スー・シェパード著 / 赤根 洋子訳
文芸春秋 (2001.11)
\840
評価:☆☆☆☆☆
狩猟社会だった頃からつい100年ほど前まで、食料の保存は大問題だった。旬の時期には大量に取れるものであってもちょっと季節がずれれば手に入れることはできなくなる。特に、冬は植物が育たなくなり、またその結果として動物に与える飼料もなくなるため多くの家畜も冬を越すことはできない。では、冬の食料をどうするのか。食料の保存には多くの時間と大変な努力が払われてきた。
そうして発見された保存方法には、乾燥、塩漬け、酢漬け、燻製、発酵、砂糖漬け、濃縮など今も伝えられている技術がある。生活の必要から生み出された保存技術はやがて食文化へと変貌していった。その風味を楽しめるのは、だが近年のほんのわずかな期間にすぎない。食べ物が傷む原理が発見され、大量の食品を長期に渡って保存できる技術が確立したのはつい最近のことなのだ。すなわち、瓶詰めや缶詰の発明である。
そうした、食品保存の通史として実に面白い。保存方法にこめられた知恵と発見の歴史は、そのまま科学の歴史でもあると言えるだろう。更に面白くしているのは異文化でどのような保存が行われてきたか、である。日本の保存食と言えば、塩鮭や魚の干物、各種の漬物に梅干、納豆、そして酒が思い浮かぶだろう。他国ではまた違うものを違う方法で保管してきた。その違いは現在まで引き継がれ、その文明の味を形作っていると言って良い。ワインやチーズのないイタリア料理、ソーセージやザワークラフト、そしてビールのないドイツ料理が想像すらできないことからもそれは分かると思う。
そしてまた、食品保存の歴史は戦争の歴史でもある。戦争の際、どうやって食料を確保するかは常に付きまとう問題だった。古では鞍と馬身の間に肉を挟み馬の汗に含まれる塩でハムを作ったフン族、近年では爆撃機の砲門にくくりつけた容器で作ったアイスクリームなどのエピソードがまた面白い。カエサルたちは何を食べていたのか。大航海時代の食糧事情はどうだったのか。ネルソン提督の部下たちはどんな食事にありつけたのか。絶対に必要でありながらあまり目が向かない、食料事情に一たび光が当ればそこには意外な事実が沢山あることを知った。塩辛を肴に酒をちょろっと、という今の日常のシーンに至るまで、どんな発見や苦労があったということに目を向けさせてくれる、面白い本であった。
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