評価:
以前に紹介した『アダムの呪い』のブライアン・サイクスが次に探るのは現代ヨーロッパ人に連なる家系を生み出した女性のつながり。ということは想像がつくと思うが、ミトコンドリアを辿る旅にでることになる。
まず言及されるのはアルプスで5000年前に息絶えたアイスマン、それに、ハムスターが全て一つの血統からなるという事実をサイクスらが知ることから物語は始まる。
ちょっと説明すると、ミトコンドリアは母系から伝わるので、女性の系譜のみを追いかけるには格好の徴となる。しかし、たとえばミトコンドリアのDNAの変化が余りにも速過ぎればデータが乱雑となって系譜は辿れないし、もしほとんど変化をしないのであればいつまで経っても変化が無いのでこれまた系譜が辿れない。
なので、まずはミトコンドリアを使って人類進化を辿れるか、ということから説明が始まる。説明を丁寧に進めることでその後の推論につながる論理を容易に理解できる。
ミトコンドリアが使えないとなるとこんな本はとても書けないので、結論から言うとミトコンドリアを証拠として進化の系譜を描くことが可能であることが判明する。そこから導き出されるのは、現代ヨーロッパ人がなんと7人の女性に行き着くのではないかという可能性である。イギリス人だからなんとかだ、とかドイツ人だからなんとかだ、というのではなく、ミトコンドリアの変異を知ることで自分の先祖が数千、数万年前にどの辺りにいたのかが分かるようになる。そして、先祖の生きた時代が分かるということは、考古学的な証拠と照らし合わせて当時の文化の中で先祖がどのように生きていたのか思いを馳せることを可能にする。科学が想像力の地平を広げられるという良い証拠ではなかろうか。
著者の冒険がここから始まる。科学書でありながら、7人のイヴの生き様を小説風に書き綴ることがそれである。個人的には見てきたように書いてあるこれらのことは全て著者の想像に過ぎないのでやりすぎのようにも思えるが、それでも数千年前もの先祖の生き様と考古学的知識を結びつけて、生きた人間を想像できるようにした功績は大きいのかもしれない。
また、著者が携わることになった南太平洋の人々がどのような由来をもっているのか、アメリカの先住民たちはどうなのか、と面白い話題が尽きない。文化史と歴史と生物をつなぎながら発見にまつわる余談まで絡めてあるので、話題の豊富さを楽しみながら一気に読めると思う。
歴史はどうしても男系中心にかかれているので、そんな世界史的な見方とは離れた女系の歴史を辿るのはなかなかに面白いのではないか。
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