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Skywriter

Author:Skywriter
あまり一般受けしない本ばかりが好きと言う難儀な管理人です。
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BK1書評の鉄人31号。
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2006年度 私的ベストテン
 今年はなにやら激動の1年だったように思う。新年早々に息子が産まれ、夏には私が転職、秋には単身赴任が始まったわけで、生活環境がどんどん変わっていった。それでも忙中閑ありで、空いた時間を使って多くの本に巡り会えたことを嬉しく思う。小人閑居して不善を為すって言うしね。

 そんなわけで、私にとっての2006年ベストテンを発表する。今の心積もりとしては毎年恒例にする予定。そう思って見返してみると実に無秩序に本が並んでいるようで当初の予定通りとはいえ節操の無さが垣間見えるようである。選ぶのに難航したのであるが、削りに削った結果、以下のとおりになった。多分、明日選んだらいくつかは入れ替わると思われるけど。テーマに興味さえあれば、どれをとっても後悔することがなさそうなラインナップと自信を持ってお勧めできる、そんな10冊になったと自負している。なお、信じて読んでみてつまらなくても責任は取れません。



10位  237冊目 信仰が人を殺すとき
 
 モルモン教という日本にいては接点の少ない怪しげな宗教について知ることができた。また、モルモン教(とモルモン教から派生したモルモン原理主義)に留まらず、宗教全般と信仰について色々と考えさせられることが多かった。原理主義は決してイスラームの占有物では無いし、宗教に根ざす不寛容さもそう。

 一度宗教が危険な牙を剥いた時にどのようなことが起こるかは、オウム真理教の起こした一連の事件からも明らかだろう。アメリカの一部の宗教が起こした異常な事件として片付けるのではなく、もっと深く広い視点に立っているのが好印象で読んでいて面白かった。



9位  90冊目 エラゴン、エルデスト上下

 久々に読んだ本格的ファンタジー。世界観を説明するのが長すぎるきらいはあるものの、ドラゴンやエルフ、それに英雄たちが縦横に活躍する冒険の旅を素直に楽しむことができた。著者がまた博識で、10代とは思えないほど多くの知識を駆使しているのがまた素晴らしい。ファンタジーの面白さを久々に実感させてくれた好著。



8位  205冊目 死体につく虫が犯人を告げる

 法医昆虫学という予想もしなかった世界について教えてくれた1冊。この分野そのものが新しいようで、成り立ちと受け入れられるまでの著者らの苦労が伝わってくる。意外なものからどれほど多くの情報が読み取れるのかを教えてくれたことに感謝。犯罪捜査にまた一つ心強い手段が加わったことを実感した。新しい世界を教えてくれたことの感謝は、描写のアレさを考慮しても有り余る。



7位  173冊目 利己的な遺伝子

 噂に違わず実に面白い。ドーキンスの語り口は深い専門知に根ざしながら一般に分かりやすいもので、比喩も面白くて分厚いにも関わらず一気に読める。名著の名に相応しい。



6位  159冊目 男の子の脳、女の子の脳

 脳の面白さが実に良く分かるので、それだけでも十分に面白いのに親として知っておくべきことを多く教えてくれる。男女の脳には随分と先天的な違いがあることを示し、脳の発達に合わせた刺激を与えることの重要性を的確に伝えてくれた。私も新人の親として多くのことを楽しみながら学んだと思う。実践できるかは別問題だが。



5位  187冊目 恐るべき旅路

 『のぞみ』の火星への旅がどれほど過酷だったのかが要点よくまとめられているのがすごい。『のぞみ』は結局探査としては失敗だったけれども、運用としては今後の糧となることも多かったのではないかと思わせてくれた。また、『のぞみ』に託した数多の夢には感動を禁じえない。このような形で一般の方々の興味を掻き立て、夢を託せたことは今後の宇宙開発にとって必ずやプラスになるだろう。

 かなり専門的な話を分かりやすく解説し、と同時に大変な苦労を伝えている好著で特に機械系で技術に関わる方には面白く読めるのではないか。



4位  87冊目 もしも月がなかったら

 月がなかったらどうなるか。その十分にありえた世界で起こる予想外の事態を知るにつけ、地球が月を得たことに感謝せずにはいられない。と同時に、惑星科学の面白さを教えてくれた一冊。地球の環境がどれほどきわどいバランスの上に成り立っているかを教えてくれた。宇宙論や惑星科学に留まらず、地球外知的生命の存在に興味がある方には必読といっても良いのではなかろうか。



3位  136冊目 情念戦争

 ナポレオンの覇権確立とその没落をフーシェ、タレイラン、ナポレオンの情念で読み解こうとする意欲作で、フランスの近代を作り上げたといっても過言ではないこの複雑な時代を見事に纏め上げている。著者の恐るべき博識さは、フランス革命からナポレオンの死まで多くの余談を交えさせ、それがまた華を添えていると思われてならない。ナポレオンに興味がある方、絶対的にお勧めです。本書のおかげで興味を持つ分野がまた一つ広がったことに感謝を。積読が増えたことにも感謝を。

 なお、本書はブログに移って最初のエントリー。そういう点でも感慨深い一冊です。



2位  190冊目 三国志 正史と小説の狭間

 ああ、やはり三国志は面白い。本書を教えてくれた「幻想工房」雑記帳から引用するのが一番正しいだろう。曰く、文句なし、非常に良い。「買いですか?」と聞かれたら、オジオン「買いじゃない、買え」 と答えたい。 この言が全てを表している。三国志ファンを名乗るならば読みなさい。そんな本。三国志の面白さを改めて教えてくれる上に三国時代を通して書かれているので読み応えもたっぷり。ページ数と値段が倍でも良かったくらい気に入った。



1位  223冊目 そして、奇跡は起こった!

 タイトルに違わず、まさに奇蹟。シャクルトンの不屈の精神にはもうやられました。探険家の時代の最後を飾る、優れたリーダーシップの持ち主だからこそ成し遂げられたのであろう。過酷な南極からの脱出行を読むと、事実は小説よりも奇なりとつくづく思う。事実が持つ圧倒的な重みと手に汗を握るような脱出行に加え、なぜ南極探検が大変なのかを解説し、過酷な中にも楽しみを忘れないタフな彼らの冒険を知ることができたのは収穫だった。シャクルトンという魅力的な人物に加え、南極そのものの魅力も教えてくれた価値ある一冊。





 今年はおよそ160冊の本に巡り会うことができました。中には駄本もありましたが、少なからぬ素晴らしい本にも巡り会うことができたことに感謝したいと思います。

 また、ブログに移行したことで予期しなかった多くの方からコメントやトラックバックをいただけたことが本当に励みになりました。多くの方に感謝したいと思います。来年も今年同様にマイナー路線を独走することになると思いますが、遊びにきていただけると嬉しく思います。

 来年、皆様も私も素晴らしい本に巡り会えることを祈りつつ、今年の更新を終えたいと思います。では皆様、良いお年を。
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未分類 | 2006/12/31(日) 17:23 | Trackback:(0) | Comments:(2)

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247冊目 イヴの七人の娘たち
イヴの七人の娘たち
ブライアン・サイクス著 / 大野 晶子訳

ソニー・マガジンズ (2001.11)


評価:

 以前に紹介した『アダムの呪い』のブライアン・サイクスが次に探るのは現代ヨーロッパ人に連なる家系を生み出した女性のつながり。ということは想像がつくと思うが、ミトコンドリアを辿る旅にでることになる。

 まず言及されるのはアルプスで5000年前に息絶えたアイスマン、それに、ハムスターが全て一つの血統からなるという事実をサイクスらが知ることから物語は始まる。

 ちょっと説明すると、ミトコンドリアは母系から伝わるので、女性の系譜のみを追いかけるには格好の徴となる。しかし、たとえばミトコンドリアのDNAの変化が余りにも速過ぎればデータが乱雑となって系譜は辿れないし、もしほとんど変化をしないのであればいつまで経っても変化が無いのでこれまた系譜が辿れない。

 なので、まずはミトコンドリアを使って人類進化を辿れるか、ということから説明が始まる。説明を丁寧に進めることでその後の推論につながる論理を容易に理解できる。

 ミトコンドリアが使えないとなるとこんな本はとても書けないので、結論から言うとミトコンドリアを証拠として進化の系譜を描くことが可能であることが判明する。そこから導き出されるのは、現代ヨーロッパ人がなんと7人の女性に行き着くのではないかという可能性である。イギリス人だからなんとかだ、とかドイツ人だからなんとかだ、というのではなく、ミトコンドリアの変異を知ることで自分の先祖が数千、数万年前にどの辺りにいたのかが分かるようになる。そして、先祖の生きた時代が分かるということは、考古学的な証拠と照らし合わせて当時の文化の中で先祖がどのように生きていたのか思いを馳せることを可能にする。科学が想像力の地平を広げられるという良い証拠ではなかろうか。

 著者の冒険がここから始まる。科学書でありながら、7人のイヴの生き様を小説風に書き綴ることがそれである。個人的には見てきたように書いてあるこれらのことは全て著者の想像に過ぎないのでやりすぎのようにも思えるが、それでも数千年前もの先祖の生き様と考古学的知識を結びつけて、生きた人間を想像できるようにした功績は大きいのかもしれない。

