松本 利秋〔著〕
祥伝社 (2005.8)
\798
評価:☆☆☆☆
サブタイトルに“10兆円ビジネスの全貌”とあり、イラク戦争など現代戦の背後にある戦争の民営化が描かれているのかと思って手に取ったのだが、予想外の内容だった。
本書は、まずイラクで戦死した斉藤昭彦さんのことから筆を起こす。戦争と聞いて思い浮かべる通常戦が終了した後、ゲリラ戦(あるいはテロ戦争)が続くイラクで、彼は何をしていたのか。彼の死後に明らかとなったのは、彼が戦争を請け負う民間企業であるイギリス系の警備会社、ハート・セキュリティの一員だったこと。そしてハート・セキュリティのように、戦争の様々な局面で戦闘から雑務にいたるまであらゆる類の業務を引き受ける民間企業が少なからず存在していることである。
この事実を明らかにした後、クセノフォン率いるギリシアの傭兵部隊による敵地ペルシアからの6000キロの逃走劇、カルタゴとローマの戦い、スイス傭兵とフランス王朝からアフリカ、南米、中東、アジアと各国で繰り広げられる紛争で見られる傭兵たちの活躍を取り上げる。戦争をビジネスにしているという点で、彼ら傭兵こそがその起源であると言えるだろうことから戦争ビジネスの歴史を追うには傭兵の歴史を紐解くのが最適だろう。
そういう点で、本書は以前紹介した『傭兵の二千年史』に似ている。しかし、『傭兵の二千年史』が歴史上の話に終始していたのとは異なり、現代史を扱っている。
中南米における麻薬組織との戦い(もっとも、様相は複雑怪奇で政府対麻薬組織という図式は通用しない)、ピッグズ湾事件、そしてイラク戦争まで傭兵たちの作り上げたネットワークは実に広く深く世界に入り込んでいる。また、武器商人は政府と強く結びつき、エネルギー戦略とも絡んで世界をより危険な地にしている。武器商人の跋扈によって国が荒れたことを問い詰めても「お国の国防予算の件は政府の問題でしょう。われわれのビジネスは政治とは関係なく、必要な物を必要な時期に必要な場所に提供する。このことに尽きます」と言い放つ。
戦争は一大産業となり、もはや世界の経済システムに組み込まれてしまった。それが悲しむべき現実で、だからイラク戦争は防ぎようが無かったのかもしれない。イラクの混乱も続いて喜ばれているのかもしれない。
まずはその現実を知ることができただけで良しとしなければならないのかも知れない。
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