ジョン・ル・カレ著 / 宇野 利泰訳
早川書房 (1978.5)
\672
評価:☆☆☆
スパイ小説の金字塔、らしい。ちなみに金字塔とはピラミッドのことである。知らないって。
このル・カレの小説はそれまでのスパイ小説と違ってスーパーマンではない、人間的な苦悩を持つ普通人を主人公にしたのが新しかったという。
しかし、題材がいかにも古い。勿論、スパイ小説などは時代の影響を否応無しに受けてしまうものだから仕方が無いのだけれども、複雑な世界情勢を理解できるような年の時にはすでに冷戦もベルリンの壁も有名無実と化していた私にとっては異世界の物語のようである。
舞台は冷戦たけなわのイギリスと東ドイツの諜報戦。イギリス情報部に勤める主人公リーマスは、ドイツに作り上げた諜報網を次々を失っていき、そして最後に残った男も東からの脱出を目前にして射殺されてしまう。恐らくは強敵たる東ドイツ諜報部副長官ムントの手によって。
リーマスは失脚を覚悟するが、しかしこのリーマスの窮状をイギリス諜報部は利用しようとする。全ての人間を欺いて、惨めな生活を耐えて、リーマスはムントへの復讐の機会をうかがう。
007のような派手さは全く無く、わずかな失敗も死を意味する状況でありながら、淡々とした会話や状況説明でストーリーは進む。やがて当初の計画は大きく狂っていくことになる。リーマスの復讐は成るか。
興味があれば結末を自分で確かめて欲しいが、手に汗握るシーンを期待されているのであれば期待はずれに終わるであろう。それよりも、諜報の世界が派手な事件とは無縁の、静かで深く潜行したなかで起こる熾烈な争いであることを認識して読むべきであろう。
それと、もう今では過去の遺物となっている“東側”がどんな世界だったのかを垣間見るには丁度よいのではなかろうか。古い小説なので特にお勧めはしないが、スパイ小説が好きなら読んで損は無いと思う。
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