 また、著者が携わることになった南太平洋の人々がどのような由来をもっているのか、アメリカの先住民たちはどうなのか、と面白い話題が尽きない。文化史と歴史と生物をつなぎながら発見にまつわる余談まで絡めてあるので、話題の豊富さを楽しみながら一気に読めると思う。

 歴史はどうしても男系中心にかかれているので、そんな世界史的な見方とは離れた女系の歴史を辿るのはなかなかに面白いのではないか。
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生物・遺伝・病原体 | 2006/12/30(土) 23:50 | Trackback:(0) | Comments:(3)

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246冊目 日本の選択 3 フォードの野望を砕いた軍産体制

評価:☆☆☆


 トヨタがGMを抜いて世界一の自動車企業になろうとしている現在からは信じられないことではあるが、ほんの数十年前までは日本に自動車を独自で量産できるだけの技術は無かった。

 まだ人力車が走っていたのは昭和初期の頃の話。そこから紆余曲折を経て、(技術者への驚嘆すべき軽視と待遇の悪さを伴いながらも)日本は技術的に成功してきた。資源が無い中で、どういうわけか理系出身者の方が文系出身者より生涯年収が何千万も安いという、国の方針と食い違う馬鹿馬鹿しい事態の中でどれだけ技術者たちが頑張ってきたのかが分かりそうなものであるが、とにかく自称技術大国の地位は築けそうだ。利に聡い若者が当然の如くに理系離れをしているが、それはまあ当然だろう。大変で利益になる仕事をしていながらハナクソほじくってるだけで何も生み出せない文系出身者に虐げられる人生を歩みたいという物好きはそうそういない。

 それでもなんとか日本は世界に誇る技術を身につけ、高い品質を持ちながら安価で高性能な機器を作り出すことに成功したわけで、そのモデルケースが自動車だといっても過言は無かろう。

 日本にとっての自動車開発の黎明期について書かれているのが本書である。まず驚くのは、自動車産業を発展させたのが陸軍であるという事実ではなかろうか。当時、陸軍はアメリカとの対立を見据え、日本で覇権を握っていたフォードを打ち破るべく様々な手を講じたというのである。

 いかにしてフォードが躍進したか、そしてその覇権がいかにして翳りを見せたか、さらに、どのようにして日本が自動車産業を自国のものにしていったのかということは、日本の近代化にそのまま結びつくといっても良いのではなかろうか。それどころか、今好況を維持しているのに自動車産業がどれほど大きな役割を果たしているかを考えれば、これは歴史的事実というだけではなくて現代の状況を鑑みるにあたっても非常に重要であると思う。

 個人的に面白いと思うのは、日本が国家百年の大計で自動車産業を発展させたわけではなく、当時差し迫っていたアメリカとの対立を見越し、とりわけフォードの覇権を破ろうとしたのが紆余曲折を経て今の主要産業につながっているという事実であろう。もちろん、その紆余曲折の中には朝鮮戦争のような経済的に日本に利益をもたらした情勢もったのは間違いないけれども、それでもこの当時の日本の選択が、良くも悪くも今を形作っているというのはなかなかに興味深いことであると思わされた。
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太平洋戦争・二次大戦・現代史 | 2006/12/29(金) 01:00 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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245冊目 にせユダヤ人と日本人
にせユダヤ人と日本人

浅見 定雄著

朝日新聞社 (1986.12)

\459

評価:☆☆☆☆


 ああ、こういう人が博識って言われるんだな、と圧倒される。私も過去の人生で少なからず博識だの博覧強記だの生き地獄だのと言われたことがあるのだけれども、それはあくまで一般人の間での話で、こういった地に足のついた、深くて広い知識とは無縁なのだ。

 タイトルだけから何の話か分かった人は政治的な話に詳しい人だろう。右とか左とか南京事件の論争とか。そう、本書はイザヤ・ベンダサンという架空の日本在住経験のあるユダヤ人をでっちあげて日本人論(という名の再武装論)をぶった山本七平の『日本人とユダヤ人』を批判する本である。一冊丸々他人の批判を読んで楽しいのかと聞かれたら、楽しいと答える。なぜなら大人気ないから。

 これを読むと『日本人とユダヤ人』がいかに決めつけと暴論でできているかが良く分かる。もともと、日本の再軍備や旧日本軍の擁護を目的に設定しながら社会論として書こうとした所に破綻の元があったのか、論旨が一貫していない。その結果として論の前提とする部分までその場の都合で切り替わるといういい加減さ。なぜこれが一世を風靡しえたのか疑問に思わずにはいられないのである。

 ついでに浅薄な知識を振りかざすことで突き当たる壁がある。山本は聖書についてもギリシア語についても実に適当なことを書いているようで、おかげで随分と頓珍漢な文章を眺めることになった。もって他山の石としたいところである。

 で、これらへの批判がまた容赦ない。英語、ギリシア語、日本語、聖書学、日本史、世界史と実に広い分野で徹底的にやっつけている。そのやっつけかたも多くの原著に当たり、論拠をはっきりさせるという見事なもので感心させられる。『日本人とユダヤ人』を評価する人はぜひ一度読んでみて欲しい。その政治的な立場や発言に同意するかどうかは別に、いろいろ学べる点が多いと思う。

 『日本はなぜ敗れるのか』で面白い視点と考えを示してくれた山本七平が、こと政治の絡む話となるとこんな無茶までやっていたといのもまた興味深い話である。政治には人を狂わせる何かがあるのかもしれない。
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ノンフィクション | 2006/12/25(月) 23:03 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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244冊目 南極に暮らす
南極に暮らす

坂野井 和代著 / 東野 陽子著

岩波書店 (2000.7)

\1,995

評価:☆☆☆☆


 南極に興味を持ったのは223冊目に紹介した、シャクルトン隊の奇跡の生還を描いた『そして、奇跡は起こった!』を読んでから。その感動の薄れぬうちに見つけたのが日本初の女性越冬隊員2人による本書であった。

 子供のころからの憧れであった地へ行くために研究テーマの選定から取り組んだ坂野井和代さん(大気光の研究)、南極に行ったら近くだからついでに南米旅行ができるのではないかと軽い気持ちで立候補した東野陽子さんの2人。南極への思い入れの違いはそのまま2人の個性の違いにつながっていて、読んでいて面白いのである。

 この2人の女性がどのような経緯で南極越冬をするようになったのかから始まり、極地での研究に伴う苦労や工夫、研究を終えて基地と別れは、辛く厳しいことも多いのだろうけどそれでも和気藹々とした雰囲気が伝わってくる。そして、1年4ヶ月に渡って生活するからには娯楽も必要というわけで、越冬隊員たちの日常も描かれているのであるが、これがまた手抜きされていない凄さを感じさせられる。花見、盆踊り、クリスマスと季節を感じさせるイベントを楽しみ、そしてなによりも雄大なオーロラに魅せられる。

 あまりにも楽しそうな話が多いので厳しさを忘れがちだけど、そんな生活を面白おかしく語る合間に極地での厳しさが顔を覗かせる。ホワイトアウトの危険、雪で隠されたクレバス。さらにはトイレの苦労まであって、おなかの弱い私には大変に危険なところであることが伝わってくる。東野さんはこの手の話も厭わずに書いてくれるので、トイレ事情についての苦労につい笑みがこぼれてしまった。そう、他人事なら笑えるんですよ、この手の話は。

 南極での研究生活の面白さと、わずか40人で一冬過ごすための知恵には面白いと思うのと同時に感心させられた。パンを焼き、バーや喫茶店を開き、酒を楽しみ、麻雀大会が開かれる。つい行ってみたくなる気持ちが沸いてくる。子供のころに読んでいたら、違った今があったかもしれないほど。先達として科学の面白さを伝えるのに成功していると思う。

 なお、現在坂野井さんは駒澤大学で教鞭をとっているらしい

 ちょっと前に、老朽化した砕氷船が退役するのに後継船の予算が下りなくて南極での観測事業存続が危ぶまれているとのニュースを聞いて気にしていたのだが、どうやら後継船が2009年竣工予定であることを知り一安心。下らない地方の公共工事に使うカネがあるなら、毎年恒例の予算垂れ流し事業である年末工事に使う予算があるなら、こういったことに回して欲しいと切に願う。無理か。越冬隊員も科学に興味ある人々も団体票に結びつかないから。

 おまけ。
 オーロラに興味がある方はLive!オーロラからライブ映像を見ることができます。運が良くないと見られませんが。

 それと、娯楽としてニコリのパズル雑誌があるそうです。数独というネーミングはここが行ったので、知っている人も多いのかも知れませんが。

 BK1の書評欄には著者お2人のコメントが載っているので興味が沸いた方は是非覗いてみて欲しい。

 さらに余談があるのですがアレな話題なので興味ある人だけ続きを見てください。
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未分類 | 2006/12/24(日) 19:15 | Trackback:(0) | Comments:(2)

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243冊目 朝鮮戦争の謎と真実
朝鮮戦争の謎と真実

A.V.トルクノフ著 / 下斗米 伸夫訳 / 金 成浩訳

草思社 (2001.11)

