エレイン・モーガン著 / 望月 弘子訳
どうぶつ社 (1998.9)
\2,310
評価:☆☆☆☆☆
冒頭において指摘される、進化における無意識の思い込みについて大変な衝撃を受けた。過去の主要な進化に関する文献が男性を中心に語られてきたというのは私も聞き及んでいる。しかし、以下のような問いかけには未だに自分の思い込みの浅はかさを思い知らされる。
(略)もう一つ別の無意識な思いこみは、今なお正されずに残っている。嘘だと思ったら、代表的だと思われる人間の姿を心に思い描いてみてほしい。
それは男かもしれないし、女かもしれない。黒人であるかもしれないし、白人、黄色人種であるかもしれない。だがおそらく間違いなく、大人の姿であろう。
私たちは、成人期こそが人生の最重要部分であり、それ以前の赤ん坊時代や子ども時代は、単なる”準備期間”だと思いこんでいる。(略)
(p8)
おっしゃるとおり。子供時代を”種を代表する時間”だと思ったことはなかったし、それが進化上重要だった可能性など想像したことも無かった。
本書はそんな素朴な思い込みが前提としている多くの仮定を、懇切丁寧にそれらが根拠の無い思い込み以上の何者でもないことを明らかにしている。子供どころか、胎児の段階での進化が人類全体の姿を大きく変える原動力になったという指摘には大いに知的好奇心を掻き立てられる。
また、人類に見られる二足歩行、言語の習得、体毛の少なさなどが、人類の祖先がジャングルやサバンナではなく水辺で進化した証拠であるという指摘も興味深い。詳細は本書に譲るとして、ここでは赤ん坊のまるまるした姿は陸生では不利である一方で浮力のある水中では有利であることだけは紹介しておこう。根拠はこれだけではなく、その理由のどれもが説得力を持っているように思われる。
とにかく人類の進化史に関して新たな視点を提供してくれているのは間違いない。そこに興味がある方は手にとって損をすることは無いと断言できる。
もう一つの面白い点は、子供と親は利益の共同体ではなく、時に大いなる対立を抱えていることを明らかにしていること。子供が胎内にてできるだけ大きくなろうとするのに対し、子供が大きくなりすぎたら自分にかかる負担が大きくなってしまうので未熟な状態で出産するようになったという指摘は貴重なものに思う。慈しみながらも対立を含む、そんな複雑な結びつきは子育てを経験した方には覚えがあるのではなかろうか。斯く言う私にもある。
これまで書いてきたように、新たな視点、考え方に富んだ本であった。このように視野を広げてくれる上に面白い本に出合えたことは大変嬉しいことであった。子育てに携わる方々にもお勧めしたい一冊。
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