評価:☆☆☆
トヨタがGMを抜いて世界一の自動車企業になろうとしている現在からは信じられないことではあるが、ほんの数十年前までは日本に自動車を独自で量産できるだけの技術は無かった。
まだ人力車が走っていたのは昭和初期の頃の話。そこから紆余曲折を経て、(技術者への驚嘆すべき軽視と待遇の悪さを伴いながらも)日本は技術的に成功してきた。資源が無い中で、どういうわけか理系出身者の方が文系出身者より生涯年収が何千万も安いという、国の方針と食い違う馬鹿馬鹿しい事態の中でどれだけ技術者たちが頑張ってきたのかが分かりそうなものであるが、とにかく自称技術大国の地位は築けそうだ。利に聡い若者が当然の如くに理系離れをしているが、それはまあ当然だろう。大変で利益になる仕事をしていながらハナクソほじくってるだけで何も生み出せない文系出身者に虐げられる人生を歩みたいという物好きはそうそういない。
それでもなんとか日本は世界に誇る技術を身につけ、高い品質を持ちながら安価で高性能な機器を作り出すことに成功したわけで、そのモデルケースが自動車だといっても過言は無かろう。
日本にとっての自動車開発の黎明期について書かれているのが本書である。まず驚くのは、自動車産業を発展させたのが陸軍であるという事実ではなかろうか。当時、陸軍はアメリカとの対立を見据え、日本で覇権を握っていたフォードを打ち破るべく様々な手を講じたというのである。
いかにしてフォードが躍進したか、そしてその覇権がいかにして翳りを見せたか、さらに、どのようにして日本が自動車産業を自国のものにしていったのかということは、日本の近代化にそのまま結びつくといっても良いのではなかろうか。それどころか、今好況を維持しているのに自動車産業がどれほど大きな役割を果たしているかを考えれば、これは歴史的事実というだけではなくて現代の状況を鑑みるにあたっても非常に重要であると思う。
個人的に面白いと思うのは、日本が国家百年の大計で自動車産業を発展させたわけではなく、当時差し迫っていたアメリカとの対立を見越し、とりわけフォードの覇権を破ろうとしたのが紆余曲折を経て今の主要産業につながっているという事実であろう。もちろん、その紆余曲折の中には朝鮮戦争のような経済的に日本に利益をもたらした情勢もったのは間違いないけれども、それでもこの当時の日本の選択が、良くも悪くも今を形作っているというのはなかなかに興味深いことであると思わされた。
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