\2,310

評価:☆


 朝鮮戦争は、北が一気に南を制圧できるとの甘い見通しに立って行った侵略戦争で、ソ連の後押しと指導が背後にあったことはもはや常識であろう。

 金日成の目論見どおりに進んだ戦況をひっくり返したのはマッカーサーによる乾坤一擲の大作戦、仁川上陸である。このあたりの流れは『戦略の本質』で丁寧に説明されているので興味がある方は参照して欲しい。仁川の厳しい自然条件を乗り越えての作戦は、ノルマンディー上陸作戦よりも難易度が高かったとも言われる。

 仁川上陸作戦によって戦況が国連軍有利に展開し、北が崩壊しそうになると今度は朝鮮に緩衝地帯としての役割を期待するもう一つの共産国、中国からの援軍が朝鮮になだれ込む。自称義援軍、その実正規軍による数十万の戦力は国連軍を敗走させて、結局38度線前後で戦線は膠着。なんということはない、大量の血を流しながら元の木阿弥という悲惨な結末だった。

 ここに書いたことは、常識に属する分野だろう。本書が特別なのは、こういった背景を全然説明せずに、共産側の指導者たちが何を語り合っていたかだけを延々と記し続けていることにある。その結果、タイトルに反して、この本を読んでも朝鮮戦争に関する流れはなかなか掴めないということになってしまっているのが残念。

 その一方で、金日成、毛沢東、スターリンらが実際にどのようなやり取りをしていたかについては詳細な記録が載っているので、朝鮮の現代史に興味がある方への資料集としては高い価値があるのではなかろうか。ソ連の情報公開によって得られた資料だからその価値と信頼度の高さは保障されているといっても過言はないだろうし。

 欠点は、なんといっても面白くないことだろう。戦争を指導した彼らが何を考えていたかはそこそこ分かるようになるけれども、それにはかなり注意深く読み込まなければならない。

 また、訳文の無意味な難解さも本書の理解を妨げる巨大な要因である。もっとも、共産党を支持する人々はやたらと難解な言葉を使いたがる悪癖を有しているので、原文自体が分かりづらい可能性もあるが。アメリカをやたらとファシスト呼ばわりするのもそうだ。そもそも、ファシストとの戦いで最も効果を挙げたのは当のアメリカだったのだが。

 それにしても、朝鮮の武力統一を目論んでソ連を催促する北朝鮮、有利と見るや進行を指示しながら自らは決して表に出ないよう細心の注意を払うソ連、国連軍の攻撃を一手に引き受けて朝鮮解放を妨げる中国の織り成す模様はまさに魑魅魍魎が跋扈するとしか言いようのない、底知れぬ政治の闇である。朝鮮でのせんそうでありながら、南北どちらの朝鮮の意向もが大国の前に敗れ去る様は物悲しくもある。どちらの国にも功ならずして万骨だけが枯れた、そんな戦いの背後で交わされた政治の世界を垣間見たい方にはお勧めするが、朝鮮戦争全般について深い知識のない方には決してお勧めしない。
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太平洋戦争・二次大戦・現代史 | 2006/12/23(土) 23:47 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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くりすます
 クリスマスというのに仕事。まあケーキ屋さんは毎年仕事なのだから、それと比べたら良いのかもしれないけど、友人からパーティーに誘われていたのが気になる。そんな雑念を抱えつつ、家を出ようとして気がついた。

 そういえば、音楽プレーヤー持ってきてたんだった。

 前の会社を辞めるとき、送別会で貰ったのである。こともあろうに、私が忌み嫌う某M社のを。なぜ嫌うのかというと、無茶な要求の前に何度も徹夜を強いられたから。逆恨みじゃないですよ、たぶん。

 そんなわけで、PCから適当にMP3ファイルを放り込んで再生してみたのだけど動かない。ちっくしょう!!そうなってから説明書を覗き込むとなにやら専用ソフトが必要らしい。このご時勢に。聞くに堪えない悪口雑言を脳内で叫んで、机に置いていく。まさかいくら私が駄目人間だからといって、ここでソフトをインストールしてファイルを変換&転送をやるわけには行かない。会社でやっちゃおうかなという不届きな考えが浮かんだのは秘密。

 ここ最近は随分と落ち着いてきた仕事なので、休日出勤とは言っても気楽なもの。家に帰ってゆっくり作業すれば良いやと高をくくっていたのだけど、どうしたことか今日に限って大暴れ。畜生め!予想に反して時間をとられてしまった。俺の貴重な読書時間を返せ。

 帰ってきたら携帯音楽プレーヤーとの対局。次の休日出勤には持っていくとの固い決意がある。なぜそんな来年のことを気に病むかというと、今やらなかったら絶対に同じジレンマに陥ることが火を見るより明らかだから。伊達に30年も駄目人間をやっているわけではない。

 そこで気がついたのだけど、メモリーは256M。朝の段階では128かと思って絶対必要な曲だけを厳選して入れてあるので、ある意味選択の余地が無かった。絶対に必要な曲とは、私にとってはArt GarfunkelのSkywriterだったりEaglesのHotel CaliforniaやThe Last Resort、Savege GardenのTwo Beds And A Coffee Machine、それにAlison KraussとかSarah McLachlanのお気に入りで、欲を言えばきりが無いけどこれがあれば少なからぬ満足を得られる。

 思わぬところでメモリーが多いことに気がつくと、今度は選択が入ることになる。ここで葛藤が待っているわけですよ。どれを選び、どれを削るか。あまりにも選択の余地が広いことは人を幸福にしないという心理学の実験から示唆される真実があるのだけど、それを体現している感じ。泣く泣くいくつかの曲を諦めて編集終了。メモリーを増やすにはそんなに使わないし、当分はこのままいくことになるだろう。この敗北感、きっとわかってくれる人がいるはず。

 仕事が終わったら近くのスーパーに買出し。なにをって、今日の晩御飯。クリスマスだから鶏肉でも買うかと思ったのだけど、丁度半額セールの時間になったらしく、鶏肉に殺到する人々を見たらそれだけで食欲まで奪われる。ここに割り込むくらいなら適当に食べられるものを食べるほうが良い。そんなわけで酒だけ買ってくる。実のところ、一人暮らしになってからはそんなに飲んでいるわけじゃないのだけど(紅茶の香り付けに少々ブランデーを入れたりはしている)。

 そんなわけで、今日はこれからちょっと飲みながら食事を済ませて、クリスマスに相応しくない本を読み終わる予定。ハードカバーで内容も重いので予定は未定。ついでにBGMはSomething CorporateのForget December(クリスマスはちっとも聖なるものじゃないし静かでもないじゃないか!というロック)。
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雑記 | 2006/12/23(土) 20:11 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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242冊目 人間は脳で食べている
人間は脳で食べている

伏木 亨著

筑摩書房 (2005.12)

\714

評価:☆☆☆


 美味しさを科学で解き明かすことはできるのだろうか。

 たとえば、自然界の謎を多く解明してきた手段として要素還元主義というものがある。そのままでは複雑すぎて評価できないものを、細分化してその各々を分析することで元のものが持つ性質を理解しようという手段である。では、食べ物に対してAが○%、Bが△%、Cが×%、Dが□%だからこれは美味しいはずだといえるだろうか。

 そうは言えないのではないか。そう思わずにはいられない。納豆や梅干はおよそ日本人なら美味しいと思って食べるものであるが、ほとんどの外国人はこれを好まない。なお、一部大阪あたりの人々は日本人なのに納豆を嫌うとの反論がありそうであるが、彼らは日本人ではないから問題ない。私は、彼らは行列を作れないことからイタリア人、エスカレーターで空ける側からイギリス人、おしゃべりなことから中国人をほどよくミックスしたものと推測している。

 では美味しさは科学できないのかというと、それも違う気がする。というのは、やはり好まれる味というのがあるからである。味覚を科学する、という冒険に挑んでいるのが著者。著者は美味しさを4つに分けることで検証を図っている。

1.生理的な欲求に合致するものはおいしい
2.生まれ育った国や地域あるいは民族などの食文化に合致するものはおいしい
3.脳の報酬系を強く刺激してやみつきになる
4.情報がおいしさをリードする

 気がつくことがあるのではなかろうか。そう。これは要素還元的な手法ではない。1の生理的な欲求についてこそ要素還元的な手法が使えそうだが、他はもっと全体的なくくりをしなければ駄目だろう。

 筆者が特に力を入れて論じているのは4の情報について。情報と美味しさとはなかなか結びつかないように思うかもしれない。しかし、美味しいと評判の物を食べれば美味しいと思う率は高いだろう。美味しいから美味しいとの評判が生まれているのは事実だろうけれども、事前に得ていた美味しいという情報が、味覚を左右しているに違いない。賞味期限が1日過ぎたというだけで美味しく感じられない人には身に摘まされる話ではなかろうか。私はそんな神経質ではないので全然気にしないが。

 美味しさの影にある情報に光を当てていることと、評価の難しい味覚の科学的解明に力を入れていることをとにかく評価したいと思う。報酬系など、脳の話題にまで踏み込みながら味覚の謎を楽しく語っている。惜しむらくは、唐突に出てくる会話調の突込みがどうも浮いているように感じられることか。真面目に書くならもっと真面目に書いて欲しい。私が想定されている読者像から外れているだけかもしれないけれども。

