と感動が伝わってきて胸を打たれる。
苦しい訓練、宇宙航空力学のような学問も修め、スコットに至っては月の成立を探るためのミッションをこなすために地質学のフィールドワークまでこなす多芸多才さ。特筆すべき能力と強い意志がなければ挫折は間違いなかっただろう。宇宙飛行士への敬意を以前よりも強く感じるようになった。私ならとても耐えられない。たとえ月に行けるという魅力が伴ったとしても駄目だっただろう。
結びはアポロとソユーズによるドッキング計画である。この計画の立案と実行により、本書のイメージは大きく変わる。競争から、共通の目標に向けての共闘へと。本書のタイトルは対立も共闘もイメージさせるすばらしいものだ。本書は月面到着レースと協力体制という二つの局面を鮮やかに描き出した名著である。
なお、本書に興味を持った方にはコロリョフとノイマンに光を当てた『月をめざした二人の科学者』もお勧めしたい。
2007.1.14追記
ロシア宇宙開発史がタイトルどおりにソ連からロシアに続く宇宙開発の詳しい歴史を取り上げています。レオーノフの船外活動については同サイト内のどこまでも運のいい男が本書よりも詳しく触れられています。
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