デヴィッド・W.ウォルフ著 / 長野 敬訳 / 赤松 真紀訳
青土社 (2003.5)
\2,520
評価:☆☆☆☆
地球の生命圏というのは、実はそう大きくは無い。地球そのもののサイズが通常の生物から見ると非常に大きいのでそんなことはないような気がするかもしれないが、生物の分布は事実上地表とその近辺に過ぎない。そう思われていた。だが、無生物状態と思われていた地下数キロのところまで細菌が繁殖していることが分かったのはそんなに遠い過去の話ではない。
地下は酸素が届かない。でも、それだけが無生物状態と推測された理由ではない。繁殖に酸素を全く必要としない嫌気性細菌は沢山知られている。猛毒を出すことで知られるボツリヌス菌などが嫌気性細菌に属する。ちなみに、1歳までの乳児に蜂蜜を与えてはいけない理由は蜂蜜の中は無酸素状態なので微量のボツリヌス菌が存在するリスクを抱えているからである(大人には無害なレベルしか存在しない)。
地下は地熱によって高温になる。おまけに岩盤によって高圧がかかることになる。しかも代謝に必要な物質の循環が想像できなかった。これだけの悪条件が揃えば生物が存在できないと考えていたのもあながち早計とは言いがたいだろう。
だから、地下深くまで生物圏が広がっていて、その細菌たちが鉄の酸化還元反応からエネルギーを取り出すことで安定した生態系を作り上げていることが分かったニュースは大きな驚きをもって受け入れられた。しかし、地下深くの探索は容易ではなく、地下生物圏の探求はまだまだこれからの分野である。日経サイエンスでは2006年9月号でNEWS SCANにてメタンハイドレート層付近で生息する古細菌が見つかったことを報じる記事で地下生物圏の解明につながる可能性を論じている。今も極めてホットな話題なのだ。
それを知っていたのでタイトルを見て飛びついたが、嬉しい誤算だった。私は一冊丸々地下の細菌ワールドかと思っていたのであるが、予想に反して超深度に住む細菌の発見以外にも豆類の根と共生して窒素固定を行う細菌、ダーウィンが長期間観察したことで知られるミミズ、地下に巨大なコロニーを作るアリやプレーリードックなど細菌に限らず地下に住む様々な生物の生態および彼らのもたらす影響が詳細に記されている。
ミミズやプレーリードックの地下活動がどれほど大きな影響を与えるか、読んでも俄かには信じられないくらいである。人目につかない暗い地下にこれほど豊かな生物圏が広がっているということはそれだけで十分に魅力的な話で、その上にまだまだ分かっていないことばかりであるということが好奇心を掻き立てる。きっと地下生物についてはどんどん新たな知見が得られていくことだろう。その報せを楽しみに待ちたい気分にさせられた。
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