保阪 正康著
光文社 (2004.4)
評価:☆☆☆
ウソばかりで内実が備わらない発表は、いまでも大本営発表といわれたりする。もちろん、敗戦色が濃くなっているにもかかわらず実態にそぐわない戦果報告ばかり発表していたかの大本営発表がその語源(?)である。しかし、大本営発表という単語は知っていても、その詳しい内実は知らない方も多いのではなかろうか。
そんな大本営発表を時系列で分析したのが本書。真珠湾攻撃で戦果を重ねる時期から無残な敗北を喫し、占領軍を迎え入れるまでの大本営発表の内容の移り変わりを追う。面白いのは、戦果が上がっている間は非常に冷静で正確な発表だったのが、日本軍が押し返され、旗色が悪くなるにしたがって無意味な装飾ばかりが過多となりウソばかりになることだ。
筆者は戦争の時期を5つに分類し、時期に応じて大本営発表がどう変貌して行ったのかを丁寧に追いかける。戦争指導者たち(特に東條)が言論を封殺し、近視眼的な認識を強いたという事実は過去にあった出来事としてではなく、今後も十分に起こりうることだと思ったほうが良いだろう。いくつか例を挙げると、ゲーム脳や少年犯罪凶悪化、ニート問題、ダイオキシンやBSEなどで全く実態にそぐわないおかしな言説がまかり通っている。複数の国で危険なカルト宗教と名指しされている創価学会が平然と政権中枢に居られるという異常さ(そしてそれが報じられないという問題)など、メディアリテラシーを身につけるべき状況は続いている。大本営発表が過去の終わったこと、とは思わないのが大切なのはこれから先、情報が重みを増すにつれますます重要になるのではなかろうか。
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ローワン・フーパー著 / 調所 あきら訳
新潮社 (2004.2)
評価:☆☆☆☆☆
まだまだ分からないことがあるからこそ科学に惹きつけられる人は多い。なにせ、セックスが必要になった理由すら、まだはっきりは分かっていないくらいだ。その一方ですでに分かっている面白いこともある。分かったこと、まだ分かっていないこと、どちらにも共通するのは生物は驚きに満ちており、知ることは純粋に楽しいということだ。
見出しを書き上げただけで読む気をそそられるような、そんな話題が目白押しである。性と生殖ではゾウムシのペニス、男と女のセックス戦争(遺伝レベルで見たら隠微さはなく冷徹な計算と競争が待っている)、進化の項ではアリジゴクやクジラの進化、ヒトの妊娠ではつわりの功罪、胎盤内の♂♀競争、病気・健康・医療ではHIVワクチンの可能性、摂食障害と自己免疫疾患、脳と感情でテレビが与える影響、ギャンブラーの生理学的背景、最終章人類進化では人類の進化や理想のカップル条件について、と本当に面白い。
しかも、すばらしいことに語り口が平易でウィットに溢れている。専門知識の領域に踏み込みながら深く入り込みすぎない絶妙のバランス感覚。40の話題しかないのが残念で、倍あってもまだ飽きない。そんな読んで楽しい一冊。自然科学が好きな方はぜひ。
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