 それでも、人がなぜ脂っこいものや甘いものを好きになるのか、一度好きになったものには熱烈な期待を抱くのか、といったことについては随分と分かっているのだということが良く分かって面白かった。
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その他科学 | 2006/12/22(金) 22:39 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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241冊目 オッペンハイマー
オッペンハイマー

中沢 志保著

中央公論社 (1995.8)

\754

評価:☆☆☆☆


 ロバート・オッペンハイマーは原爆の父として知られる。マンハッタン計画において科学部門を取りまとめていたことからその別名が付けられているという。

 オッペンハイマーは優れた才覚を持つ科学者でありながら自らは研究に従事せず、個性的な科学者たちの取りまとめに奔走した。彼の人柄もあり、多くの科学者たちが無理を聞き入れ、不自由を耐え(潤沢な予算を使って思う存分研究できたというのは間違いなく巨大な魅力だったにしても)、原爆開発を成功に導いた。このあたりの流れは『千の太陽よりも明るく』などに詳しい。

 少なからぬ科学者が原爆の使用結果についてショックを受けたようで、彼もその一人だった。広島のような軍事拠点を持つ都市であったとしても、都市全体を破壊しつくすことの不条理さに遅まきながら気付いたのだ。

 ところが、冷戦期になるとアカ狩りの中でオッペンハイマーは公職から追放される憂き目に遭う。アメリカとソ連が熾烈な軍拡競争を繰り広げた、その渦中の出来事であった。その追放の原因となったのは、オッペンハイマーが水爆の研究に反対であったことと、ソ連も含めた核の管理体制構築を訴求していたためである。

 私のように共産主義に対して芳しい評価をしていない身には、オッペンハイマーの主張は甘いように感じられる。ソ連であればアメリカが手を引いたと見れば秘密裏に自国だけで水爆を研究していたことは間違いない。それは、条約で禁止された生物化学兵器の開発を極秘に進めていたことからも明らかだろう。ソ連で研究に従事し、後にアメリカに亡命したケン・アベリックによる『バイオハザード』は生々しくその事情を明かしている。

 それはともかく、なぜオッペンハイマーは核の共同管理体制を目指したのか。原爆の開発に尽力しながらなぜ水爆には反対したのか。そしてなぜ追放されるにいたったのか。このあたりの事情を、当時の社会事情などを織り交ぜながら分かりやすく解説している。人間的魅力に溢れたといわれるオッペンハイマーを原爆の開発により多くの無辜の人々を虐殺した犯罪者と断罪するのは余りに容易ではあるが、得るものが少ない見方であろう。それよりも、彼が何を希求し、なぜ原爆が投下されたのか、を問うのであればオッペンハイマーの人生からは学ぶことが多いのではなかろうか。

 それにしても、次の国家的な大計画は、兵器ではなく科学の発展に向けてもらいたいものだと思わずにはいられない。ブッシュがぶち上げた、火星への有人探査がそれになるだろうか。(ならないだろうな……)
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ノンフィクション | 2006/12/19(火) 00:25 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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240冊目 宇宙人としての生き方
宇宙人としての生き方

松井 孝典著

岩波書店 (2003.5)

\777

評価:☆☆☆☆


 宇宙人といってもホピだとかバシャールだとかキャトルミューティレーションを行っているだとか人間を攫って脳に怪しいチップを埋め込んでいるとかピラミッドやナスカの地上絵に関与したたとかいう類の与太話とは違う。宇宙まで進出した人間社会を、まさに宇宙的な規模で見直そうという壮大な本である。そのような視点に立って世界を捉えることをアストロバイオロジーと著者は命名している。

 本書で語られているのはまず宇宙人としての視点を持つこと。そこからシステムとしての地球、人間圏という考え方、生命の起源、地球外生命体の可能性、歴史や文明のあり方についてとと幅広い話題が展開されている。

 宇宙的な規模で見ているので、当然のことながら話は壮大である。たとえば歴史といえば、いいくにつくろう鎌倉幕府、のようなことが想起されるかもしれないが、そんなレベルのことは語られない。数百万年をほんの数ページで述べるというすさまじいスピードである。驚くのは、そのスピードで歴史を振り返ることでどれだけ現在が特異な時代なのかがはっきりすることだろうか。

 というのは、移動と資源の消費の速度(、そして量)が近代に入ってから明らかに大きな変動をしているからである。著者の言葉を借りればフロー型からストック型に変わった。つまり、地下資源として蓄えられていたエネルギーを猛烈な勢いで消費することで今が成り立っている。これが特異である、と。

 歴史についてもこの調子なので、生命については太陽系内の生物の可能性から、太陽系外の生物に至るまでの話題がある。火星探査が進んでいるので、火星にかつて水があり、それどころか近い過去にも地表に水が流れた証拠があるとの記事がだされたことは記憶に新しい。他にも太陽系には二つ、生命の可能性が指摘されているところがあるが、それがどこかは本書をあたってみて欲しい。

 とにかく、地上からの視点、現在を生きているという視点を離れて、あたかも宇宙人のような視点で世界を眺めると、今まで見えなかったことが見えてくることが面白い。宇宙、生命、文明といった、壮大でなかなか身近に感じられないことが一つの流れとして自分の上にも流れているのだと実感できる。そんな新たな地平を見せてくれたことに感謝。
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その他科学 | 2006/12/17(日) 23:06 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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239冊目 ガイアの復讐
ガイアの復讐

ジェームズ・ラブロック著 / 秋元 勇巳監修 / 竹村 健一訳

中央公論新社 (2006.10)

\1,680

評価:


 著者のジェームズ・ラヴロックはガイア説の提唱者として広く知られている。では環境分野の人物なのかというとそれは違う。彼は化学者で、偉大な発明者でもある。
 
 彼がガイア説をひらめいたのは、地球の大気に酸素とメタンが安定して存在していることから。酸素は高い反応性を持つので、通常メタンと同時には存在できない。それなのに大気中の酸素-メタンバランスは恒常性をもっているのはなぜか。ラブロックが考えたのは、地球を一つの生物とし、生物が自分の体を一定の条件に保つように地球もまた同じような調整を行っているのだ、ということ。
 
 ガイア説はその巧みな隠喩によって科学の世界を離れ環境に興味を持つ人々(なかでもしばしば過激な環境原理主義者)から支持を受けた。皮肉なことに、科学者たちは地球を生物と見做す隠喩を隠喩としては捉えなかった結果として猛烈な反対を行うことになる。不幸の始まりだろう。
 
 しかし、ガイア仮説は使い方によってはとても役に立ちそうだ。地球を人間に喩えることで表層の滋養が失われることがどれほど大きな影響を持ちうるのかを説けば、多くの人には化学的な説明よりも遥かに説得力を持つだろう。だからラヴロックはガイア説に固執する。私から見ればちょっとやりすぎに見えるほど。
 
 世間に余りにもラヴロックの誤解が広まってしまっているからこそ、ラヴロック本人の言はより価値を持つ。本書を読めばラヴロックが頑迷な環境主義者などでは決してなく、地球の熱収支に鋭敏な優れた化学者であることが分かるだろう。
 
 科学の世界に身をおきながら環境にも多大な関心を持ち、バランス感覚に優れるとなると並大抵の才能ではとても対応できない。しかしラヴロックはその数少ない才能の持ち主である。本書には科学と技術が作り上げた現代文明に対するイチャモンは無く、ラヴロックが熟慮の結果としてたどり着いた提案に満ちている。これができる人がどれほどいるだろうか。
 
 猛烈な反応性によって明らかにがんを引き起こしているだろう酸素に囲まれながら、ようやく検出できる程度の発がん性物質の脅威を煽ることの当否、原子力を使うことの必要性、化学物質を余りに忌避しすぎる”環境負荷が少ない”と信じる行為による環境破壊など、学ばされることは多い。環境問題に興味がある方は是非一読されることをお勧めしたい。
 
 ただ、私としてはラヴロックがあまりにも生物による地球環境の恒常性維持に注力しすぎているのが気になる。実際には炭素の循環という無機的なシステムによっても地球環境の恒常性は保たれているわけで、それに言及があっても良かったように思われてならない。また、チェルノブイリ後の死者がわずか数十人であるということは述べるが、若年層で甲状腺がんの発生率が高まったことには触れられていないのが残念。そうしたデータがあってこそ冷静な思考ができるのだから。

 なお、チェルノブイリの影響についてはチェルノブイリ事故の健康影響に詳しい。興味がある方はこちらにも是非目を通して欲しい。
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その他科学 | 2006/12/16(土) 11:28 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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238冊目 「たら」「れば」で読み直す日本近代史
「たら」「れば」で読み直す日本近代史

黒野 耐著

講談社 (2006.8)

\1,575

評価:☆☆☆☆☆


 歴史にifは許されない、という。どうやらこの言葉、あのときもしこうしていたらこんな素晴らしいことになっていたのにと現実離れしたことを話す人々相手への警句だったようだ。

