籾山 明著
中央公論新社 (1999.4)
\798
評価:☆☆☆☆
著者の籾山先生の講義を大学時代に受けた事がある。一般教養として、興味のある中国史の授業をとったらそれがすこぶる面白く、わざわざ他学部まで押しかけて卒業と何の関係も無い単位を取ったものである。風呂敷に資料を包み、冷静ではありながら歴史を学び教えることの喜びが伝わってきて、今でもその授業内容を思い出したりする。
そんな学生時代を終え、卒業してから読んだ籾山先生の『秦の始皇帝』は、とても丁寧かつ抑えた筆致で秦の時代を語っていた。多くの資料を駆使しながらも平易な文章で、統一前の状況からその崩壊まで一気に読ませてくれる良書だった。
本書は秦を継いだ漢の時代に、北方の異民族である匈奴と最前線で対峙した人々の日常を、遺跡から発掘された木簡から描き出している。万里の長城、それも西側の敦厚周辺ということで、長城の全体像を追いかけるわけではない。むしろ、その狭い範囲に注目することでそこに暮らした人々の生活や仕事を深く掘り下げる。
英雄中心の歴史書では決して見えない、最前線の日常を垣間見せてくれること自体が面白い。たとえば、防禦に当たるための細かい取り決めや些細に見える事実を一次史料に基づいて説明してくれている。
しかも、大局的な状況説明はきちんとしてくれている。なぜ秦の時代以降に匈奴が強大化したのか。漢と匈奴は何を争っていたのか。大雑把に状況を把握した上で辺境に目を向けているので細かい事実も頭に入りやすい。漢に限らず、中国に成立した王権と北方異民族の攻防に興味がある方には是非お勧めしたい。
なお、万里の長城という防禦システム全体がどのように機能してその効果はどうだったのか、また時代ごとの性格はどうだったのか、ということに興味がある方には『万里の長城攻防三千年史』がお勧めである。
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