マイケル・バー=ゾウハー著 / アイタン・ハーバー著 / 横山 啓明訳
早川書房 (2006.1)
評価:☆☆☆☆
1972年9月5日。ミュンヘンのオリンピック会場内、イスラエル選手村に8人の男が侵入、選手とコーチを殺害し、9人を人質に取る大事件が発生した。犯人グループはパレスチナ解放機構(PLO)傘下のテロ組織、黒い九月(ブラックセプテンバー)だった。不手際も重なり、人質全員と警官1名および犯人のうち5人が死亡、3名が捕らえられるという結末を迎える。イスラエルとパレスチナ。今も解決されていない問題は、かつては世界中を巻き込んだ武装闘争だったのだ。
イスラエル側は報復として非常の手段を採ることを決める。黒い九月幹部の暗殺である。その最終目標は、PLO議長アラファトの側近、アリ・ハサン・サラメ。彼は、イスラエル独立戦争で絶大な力を発揮し戦いの渦中で戦死した父ハサン・サラメの軌跡をたどるように、PLO内で頭角を現し、やがて血塗られた王子の異称を持つ残忍なテロリストとなっていった。
本書は1972年5月のサベナ航空機ハイジャック事件で幕を開ける。背後で糸を引いた者こそ、アリ・ハサン・サラメだった。そこで場面は父ハサン・サラメの時代に戻る。アリ・ハサン・サラメを語るには、父ハサン・サラメを避けて通れないから。そして驚くべき親子2代の歴史が明かされる。
パレスチナとイスラエルの闘争は、イスラエルの覇権確立とともにパレスチナが辺境へ追いやられ、すべてを失う歴史となっていった。それとともに、黒い九月の作戦は、無計画ではないが無秩序で世間の支持を失うものとなっていく。一度解き放たれた暴力はどちらかが破滅するまで終わらない傾向があるのかもしれない。イスラエルからの暴力の主体はモサド。モサドと黒い九月の血で血を洗う抗争を緻密に、読みやすく書いてあるのは見事である。名前しか知らなかったような個別の事件が、紛争の一連の流れであることが実に良く分かったのが収穫。
中東和平に感心のある方は必読といっても良いのではないだろうか。
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