 しかし、現時点で採ることのできる政策・政略が一つしかないわけではなくて数多の選択肢がありうるように、過去の時点でも選択の余地はあった。決して選択の余地がない一直線の歴史をなぞってきたわけではないのだ。そうである以上、当時の現実に即してifを考えるのは無意味ではないだろう。特に、過去の事件や事故から教訓を得ようとする場合には。

 それには当時の客観情勢を知ると共に冷静で緻密な論理展開が不可欠になる。自分に都合の良い歴史を作り上げるよりも実際の歴史を研究するほうが難しいだろう。ひょっとしたらifを考えてなぜ他の選択肢を選ばなかったのかを考えることは現実の歴史研究よりも難しいかもしれない。

 歴史にifを持ち込む、という蛮勇ともとられかねないことに挑戦し、日本の近現代史における11のifを取り上げ、それによって日本の歩んだ成功と失敗を浮き彫りにしているのが本書である。

 取り上げているのは日清戦争(北京を攻略していたら)から太平洋戦争開始まで(真珠湾を攻撃していなかったら)までの50年間。この50年が戦争の連続であったことに改めて驚かされる。

 日清・日露戦争での薄氷を踏むような勝利における政略と軍略が一体となった見事な国家運営の影で、その時すでに軍の暴走の種が蒔かれていたこと。やがて中国を蔑視する軍部の独走は大陸における底なしの消耗戦に日本を引きずり込み、断固として政治が主導権を取り戻さなければいけない時期にもまともな指導がなされなくなる。一部には2.26や5.15のようなクーデターもあるが、本書が指摘するように近衛や広田といって人々が目先の勝利に酔い、大局的な判断をできなかったことも大きい。

 作戦計画はあれども、戦略も政略もない。同盟国ドイツの目先の勝利に釣られて現実離れした行動を次々に採って自滅していく姿には慄然とさせられる。目的をしっかりと定め、それを達成するためには何が必要なのかということが語られることのない異常さ。それが本書から痛いほど伝わってくる。

 その結果として、避けようとすれば避けられたはずの日中戦争の泥沼および太平洋戦争が起こってしまった。アメリカによる禁輸措置などに至る前にできることは沢山あったのだ。そのことがifを考えることによって浮き彫りになっている。太平洋戦争という大失敗へと導いた小失敗の数々から、戦略的な行動とはどのようなものかが実によく分かる良書であると思う。太平洋戦争に興味がある全ての方に強くお勧めしたい。

 余談だが、日本の余りにも拙劣な失敗と比べ、蒋介石の戦略には舌を巻く思いだった。不屈の理念と自己の力を冷徹に見極めた上での有効な反撃方法の立案など、非凡なものを感じさせられた。彼ほどしたたかで冷静な人物が日本の中央にいれば違った歴史があったかも知れないのに、と思うとなにやら残念である。
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太平洋戦争・二次大戦・現代史 | 2006/12/14(木) 22:34 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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237冊目 信仰が人を殺すとき
信仰が人を殺すとき

ジョン・クラカワー著 / 佐宗 鈴夫訳

河出書房新社 (2005.4)

\2,625

評価:☆☆☆☆☆


 1984年7月24日、おぞましい事件が起こった。一人の女性と、そのわずか1歳3ヶ月の娘が惨殺されたのだ。犯人はこの女性の義兄たちだった。彼らは神からの啓示を受け、冷静に犯行に及んだのだった。

 犯人はこの残酷で無慈悲な犯罪から、全く心の痛みを感じていない。彼にとってこの殺害は神から命じられたことを淡々と実行しただけのことで人界の法になど関わっていないのだ。

 犯人が信じていたのはモルモン教から派生したモルモン教原理主義。モルモン教の創始者であるジョセフ・スミスが当初唱えていた、信者と神との直接の対話を重要視するモルモン教の一派である(ただし主流派のモルモン教徒は一緒にされるのを嫌がるらしい)。

 事件からショックを受けたのか、著者は犯人とモルモン教原理主義に関して調査を進める。とすると、必然的にモルモン教についても光を当てることになる。モルモン教の経典はどうやらトンでもないものらしい。しかし、なぜそんなトンデモを人々は信じるのか(モルモン教の信者数はユダヤ教のを上回るという)。その不思議を引用する。

 『モルモン経』は、出版される前からすでに、モルモン教徒以外の人々からひどい嘲りの対象とされていた。(略)『モルモン経』には、歴史的に観て、とんでもない年代の誤りや相容れない矛盾が数多くあるのだ。たとえば、車輪つきの馬車のことがたくさん出てくるけれども、コロンブス以前の時代、西半球には、そうしたものは存在していなかった。(略)
 だが、そのような批判や揶揄は、大部分が的外れである。信仰はすべて、理性に基づかない信念の儀式なのだ。その信念は、とうぜん、知的な議論も学問的な批判もうけつけようとしない傾向がある。
(P.108~109より)


 ここで書かれていることは私の宗教に対する見方を実に的確に表現している。信仰にはどのようなものであっても必ず疑うことなく信じることが付きまとう。信じることこそが信仰を持つ人々が持つ信仰への誇りなのだから仕方がない。麻原彰晃が最終解脱者だということを信じることと、磔にされた3日後に甦ったということを信じることは、どちらも同じ程度の真実性しかない。おまけに検証もできない。

 マリアが処女懐胎したなどというのは新約聖書が書かれた当時は誰一人思っていなかったことは文献学的な証拠から明らかであっても、敬虔なキリスト教徒はマリアの処女懐胎を信じているだろう。これが翻訳上のアクロバットから生まれた妄信であるにもかかわらず(「若い女」を「処女」と誤訳したのが処女懐胎説のきっかけ)。

 とある宗教の信者が害を与えるのでなければなにを信じていてもかまわない、というのは一つの立場だろう。私もそこに属する。だから、特定の宗教が一夫多妻体制を採ることに反対はしない。それどころかその宗教内で被害者も納得した上であれば殺人だって別に構わないと思っている。それが他人の信仰を認める立場の行き着くところだと思う。

 信仰上の理由によって、自らの意思で一夫多妻制を選ぶ女性に反対はしない。一夫一婦制に従って”売れ残り”の男しか選べないよりは女性がすばらしいと思う既婚の男性と付き合っても、(男性の配偶者を含め)誰にも迷惑をかけていないなら反対する根拠がない。

 しかし、それはモルモン原理主義の集団が、そこで生まれた女の子たちに対して十分な教育を受けさせず、10代の前半には幹部の決めた相手と結婚させられるというのを容認する態度とは程遠い。彼女らには選択の余地がない。それだけの経験もない。そんな女性たちに一夫多妻を強制するのにはぞっとする。創始者ジョセフ・スミス自身も多くの女性と結びつきがあったらしいが、それを強制するときの脅し文句は常に同じ。従わなければ地獄に落ちるぞ。信仰の自由を認める社会では不可抗力的に発生する、おぞましいセリフだ。

 そしてまた、モルモン教の経典から明らかに読み取れる有色人種差別には胸が悪くなる。現在では放棄されているそうであるが、原理主義者にはそれが気に食わないらしい。

 妄信を要求する、宗教というものが存在する以上は冒頭で取り上げたような悲惨な事件は発生せざるを得ないのかもしれない。本書が取り上げているのはあくまでモルモン教から派生した原理主義の問題だが、それがモルモン教だけに留まるものではないことは明らかだろう。アメリカには他にもプロテスタント系の原理主義が根強い勢力を張っている。モルモン教もプロテスタントも共和党の強い支持基盤であることは、彼らが根絶されることがないと思う根拠になるだろう。日本でもオウムに引き起こされた悲惨な事件の数々や足裏占いなどのインチキによって命を失う人々までいたことが大きく報道されたではないか(そういえばパナウェーブって結局のところなんだったの?)。原理主義という、批判を受け付けず理性に耳を貸さないのはなにもイスラム原理主義に限ったことではない。

 また、日本では余りなじみのないモルモン教についてその成立から現在までの歴史を紹介していることは大変に貴重なことだろう。その非合理的に思える教義(特にインディアンは神に呪われたせいで色つきの肌になったことなど)に加え、権力と非合法的な対立を辞さず、多くの殺人に関与したらしきことなどは全然知らなかった。多くの世界宗教が狭いコミュニティでのみ支持を受ける段階から規模を世界に広げる中で多くの者を取り込めるように変貌していったのと同様、今では過激で人種差別主義的な色彩は薄れているようである。しかし。それでも我々はモルモン教がどのような成立をしたのかを知って損をすることはないと信じる。

 本書はモルモン教全体の持つ怪しさとモルモン教原理主義者の起こした特定の事件を章毎に渡り歩くことで特定の事件の背景に潜むモルモン教の影響を浮き彫りしていると強く感じさせる。

 信仰とは何か。それを考えるのに、本書のような冷静かつ緻密な本はとても役に立つのではなかろうか。ぜひ、他の方も正しい信仰というものがありうるのか、考えてみてもらいたい。

 最後にもう一箇所、本書から引用する。この一節には、本を書くきっかけとなった殺人事件に加えてモルモン教の血塗られた歴史と権力との闘争について記す中で著者の宗教への思いが端的に語られていると思われてならない。

(略)信教の自由を守ることに熱心な民主主義社会で、ひとりの人間の非理性的な信仰は賞賛に値する合法的なものであり、べつの人間の信仰は常軌を逸していると断定する権利が、誰にあるのだろうか?社会は、積極的に信仰を奨励する一方で、他方では、過激な信仰者に有罪の判決をくだすことが、どうしてできるのだろうか?(P.378)

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ノンフィクション | 2006/12/13(水) 23:20 | Trackback:(0) | Comments:(4)

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236冊目 失踪日記
失踪日記

吾妻 ひでお著

イースト・プレス (2005.3)

\1,197

評価:☆☆☆☆


 あなたはアル中になったことがありますか?ホームレスは?

