塚本 青史〔著〕
講談社 (2003.8)
\790
評価:☆☆
これは凄いことである。何がって、王莽のような無名な上に知られている人には評判が悪い人物を取り上げた歴史小説が書かれたということ。
王莽がなぜ悪評を立てられているかというと、劉邦の建てた漢を、外戚という立場を利用した禅譲革命によって滅ぼしながらも失政続きでわずか15年しか命脈を保てなかったことによるだろう。おまけにその次はまた漢王朝に復するわけで、王莽が高く評価される余地はない。
そのような政治的な背景もあるが、現実的にも彼が暗君だったことは間違いない。政治スタイルは復古主義で、いかに現実を良くするかではなくいかに古来のスタイルに合致させることができるかということだけに汲々とする。貨幣改革を何度も行い、その度に経済が破綻して農民は貧民へ転落する。苦しむ人民の存在に正面から取り組まず、古典を読み漁って礼にそむかないようにする人々が人臣を極めて膨大な富を独占する。そんな社会に住みたいとは思えない。前漢王朝末期は要するに政権内の権力闘争の帰結で王朝が変わったのに対して新が人民から見捨てられ反乱の中で瓦解していったのは故なきことではないだろう。
そんな王莽が主人公というので張り切って読んでみたのだけれども、これが残念なことに面白くない。
仮にも皇帝に登り詰めた人物である。野望や理想があったはずだ。しかし、これが全然書かれていない。王莽を見込んで先行投資する商人や武人、私欲に溺れる皇帝と、面白くなる舞台をそろえておきながら、王莽自身の書き込みが弱いので(ただでさえ魅力を感じられない人物が)全く魅力的ではない。
個々のシーンとプロットはあっても生きた人間としての王莽が見えてこなかったのが残念である。
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