ジョン・アシュトン著 / 高橋 宣勝訳
早川書房 (2005.6)
\777
評価:☆☆☆
テレビも図鑑も動物園も無かった頃、世界は今よりもずっと驚異に満ちていた。もちろん、今でも驚異が無くなったわけではなく、面白いことはいろいろあるのだけれど、昔とは質が違う。なぜなら、その昔は異郷の地のことは旅人から聞いた話から想像するしかなかったわけだから、異郷の地のイメージは想像のみだった。イマジネーションが世界を規定してた。だからこそ、現実の世界以上に不思議が溢れていたのだ。
例えば世界像では、大地は平らな盆のようなもので、盆の端から海水が落ちて行くのをポセイドンの軍勢が押し戻している(だから波ができる)、というような今の知識からみたら奇天烈なものが出来上がっていった。
昔の人々が伝聞から想像していた奇怪なもののうち、動物を集めた一種の空想動物園のような本である。中には巨人や小人、りんごの匂いだけで生きている人などの人類、ドラゴンやハーピー、人魚にスフィンクスにグリフィンとファンタジーには欠かせない幻獣がわんさと収められている。更に面白いのは、本書の扱っている奇怪動物が想像上の生物に留まらないところだ。
実在の奇怪動物には2つのパターンがある。実在するけれども伝聞から想像するしかない動物を書いたため実像と食い違っていることがあるものと、身近にいる動物であっても異郷の地では奇怪な動物になってしまったものだ。ワニやサイ、イッカクなどが前者に、犬やネコや狐が後者に当る。狭い行動範囲をちょっと越えたらそこはもう想像のなかの生き物が跳梁跋扈する、不思議な世界だったのだろう。
そういった驚異が身近から失われてしまったのは残念かもしれない。想像のなかで息吹を与えられた奇怪な生物達のこれまた奇怪な生態を、永遠に失ってしまうのは実にもったいないことではなかろうか。そう思う人々が多いからこそ、このような本が生き残ってきたと思う。そしてその思いが、奇怪な幻獣達をいきいきと描き出す原動力になったのではないか。ドラゴンなんていない、と呟くその前に、ちょっとこんな世界を覗いて見ると面白いと思う。
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