 吾妻ひでおはその筋では知られたマンガ家。個人的にはかわいい絵柄とシュールなストーリーのミスマッチ加減が好きなのだが、なんとこの人、どうしてもマンガが書けなくなってしまって職場から逃亡、ホームレスになっていた時期があるのだ。

 いろいろあってまた仕事に復帰するのだけれども、再度出奔。ホームレスとして暮らした後、なんと配管工となってしまう。そこでそれなりに配管工として楽しく過ごしたようだが、紆余曲折を経てマンガ描きに戻ったそうな。

 ところがこの人、それだけではなくて、アル中になり禁断症状が出て無理やり精神病院に叩き込まれたことまである。

 このマンガは、吾妻がホームレスとアル中になった自分を(暗くならないようにしながら)描いている自叙伝である。著者が残飯を漁り、拾ったお金でそれでも酒を飲み、シケモクを頼りに生きていく姿をからは経験したものにしか描けない迫力がありながら、持ち前のとぼけた絵によって悲惨さや苦労を感じさせない。

 そこでつい、読者は残飯を集める著者に、配管工としていろいろな(主にちょっとアレな)人と日々を送る著者に、アル中病棟での日常に、あるときは共感し、あるときは笑ってしまうのである。ホームレスやアル中という、暗いイメージをどうしても抱いてしまう境遇を、ここまで赤裸々にかつ面白く描いてしまう著者に脱帽です。(読者がそう感じられるのは暗くなるような話題は全て切り捨てているからなのだろうけど)

 
おまけ。
吾妻ひでお公式ホームページ
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マンガ | 2006/12/11(月) 23:03 | Trackback:(0) | Comments:(3)

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制覇
 休日出勤のない日。こんな日は引きこもりの私でも外に出る。

 ふとした拍子から近くにブックオフがあることを知ったので制覇に立ち寄る。その成果は14冊。実に予定調和的に、本だけで随分と重たくなってしまったのではあるが、これでこちらの未読本は当社比1.5倍以上に跳ね上がったのである。今回の掘り出し物はダーウィンに関する本。近日中にUPします。あくまで予定ですが。

 ついでに買ってきたのは今日と来週分の飲食品。家を出るときにはこちらが主役のはずだったのだけど、金銭的にも重量的にも圧倒的に本のほうが上なので主従が入れ替わっている。以前は本があれば一日くらい食べなくても平気だったのだが。

 スーパーの中は随分と異国の宗教に侵略されていて困ったものである。何が困るって、当のその日における自分の身の上を考えたらちょっとというか大分寂しいことになることだったりする。いっそのこと、当日は一人でスパークリングワインのフルボトルを飲み干してみたりするか。一人暮らし初心者にはここまで諧謔的なすごし方はできないのだった。というか、埋め合わせに来週末ちょっと早いクリスマスをやる予定だし。僕にはまだ帰れる場所があるんだ。こんなに嬉しいことはない。
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雑記 | 2006/12/10(日) 19:11 | Trackback:(0) | Comments:(2)

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235冊目 地震は妖怪騙された学者たち
地震は妖怪騙された学者たち

島村 英紀〔著〕

講談社 (2000.8)

\819

評価:☆☆☆☆


 地震の研究というとどんなものが思い浮かぶだろうか。地震予知?いやいや、地震予知はほとんど行われてない。では何が研究されているのかというと、地震を通して地球の姿を研究しているのである。

 著者は地震を研究する科学者である。日本のように地震が多い国に住んでいれば地震が大きな研究分野であることは想像できるし、(地震が起こった地に住む人々には迷惑な話ではあるが)サンプルが多いために研究しやすいように思われる。しかし、現実はそうではない、という。なぜなら、地震は単一の起こり方をするわけではなくて、複雑な要因が絡まりあった挙句、地球の物理学的なメカニズムが全然分かっていないことにある。

 この事実は随分と意外だった。高校時代、理系キラーと呼ばれたかなり投げやりで教科書をなぞるだけの教師に地球の持つ構造について教わった記憶を呼び起こせば、地球の内部構造はもう分かっているもののようだったのだ。ところが、やはり分厚い地殻に守られた地球内部のことは分からないことだらけ。だからきっと研究は面白いだろう。なにせ、まだまだ分かっていないことが目の前に広がっているのだから。

 そして未知の世界が広がっている科学分野は、読むのも面白い。著者たちの知的興奮を同時期に味わうことができるから。遠い他所の銀河に思いを馳せるのも面白いが、足元にまだまだ分かっていない世界が広がっているというのは実に興味深いではないか。

 本書で面白かったのは、年20~100kmほどのスピードで移動する地面の傾きの話である。この傾きは、震源地に発生してゆっくりと移動していくのだが、どうもこの傾きが移動したところで地震が起こっているようなのだ。そしてその正体は全く分かっていないという。なんとも不思議で、地球の持つ謎がまだまだ沢山あることを実感させてくれる。

 他にもダムなどの水源や雨によって地震が発生することなど面白い話題が多かった。これはどうやら水が地殻を滑りやすくするために地震が起こりやすい条件が整うらしい。ところが日本ではダムによる地震の発生についてはデータを集められないという。電力会社が必要なデータを表に出さないため、と著者は指摘する。国土の安全を考えるためにも是非このようなデータは出してもらいたいものだ。

 地震のメカニズムの他に、本書では研究で直面する様々な苦労が載せられている。超精密な機械を使うが故に人間の活動が邪魔になってしまう話、アフリカでは測量用の三角点が盗まれてしまったりする話。地震は場所を選ばないので地球上のあらゆるところで学者は活躍する。地味な研究活動に様々な苦労が付きまとうさまは傍から見ている分には面白いの一言で片付けられるが本人たちは大変だろう。

 地震について最前線の報告で面白い本なのだけど、いくつかの雑誌に書いた記事をまとめているという性格上、どうしても話の繰り返しが多くなっているのが残念である。そのあたりは本をまとめる際に書き直しても良かったように思う。そんな欠点があっても、20世紀最大の地震だったチリ地震が地球にどのような影響を与えたか、など地球に関しての興味を引き立てる話が多かったので、地球物理の世界を覗いてみたいという方にはお勧めしたい。
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その他科学 | 2006/12/10(日) 16:44 | Trackback:(1) | Comments:(0)

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234冊目 ナスカの地上絵
ナスカの地上絵

シモーヌ・ワイスバード著 / 恩蔵 昇訳 / 川崎 通紀訳

大陸書房 (1983.5)

\1,575

評価:☆☆☆


 古い本である。なにせ1983年。おまけにこんなマイナーなものを扱っているということで当然のように絶版。ナスカ展があったこともあってそれ以前からの興味が昂じて読んでみた。こういうときには古本屋に感謝したくなる。

 本書はナスカの地上絵を中心としたナスカの文化について広範な話題を扱っている。というのも、地上絵がなぜ、どのように描かれたのかということに加えてモチーフが選ばれた理由にも迫ろうと思えば、モチーフが持っていた意味を探らなければならないからだ。

 その結果、ナスカの灌漑や当時の環境について実に興味深い話題が取り上げられることになる。私にとっては彼らが作り上げた段々畑が印象的だった。斜面を有効に使う手段であるということは分かっていたが、南米でも使われていたとは想像していなかった。また、環太平洋の島々と何らかの交流があった可能性が示唆されているのが面白い。頻繁な行き来があったとは思えないので、恐らくは限られた回数と人数の接触だったのだろうが、それが文化に残るというのはとても面白い。

 もう一つ、ナスカ展でも大きく取り上げられていたミイラやそこに見られる脳外科手術の跡についての発見は考古学における偶然の発見が持つ大きな価値を認識させてくれる。王家の墓が見つかるまでの話は俄かには信じられないほどの偶然で、盗掘に遭っていないその墓の発見によって実に多くのことが推測できるようになった。

 また、ナスカはインカとも交流があった。本書でも取り上げられているので、まるでナスカを中心とした南米全般の文化史のような観を呈している。

 ところが欠点もある。翻訳が悪文ですらすら読めないのが欠点だと思う。もう一つの欠点は、多くの説に触れようとするあまり冗長になりすぎている。地上絵の成立について主要な説を併記するならそれがいくつかあったら面白いのだけど、それに加えてどうしようもない説まで並べられていると話の腰が折られてしまう。

