スティーブン・ピンカー著 / 山下 篤子訳
日本放送出版協会 (2004.9)
\1,260
評価:☆☆☆☆☆
いよいよ最終巻。ここで取り上げられているのは政治、暴力の起源、ジェンダー、子育て、芸術である。芸術においてポストモダンを批判しているのは、論旨としてはとても納得がいくのではあるが本書で取り上げるべき話題かどうか、ということには疑問を感じる。しかし、全体としては相変わらず興味深い話ばかり。
特に多くの方が興味を抱くのは、子育てについての話題ではなかろうか。行動心理学の三法則というのがあるらしい。以下の通りである。
第一法則 人間の行動特性は全て遺伝的である
第二法則 同じ家庭で育った影響は、遺伝子の影響よりも小さい
第三法則 複雑な人間の行動特性に見られるばらつきのかなりの部分は、遺伝子や家庭の影響では説明されない
知能についても面白い研究が幾つも出ている。なんと、成長するに従って遺伝の影響が大きく出てきてやがては親そっくりになってくる、というのだ。子供の行動特性は、親が何をしようとも変えられないのであれば親が子に良かれと思うことをなにかをしてあげるのは無意味なことなのだろうか。これは設問自体が間違っている。行動特性が変わろうと変わるまいと、子供が幸福を感じるかどうかの多くは親に拠っている。子供が(親の望む)特定の才能を持つから愛する、というのは間違っていると気が付かなければならない。
教育についての部分だけでも十分に面白いので、上巻や中巻の内容に興味をもてそうに無くても下巻だけ買っても損はしないだろう。男女の問題、特にレイプについてどのようなことが分かっているのか、ということは女性が身を守るために知っておいて悪いことは無いと思う。
しばしば挑発的に、また話題が多岐に渡りすぎて脱線しすぎているように感じられる点もあるが、遺伝と行動の間にどのような関係があるのかについて実によく論じられている。参考文献も膨大な量に上っており、それらの成果を上手く纏めているのでつい読みふけってしまう大変な名著であると言えるだろう。ただし、個々の話題のほとんどはアメリカを念頭に置いて書かれているので日本人にとっては特に刺激的には感じられない話題もあるが、そこなどはアメリカではどのように社会が認識されているのかを知るのに充てれば良いと思う。
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