松本 仁一著
朝日新聞社 (2004.7)
\1,470
評価:☆☆☆☆
一つの銃によって護られた国がある。同じ銃によって政府はおろか社会基盤までもが破壊されてしまった国がある。世界で最も有名なライフルである、カラシニコフAK47。
過去の常識を覆し、あえて部品の間にあそびを設けることで火薬のカスが銃身について狙い通りに打てない、あるいは薬莢が詰まる不具合を最小限に抑え、部品を統合して極めて簡単な構造をとることはメンテナンスの容易さと頑健さを兼ね備えさせることになる。
これらの条件が揃うことで、カラシニコフは過酷な状況で使用されてもメンテナンスをしなくても使い続けられる銃として地球上に蔓延することになる。持つのは管理の進んだ先進国だけではない。反政府組織、犯罪者集団、ゲリラ。国家が銃を押さえ込むことに失敗した全ての地域で、暴力シーンにカラシニコフが現われることになる。
たとえばイラクで日本の外交官が殺害された事件にはカラシニコフが使われていたという。アフリカの小国でGNPが最低クラスのシエラレオネに流入したカラシニコフはシエラレオネに悲惨な内戦をもたらした。その副産物として、沢山の少年兵・少女兵が生まれてしまう。まだ幼い彼ら彼女らはレイプされ、殺人を強いられ、攻撃時には盾にされて次々と命を落とす。生き残っても停戦後には生活するための技能は何も無い。
また、アパルトヘイト後の南アフリカに溢れた銃はかの国を未曾有の犯罪国家へと変質させる。その有様を引用する。
(略)人口4433万人の南アで、2001年に起きた殺人事件の実数は21,553件である。10万人あたりでは48.6件になる。(略)
人口が南アの3倍の日本で、2001年の殺人事件は1,340件である。単純に実数だけで比較しても16倍になる。人口10万人あたりでは50倍に近い。
強盗は22万8442件[日本では6,393件]である。強姦は52,425件[日本2,228件]だ。(略)
(P.212 数字は引用者が漢数字からアラビア数字に修正)
人口比で言えば南アの犯罪は日本と比べて殺人と強姦が50倍、強盗100倍程度と思えばそう遠くない数字か。いずれの項目をとっても治安が崩壊しているとしか言いようが無い。
著者はそんなカラシニコフの破壊の爪跡を追いながら取材を続けるうちに、設計者のカラシニコフがまだ存命であることを知る。カラシニコフとのインタビューをはさみ、また銃によって破壊された世界を訪れる。
なにやら全く希望を感じられないような気になるが、しかし一筋の光明も見える。カラシニコフで秩序の崩壊したソマリアから分離独立を宣言したソマリランドは、人々の話し合いによってカラシニコフを手放すことを決めた。おかげでソマリランドには金は無くとも平穏な生活だけは戻ってきているようである。無秩序の暴力に向かいがちな国々の中にあってソマリランドの実験はとても貴重な教訓となっていくのではなかろうか。銃による恐怖が取り去られ、銃がきちんと管理される世の中になることを願ってやまない。
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