 それでも著者のナスカへの入れ込みを強く感じさせられ、様々な異説にまで目配りをしてできるだけ冷静に研究を進めようとする意欲は伝わってくる。南米の歴史や文化に興味がある方は探し出してみたらどうだろうか。
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その他歴史 | 2006/12/09(土) 23:41 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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233冊目 NASA宇宙探査の驚異
NASA宇宙探査の驚異

中富 信夫〔著〕

講談社 (2001.6)

\1,260

評価:☆☆☆☆


 過去に人類が行ってきた宇宙開発の歴史をまとめた本。初版が2001年ということもあって情報はやや古いが、執筆時点での広範な話題を集めているので大まかな流れを掴むには丁度良いと思われる。

 人類がその調査の対象としてきたのは最も身近な月をはじめ、太陽と太陽系惑星(本書では冥王星も含めて記載されている)、衛星、小惑星、彗星などの太陽系内にあるほとんどの種類の天体である。その探査計画がどのように進められ、おおまかにどのようなことが分かったのかを一通り知ることができるので、人類の活動領域が思ったより広いと思うようになるのではなかろうか。

 天文に多少の興味がある方ならマリナーだとかガリレオといった探査機を知っているだろうから、成果は面白いのではないだろうか。

 また、宇宙では地球上よりも天体観測に有利という特長がある。というのは、地球上からの観察ではどうしても大気による光の散乱などを考慮しなければならなくなるが、空気のない宇宙からだと高い精度で遠い銀河の観測を行える。パルサーや不思議な形をした銀河など、興味深い話題が沢山ある。

 身近な太陽や月についての情報も触れられているので、地球に多大な影響を与えたこれらの天体がどのような姿をしているかを知ることができる。もちろんこのような惑星ができて我々がこうしていられるのは数学的な確率論で解けることなのだろうけど、それでも奇跡の惑星という言葉が浮かんでくる。

 もう一つの魅力は図版が多いこと。カラー、白黒で実に多くの図版が用いられている。文字を読まなくても十分に楽しめると思う。美しさと不思議さを感じられるだろう。天文学への興味を掻き立てるのは間違いないと思う。

 ただ、この本、はっきり言って英語が読みこなせる人は読む必要ありません。NASA欧州宇宙機関に行った方が良いでしょう。ついでに日本の状況をJAXAで把握しておけばもうほとんど網羅したといっても良い(ソ連とその後のロシアについてはサイトからは分からないけど)。それでも宇宙開発に興味がある方は図版だけでも眺めてみて欲しい。
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その他科学 | 2006/12/06(水) 23:27 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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知的怠慢
 懲りもせずに聖書の暗号がどうたらというヒトからTBが寄せられたのでちょっと詳しく。というか、こういうの大好き。大人気ないから。ちなみにTBされているのは聖書の暗号とは【聖書 暗号 2006 the bible code】だが、あくまでも著作権法対策としてリンク先を載せるだけでリンク先の閲覧は推奨しません。下らないし無意味だから。

 TBもとのサイトではこんな大見得がきってある。

(略)聖書の暗号とはいかにもあやしげなものに思えるが、数学、統計学、機械計算を合体した方法で明らかになった証拠が論破されないままなら、その結果を説明する方法は一つしかない。
(略)どの時代のものにも、トーラーを書くことは不可能だということだ。
そして誰であろうとそれを書いた者は、古代ユダヤ人が神がそうしたと主張していたとおり、一文字一文字の正確な順序に、格別の配慮をしていたのだ。
(略)
ハーバード大学数学科教授、ディヴィッド・カザンが1996年に新聞のインタビューで述べているとおり、「その現象は本物だ。そしてその解釈は個人にまかされている」のだ。


 TB元の主張をいくつかのポイントにまとめよう。

(1)数学、統計学、機械計算を合体した方法で明らかになった証拠が論破されていない。したがって聖書の暗号は否定できない

(2)聖書には格別の配慮がなされており、文字の順序に特別な意味がある

(3)これはハーバード大学の数学教授も認めているのだ(愚民ども、反論するなよ)

 というわけで、まずは(1)に対して。

 超常現象の謎解きというサイトは大変参考になるので是非ご覧いただきたいのだが、その中でも聖書の暗号を扱っている。ちょっとでも聖書に暗号があるのかと思ってしまったヒトは必ずや全部読むべし。当該の聖書の暗号より重要な部分を引用する。


最後は、ドロズニンが1997年6月9日に発行された『ニューズウィーク』誌上で、懐疑論者に対して行った挑発について紹介しておきたい。

この誌上でドロズニンは、「私の手法で『白鯨』から国家元首が暗殺されるという予言を発見できたら、彼らの言うことを信じてもいい」と大見得を切った。
この中で言われている『白鯨』とは1851年にハーマン・メルヴィルが発表した小説で、「彼ら」とは、『聖書の暗号』は単なる偶然の産物で、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる、べつに聖書でなくても同じような「暗号」はいくらでも見つけられる、と批判した海外の懐疑論者のことを指している。

ドロズニンからすれば「絶対に見つけられるわけがない」と思って大見得を切ったのだろうが、現実にはあっさり返り討ちにあってしまった。

この挑戦を受けて立った海外の懐疑論者たちは、『白鯨』の中から、イスラエルのラビン首相、ジョン・F・ケネディ大統領、アブラハム・リンカーン大統領、レバノンのルネ・モアワド大統領の暗殺の他、インディラ・ガンジー、サーハン・サーハン、レオン・トロツキー、マーチン・ルーサー・キング牧師、エンゲルベルト・ドルフース、などの暗殺も「発見」した。

また暗殺以外にも、ダイアナ元王妃の死や、ドロズニン自身の死の予言まで『白鯨』の中から見つけ出した。
「聖書の暗号」ならぬ、「白鯨の暗号」によれば、ドロズニンはカイロかアテネで心臓に釘を刺されて死ぬそうで、心臓にはかなりの穴が開くらしい。
また死の予言の近くには、嘘つき、偽り、愉快な、などの単語も並んでいた。


 大変残念なことに、聖書の暗号方式では何も証明することはできないのだ。この批判が述べているのは、一定以上の文字数を超えてしまえばそのなかからランダムに文字を選び出すことでいかにも予言っぽいことを導き出せる、ということ。

 つまり、たとえば『スチュワーデス彰子 恥辱のフライト』なんていう仏蘭西書院あたりでありそうな本(そんな本が実在するかどうかは知りません)からでも歴史上重要な暗号を見つけ出すことができるのだ。

 そして聖書の暗号擁護派には極めて残念なことに、一定以上の文章が必ずこのような暗号に見えるようになることは数学的に証明されている。

 次に(2)。これまた残念なことに、聖書を書いた人間は一人ではない。聖書学という宗教心のない人間には理解に困る領域の学問があって、そこで詳しく研究されているのだが、聖書の編纂には複数の人間が関わっていて、そのために場所によって起こった事件の内容が異なったり重複があったり矛盾があったりすることが広く知られている。いかなる人間にもかけなかった訳はないし、特別な配慮があったとも思えない。

 最後に(3)。そもそも、ハーバード大学の教授という、権威を引っ張り出してきて自説の正しさを裏付けようとする方法は愚劣極まりないことを指摘したい。それでもまあ良い。問題は、”ディヴィッド カザン ハーバード 数学 教授”をキーワードにgoogleで検索した結果を見てみると、そんな教授の存在を示すのはTB元のサイトだけ。そんな教授、実在するの?

 こうやって見てくると、聖書の暗号を主張する人々の知的怠慢さが透けて見える。彼らはさして脳を使わず、こんな文字列がありましたというだけでそれ以上のことはできない。残念なことに、聖書の暗号のみが正しいという主張は定規とコンパスだけで任意の角の三等分ができるという主張と同じですでに数学的に否定されていることを知るべきだ。

 考えてみたら馬鹿馬鹿しいことで、聖書の暗号を主張する人々も、聖書から未来を読み解こうとすると途端に悲惨な失敗に終わり、彼らが自信を持って読み取れるのはすでに起こったことが予言されていた!という愚にもつかないことだけなのだ。ノストラダムスの大予言と一緒で、起こった後でしかその予言を正しく解読できない予言になんらかの意味があるのだろうか。

 それに、そもそもこんなブログに反論すること自体が馬鹿げている。もし本当に聖書にそんな予言が沢山あるなら、今後起こることを100くらい読み取って、公表すれば良い。世界中の人がレフェリーになってくれるし、正しい結果が得られたら(暗号があるという人はそう信じているはずだ)、その信憑性はどんな議論をも打ち負かす力を持つだろう。

 なので提案。聖書の暗号肯定派の人々は、ここ5年以内に起こる大きな事件を沢山書き出してみて欲しい。不祥、このサイトでその予言を載せようではないか。それでみんなで判定してみれば良い。聖書の暗号の正しさが証明されれば私はこのサイト上で聖書の暗号を批判したことを詫び、聖書の暗号否定派に対する批判を行うことにする。場合によってはブログの閉鎖を含む厳しい処置を受け入れる準備もある。

 というわけで、是非挑戦してきて欲しい。しかし、やるからには君たちもそれなりの掛け金を用意してくれたまえ。

 なお、予言として認められないのは以下のとおり。
・必ずや起こること(10年以内にブッシュは退陣するだろうとか、100年以内に小泉前首相は死ぬだろう、といったこと)
・起こる可能性が極めて高いこと(次のアメリカ大統領は民主党から選出されるだろう、どこかで大地震が起こるだろう、といったこと)

