安田 喜憲著
NTT出版 (2004.12)
\1,680
評価:☆☆☆
これはまた評価が難しい。
まず、事実の問題からで言えば、実に面白い。気候変動が過去の文明にどれほど影響を与えてきたのかということは、なかなか大局的見地から論じられることはなかったと思うが、そんな現状を打ち破っていて読み応えがある。
たとえば、三国志の始まりを告げる黄巾の乱の背景としてアジアを襲った寒冷化と不作、栄養状態の悪化に伴う疫病の発生があったこと、同じ気候変動は日本にも影響を与え、倭国動乱の原因になったのではないかという推測など、とても面白い。
気候の変動によって文明は伸張し、崩壊を重ねてきた。気候の変動に伴う異民族の大移動の結果として、異なる文化間の交流が生まれ、文明が発達した。その一面としていくつもの国家の興亡がある。
こういった点は、本書を魅力的にしている。実際、読んでいてとても面白かった。
ところが、事実を離れると眉を顰めることが多くなる。たとえば、筆者は「温暖期には女性が元気になる」としているが、その根拠として挙げられているのは邪馬台国の卑弥呼と、卑弥呼と同時期に雲南で発展した王朝ただ二つである。あまりに薄弱と言わざるを得ない。
そんなことを言うのであれば、たとえば中国歴代王朝で唯一の女帝、則天武后の時代はどうなのか。女帝ではないにしても、皇帝をも凌ぐほど権力を振るった女性たちの時代はどうなのか。それらの説明は無い。
また、過去の出来事を過大視して現実に投射した結果、あまりにも踏み込みすぎている発言にたどり着く。
(略)現在の北朝鮮の政治体制が変われば、日本と北朝鮮は、かつての渤海国との交流のように、深い友情で結ばれ、文化的交流が進展することは、まちがいないであろう。
(同書p105)
子供による残虐な殺人事件やいじめは、戦後のハンバーガーや肉食の普及とどこかで深くかかわっていると私は思う(略)
そしてももう一つ、大化の改新から日本のリーダーが学ぶべきことは、中大兄皇子の轍を二度と踏んではならないということである。(略)
忘れてはならないのは中大兄皇子の大化の改新の延長線上にまっていたのは、(略)白村江での戦争と手痛い敗北(略)である。平成の改革が日本民族を奈落の底につき落とすような結末にならないようにするためには、親米と親中のバランスが要求されるだろう。
(同書p146-147 強調は原文どおり)
北朝鮮の政治体制が崩れ、国交回復がなったとしても、その後に待っているのは厄介な補償問題である。さらに、東ドイツより圧倒的に貧乏な北朝鮮が、西ドイツよりずっと経済の弱い韓国と一体化すれば半島の混乱はドイツの混乱を遥かに上回る。
その結果、待っているのは再安定化を名目にした日本からの多額の投資だろう。これまでの経緯から、朝鮮半島の人々はそれに感謝することなく歴史問題を蒸し返し補償を要求するだろう。韓国との講和の際に(韓国の強引な主張を呑み)北の分まで渡したことは南北ともに綺麗さっぱり忘れ去り、不当な要求を重ねるわけだから日本の反発も深まる。
つまり、友好とは程遠い、やっかいな事態が持ち上がるはずだ。拉致問題を解決したら、あとはあの国はあの変な国のまま国際的に孤立していてくれた方が我々のためになるのではなかろうか。
また、ハンバーガーや肉食は豊かになるにつれ広まっているはずだが、少年による凶悪犯罪は戦後の貧しい時期と比べ激減している。むしろ、激増しているのは老人犯罪なのだ。まさか、老人犯罪の原因がハンバーガーにあるわけもあるまい。
ちなみに、今老人犯罪を犯している世代は、子供の頃は年に400件を越えるほどの少年犯罪を犯し(ここ数年は100件にも満たない)、子供を持つ世代になると嬰児殺を激増させた人々である。1946年生まれの著者の世代こそが観測史上最大の犯罪世代であるという事実に思いを馳せるとき、なんとも皮肉な思いがよぎってしまう。
さらに、”のである”の多用による悪文は無視できない。笑い話のようだが、8章の最後のページでは文章が6つあるのだが、そのうち5つの文末が”のである”なのである。
この手の本で悪文は仕方が無い、というのも一つの考えではあろうが、私はそうは思わないのである。悪文は文章を、そして本そのものをつまらなくさせるのである。その結果、どれほど面白いことを書いていようとも普及しないのである。それは損に他ならないのである。どのような立場であろうとも、本を出すのであれば文章にも気配りをするべきなのである。
意図的に真似してみたが、やはり”のである”は強調したい文章のみにとどめておくのが良い。日本語はかなり文末が限られているのは事実だが、もっと上手く書く方法は存在するはず。
事実だけで面白いのだから、あまり踏み込みすぎず、冷静に、文章は歯切れ良く、となったら絶賛するのに。
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