松浦 晋也著
朝日ソノラマ (2005.5)
\1,400
評価:☆☆☆☆☆
2003年12月9日、火星探査機「のぞみ」は目的達成を断念、火星の1000km先を通り過ぎた。夢を託した27万人と打ち上げ前に非業の死を遂げた研究者との名前を載せた探査機は、遂にその夢を叶えることなく役割を終えた。
乱暴に言ってしまえば「のぞみ」は失敗だったことになる。なぜ失敗したのか。その謎は本書に余すことなく語られている。そして、読んでみると「のぞみ」はただ失敗しただけではなく、探査機の運営に関する貴重な経験を積み重ねることができたという点で十分に投資を回収できたのではないかということも。
本書を読めば、「のぞみ」が歩まねばならなかった苦難の歴史が全て分かるようになっている。愕然とさせられるのは、遥か火星を目指すという気宇壮大な試みに対して、金も、人手も、経験も、余りにも不足していたという現実である。
その結果、少ない打ち上げ能力をカバーするために極限までの軽量化を図り、エネルギーを少しでも節約するために複雑な軌道を選択した。十分な信頼性を持って使える部品が無いためにアメリカのメーカー製のものを使うことも強いられた。重ねられた努力に、最後に加わったのは「のぞみ」に夢を託した人々からの沢山のメッセージ。「のぞみ」に名前を載せるというキャンペーンには27万人余りもの名前が寄せられ、その全ては縮小コピーされて「のぞみ」と共に火星への旅に出た。
順調に旅を続ける「のぞみ」にトラブルが発生したのは地球の重力を利用して加速するスイング・バイのとき。そこからは苦闘の連続。研究者たちの執念、努力、問題解決能力には唸らされる。このプロジェクトでの経験の積み重ねは日本の宇宙開発にとって大きな財産になったと確信できる。
本書を特徴付けているのは、機械に詳しい著者だからこそできる、部品についてのレクチャーと、複雑な原理や理論を分かりやすく説明することで当事者たちの苦闘っぷりが伝わってくるところではなかろうか。おかげで、探査機のどこに技術的な課題があって、どこが問題を起こして、どのように回避を図ったかということがとても分かりやすい。
また、「のぞみ」のプロジェクトは、打ち上げてから5年以上、計画からは12年もの月日が流れている。その間に政治的にも社会的にも多くの変化があった。そんな世相を間に挟むことで、「のぞみ」はあの頃どんな闘いをしていたのか、と思いを馳せることができる。生活感覚の時間と結びつくことで、宇宙の距離を実感させられたものである。
読めば読むほど宇宙探査には大変な困難が待ち受けていることが分かる。できれば、また大きなチャレンジに向けてのプロジェクトを計画し、宇宙への興味や夢を掻き立てるようにして欲しい。
なにしろ、困難な以上、失敗は付き物としてその分の予算を増やすことが必須だ。失敗から経験を積んでいくことは将来への宝となるだろう。そして費用は国から出るわけだから、一般国民が出費を理解しなければいけない。宇宙への興味や夢がなければ、費用がなくなり、打ち上げ回数が減り、経験は足りないままで、一機の探査機にかかる負担は増大する。それではなにも進展がない。27万人もの名前が集まったことに、私は期待を寄せている。
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