 予言には何が起こるか、いつ起こるか、その結果どうなるか、分かる限り詳細に述べること。こちらは大枠があっていれば重箱の隅をつつくようなことはしない。

 私の大予言。
 予言に大失敗した予言肯定派は知的誠実さをかけらも見せず、自説を取り下げずに他所で怪気炎をあげることだろう。(その前に挑戦に乗るだけの度胸がある人などいないかな)
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雑記 | 2006/12/06(水) 00:49 | Trackback:(0) | Comments:(2)

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232冊目 パパの脳が壊れちゃった
パパの脳が壊れちゃった

キャシー・クリミンス著 / 藤井 留美訳

原書房 (2001.11)

\1,890

評価:☆☆☆☆


 脳の損傷を受けた人々は不思議な症状を示すことが多くの事例から明らかになっている。多様な能力の、その一部を喪うことがどれほど大きな影響を及ぼすのかを知れば知るほど、脳だけではなく人間の存在そのものにも思いが向く。

 しかし、そんなことを言っていられるのはあくまでも脳障害が第三者の身の上に起こった場合であって、自分あるいは周囲が遭遇してしまったら。それは大変で深刻なことになるに違いない。

 著者はフリーのライターで、弁護士である夫、娘、友人たちとバカンスに行った先で夫が事故にあってしまう。そこから先はタイトルどおり。昏睡から目覚めた夫はすっかり別の人間に変わってしまっていた。

 性格が変わり、人前でするべきではないことをし、話すべきではないことを話すようになる。娘を機械と間違え、自分の能力は直視できない。脳障害の残酷なのは、中身が変わり果ててしまったにも関わらず、外傷がないため外からは健康に見えてしまうことだ。だから、誰もが障害を持つ以前の能力や性格を期待するが、それはもう永遠に失われてしまっている。実に残酷なのだ。

 それでも著者は夫を支え、変化を受け入れて歩んできた。その経過はお涙頂戴のドラマには程遠く、エゴもあれば我慢の限界にいたることもあるが、それでも大変な障害を持った家族と共に歩む力強い女性と感じさせられる。高い効果を持つ療法がさらに開発され、こんな悲劇に見舞われる人が一人でも少なくなることを願いたくなる。

 私にとっても、脳の大規模な損傷は死ぬよりも悪いことに思える。考えがまとまらず、読書に集中できず、仕事もろくにできない。それでは本当に私なのか。私の姿をしている別人としか思えない。それが脳障害の現実なのだということに改めて思い至ったのだった。

 最後に、本書を読んで憤りを感じざるを得なかったのがアメリカの保険会社のこと。日本は健康保険で(少なくとも建前上は)国民全員が経済的な負担を少なくすることができるが、アメリカはそういう保険ではない。金持ちは手厚い保護を受けられるが貧乏人はちょっとした怪我や病気でも病院にかかれないという。それが本書でも随所に顔を出している。アメリカは、確かに技術では最先端を行っているかもしれないが国民を守るという意味では先端から程遠いところにあると感じられてならなかった。


 なお、過去にいくつか脳についての本を紹介している。興味が沸いた方は是非以下の2冊にも当たってみて欲しい。医者が脳障害を患った自著として『壊れた脳生存する知』、脳研究の最前線で活躍しているラマチャンドランの『脳のなかの幽霊、ふたたび』
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医学・脳・精神・心理 | 2006/12/04(月) 23:26 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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231冊目 黒いスイス
黒いスイス

福原 直樹著

新潮社 (2004.3)

\714

評価:☆☆☆☆


 スイスといえばどんなイメージが沸くか。山が多く風光明媚で時計などの精密加工が盛ん。あるいはアルプスの少女ハイジのような牧歌的なところ。さらにはサウンド・オブ・ミュージックの舞台にもなった、平和な国。銀行が盛んでゴルゴサーティーンもスイス銀行を使っていたな・・・・・・

 だが、スイスの顔はそれだけではすまない。永世中立ではあるが、ちょっと前まではその基幹産業は傭兵業だった。多くのスイス人がヨーロッパ各地で交戦し、その少なからぬ者が異国の地で戦場に斃れた。スイス傭兵について、ここではフランス革命の際に最後まで王を護ろうとして命を失ったのが彼らであることを指摘するにとどめておく。興味がある方は197冊目で取り上げた『傭兵の二千年史』をあたって欲しい。

 意外と武断的な雰囲気があることに加え、決して他国に誇ることができない過去もスイスにはある。それを指摘しているのが本書で、優れたノンフィクションにつきものの取材は必ず当事者に行うことを通してスイスの実像を実によく焙り出していると思う。

 ロマ(ジプシーの”政治的に正しい”言い方)を差別し、政府主導でロマの子供たちを親元から誘拐してロマを根絶しようとした事実。その過程で多くのロマの子供たちが酷い虐待を受けたがその償いを拒否してきたこと。

 二次大戦時には積極的にナチスと協力し、西方からなんとか生き延びようとやってきたユダヤ人を、ナチスがユダヤ人を大量虐殺していると知りつつ国境で追い返して死に至らしめた。

 戦後には直ちに核兵器の研究、開発に取り組み、核実験を行おうと思えばいつでも決行できるところまで行き着いていたこと。

 その他にも強烈な相互監視社会であること、コソヴォの難民を追放していること、ネオナチが勢力を伸ばしていること、税金逃れの一大拠点となっていること。どれも威張れることでは無いだろう。

 コソヴォの難民については、すでに国の20%程度が外国人であることから外国人の受け入れに慎重になっていると好意的に解釈する余地もあるし、永世中立国が中立であり続けるためには中立を補償できるだけの自前の軍事力が必要なことから核兵器の開発を考慮したというのも分からないではない。

 したがって、一概にスイスが悪いのだというわけではなく、それがリアルなスイスの姿なのだという風に理解したい。また、本書の3章では国の姿勢に反してユダヤ人を救ったグリューニンガーの話は杉原千畝に通じるものがあり胸を熱くさせる。

 政府が入国しようとするユダヤ人を識別し、いつでもナチスに引き渡せるようにするためパスポートに赤いJの文字を印刷する法律を成立させナチスに協力を進める中、彼は庇護を求めてやってきた難民に法律が施行される前の日付で入国したことにしてユダヤ人の逃亡を助けていたという。だが、その後の彼を待っていた運命は過酷だった。逮捕され、裁判では罰金刑を受けた挙句、公職からは追放され、極貧の中での生活を余儀なくされてしまう。その名誉は長らく回復されなかった―――

 スイスに対するイメージを変えろ、という意見を押し付けているのではなく、あくまで冷静に実情を伝えているところに好感が持てる。ナチス、そしてソ連と次々現われる四方の強国に隣接して、かつ交通の要衝である国が中立を護るにはそれなりの厳しさがあったのかもしれない。だが、風光明媚で平和な土地というだけではないことは間違いないだろう。スイスに興味がある方は手にとってみるべきではなかろうか。
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ノンフィクション | 2006/12/02(土) 23:14 | Trackback:(0) | Comments:(0)

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230冊目 イギリス嫌らしくも羨ましい国
イギリス嫌らしくも羨ましい国

菊池 哲郎〔著〕

講談社 (2001.4)

\672

評価:☆


 タイトルに反してイギリス礼賛本。イギリスの生活を経済的には他の国の後塵を拝してはいるが精神生活は豊かであるとしている。

 たしかに挙げられている例を見るとそう思う点は少なくない。バカンスの楽しみ方や美術、博物品とのふれあいなどはまだまだ学ぶべきものが少なく無いと思う。大英博物館が写真撮り放題で日本の企画展が全くダメという落差を見ても分かると思う。

 また、イギリスの押し付け方ではないとされる教育システムは確かに魅力的な面もある。

 しかし、そろそろ欧米諸国のことを理想として取り上げるのはやめようよ、と言いたくなるのも事実。それは良い点を認めないというのではなくて、他国の美点は美点として導入しつつ、日本の良い点は保ちましょう、ということだと思う。

 たとえば、パブの過ごし方として階級に相応しい場があるのだと指摘しているがそもそもその階級は必要なのか。ロンドンでは言葉の使い方やアクセントからどの通りの生まれかまで分かり、それが生涯付きまとうという。

 日露戦争のとき、ロシア兵は日本が士官学校を出ればその出自に関わらず士官、そして将校になれたことに驚愕したという。無理をせず今の階級に留まれという無言の圧力があるのとないのと、どちらが良いのか。

 どうも、イギリスの高い立場の人々を見てイギリス全般の善し悪しを語っているように思われてならない。話題は新聞から地下鉄・バスなどの交通事情、そして不味いと世界的に高い評価(?)を受けている食事事情などを取り上げていて話題は尽きないが、どうにも一面的に過ぎる気がしてならない。

 羨ましいのは、著者が方々のパブを巡って美味しいビールには巡り会ってきたことであろうか。
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未分類 | 2006/12/01(金) 23:56 | Trackback:(0) | Comments:(2)

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