ゴードン・トーマス著 / 東江 一紀訳
光文社 (1999.7)
\2,100
評価:☆☆☆☆☆
世界最強の諜報機関といえば、どこだろうか。職員を万単位で数えるかつてのKGB?いや、ちがう。CIA?あるいはNSA?それも間違いだ。その栄誉を担うのは、わずか2,000人あまりの工作員からなるイスラエルのモサドこそ相応しいだろう。
アルゼンチンに身を潜めていたナチスのアドルフ・アイヒマン誘拐、イラクのミグ21奪取、ミュンヘンオリンピック事件の犯人暗殺のように関与が知られたものから、クリントンのテレホンセックス盗聴、ダイアナ妃事件、イツハク・ラビン首相暗殺事件のように知られていないものまで実に多くの事件にモサドは関わってきた。敵国の中枢にまで工作員はもぐりこんだ。
イスラエルが核武装するにあたり、核の査察で核兵器開発が分からないように隠蔽し、サダトが仕掛けたスエズ運河急襲も事前に情報を察知していた。イラン・コントラ事件に関わり、あるときは法王庁に、またあるときはCIAに、果てはKGBにも接近し、目的を達成してきた。
彼kらは国内外を問わず、沈着で冷酷な工作を多数行い、その多くで全く証拠を残さなかった。敵に囲まれたイスラエルを守り抜くという理念と不屈の意思と恐るべきテクニックを武器に。
本書はそんなモサドの活動を生々しい事件を振り返りながら、秘密に包まれたこの組織の歴史を追う。
読み終わったあとでは、世界はこれまでのような単純なものではなく、悪意と暴力に満ちた組織同士が覇権と生死を巡って争う闇を内包していることに嫌でも気づかされるだろう。そこにあるのは利己主義とリアリズム、そして暴力の行使を厭わない組織の数々なのである。
闇に包まれた諜報組織、モサドはどのように生まれ、どのような工作を行ってきたのか。また、その結果どのようなことが起こったのか。多くの謎を解き明かし、未解決の事件に光を当てていることで本書の価値はひときわ高いものといえるだろう。
なお、モサドや諜報機関およびイスラエルについては下記の本も面白かったのでお勧めしたい。
ミュンヘンオリンピック事件の犯人との戦いを描いた『ミュンヘン』
巨大な傍受網を築き上げたアメリカのNSAの実態に迫った『すべては傍受されている』
CIAが官僚組織へと変貌した歴史を怒りとともに告発する『CIAは何をしていた?』
NSAによる傍受の中心をなしているエシュロンについての『エシュロン』
イスラエルに手痛い打撃を与え、エジプトとの和平を余儀なくさせた第四次中東戦争など、幾つかの戦争を概観している『戦略の本質』
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