サイモン・ウィンチェスター著 / 鈴木 主税訳
早川書房 (2006.3)
評価:☆☆☆
大変な労力を費やしつつも、世人からなかなかその苦労を認識されないことはいくつもある。めったなことでは光が当てられない、そんな分野で大変な苦労をして、そして成果を挙げた人々は少なくない。
たとえばスポーツ選手はその苦労が容易に偲ばれるが、学者はそうではないのではなかろうか。そんななかなか苦労が見えてこないものに、本書でも取り上げられている辞書の編纂もあげられるだろう。
しかも、そんな辞書の中でも全ての言葉を網羅し、しかも語源から用法の変化まで用例を用いて説明することを目標としたオックスフォード英語大辞典(OED)ともなるとその仕事量は信じられないほど膨大なものになる。仕事量にとどまらず、多くの知識や情報を集め、それを纏め上げる優れた頭脳が必要だ。
ジェイムズ・マレー博士こそ、その頭脳であった。OEDの完成をみることはついになかったが、極め付けに優れた知性と教養が無謀ともいえる事業を成功へ導いた。そしてもう一人。多くの用例を辞書の編纂のタイミングに合わせて送りつづけたウィリアム・マイナー。彼はなんと殺人罪で精神病院に収監された狂人だった。
この一見して対照的な二人を軸にOEDが軌道に乗り、果てしない終着点を目指す流れを追う。最も知力を使うような、そんな作業が狂人によって成し遂げられたのだ。完成まで70年をかけたOEDは総ページ数16,570、収録語数414,825、用例1,827,306という、その数を見ただけで卒倒しそうなほどのものを作り上げた。辞書にはそんなくろうが眠っているのだ。
著者のサイモン・ウィンチェスターは『世界を変えた地図』でウィリアム・スミスというこれまた一般には知られていない人物を取り上げ、業績を明らかにしている。こういった、報われにくい天才たちに光を当てて存在をアピールする著者の存在は貴重であると思う。
ランキングに参加しています。面白いと思ったら押してくださいませ。
(ランキングサイトが立ち上がります。不快でしたら無視して下さい)




