金子 史朗著
中央公論社 (1998.9)
\1,995
評価:☆☆☆☆
紀元前218年、カルタゴの名将ハンニバルは象軍を引き連れてアルプスを踏破、ローマに迫る。ハンニバルの名を高らしめ、現在までも勇名を轟かせることになる一連の戦いの勃発である。
この戦争そのものについては多くの人々が題材として取り上げており、大まかな流れを追いかけることができる。ハンニバルあるいはポエニ戦争をキーワードに検索してみると多くの書物、サイトに出会うことができるだろう。
しかし、そのハンニバルが引き連れた象の出自は?となるととたんに情報量が限られてくるのではなかろうか。ましてや
彼らがどのようにして山越えを行ったのか、ということになると。峠は岩で通行不能になっていたそうである。その岩をハンニバルの工兵隊はどのように片付けたのだろうか。
そんな歴史の裏にある科学の謎に迫っているのが本書である。エジプトのミイラ作製技術とそれにまつわるアスファルト貿易の話、隕鉄を用いた鉄器の製造、アンコールワットに見られる見事な建築の材料となった石材の出自、火山に埋もれたポンペイの在りし日の姿、アレクサンドロス大王とその父マケドニア王フィリッポスおよび大王の師アリストテレスの政治、フランス海中に沈む古代の壁画から読み取れる先史時代ヨーロッパの自然環境など幅広い話題で科学から語ることのできる多くの知見が書かれていてとても面白い。
特にハンニバルには多くの分量が割かれていて著者の思い入れが伺える。象の種類から北アフリカの古生物にまで話が及ぶその話題の奔放さがすばらしい。遺体を腐敗させずに保存するためにアスファルトが役立つことや、英語でミイラを表す「mummy」がアラビア語の「mumiya」(瀝青=アスファルトの原料で処理したもの)に由来することなど断片的な知識としてだけでも意外な話題が満載なのも魅力を高めている。また、歴史の流れに地質学を当てはめるとどんなことが分かるのかということも普段気に留めていなかったので新たな視点を提供してくれた。
さらに、著者が実に博識で多くの文献に当たりっていることで、面白く意外なエピソードを多量に提供してくれながらも決して異端にはなっていないことも本書を特徴付けているのではなかろうか。著者の推測はきちんと推測であることが明記される丁寧な姿勢も慎重さと真摯さを感じさせてくれる。歴史と科学の交わる、そんな交点の面白さを教えてくれた一冊。
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