ブライアン・グリーン著 / 林 一訳 / 林 大訳
草思社 (2001.12)
\2,310
評価:☆☆☆☆☆
ニュートン力学の成功は余りと言えば余りに大きすぎた。考えて見れば凄いことで、地球上で見られる物体同士の振る舞いが、太陽系の惑星の動きはおろか他の銀河でも当てはまるという、稀代の成果であった。ミクロの世界と重力の大きい世界でニュートン力学では説明できない現象が知られるようになったのはようやく20世紀になってからのことであるが、それでも日常生活で考慮するのはニュートン力学で済ませることができるのだ。
ところが、済まないという人々がいる。物理学者である。特に、宇宙の姿を探ろうとする人々にとってはニュートン力学が破綻しているそここそが宇宙を説明するためには重要になるのだ。巨大な重量を持つ天体の傍では時空が捻じ曲げられる。ニュートンやデカルトが前提とした絶対空間や絶対時間といった尺度は失われる。アインシュタインによる相対性理論によって導き出される宇宙観はそれまでの見方を徹底的に破壊してしまった。
ニュートン力学はさらにミクロの世界でも崩壊する。電子の振る舞いは、ニュートン力学ではまったく説明ができない。例えばなぜ原子核にはプラスの電荷を持った陽子があり、その周辺をマイナスの電荷を帯びた電子が駆け回っているのに電気的に引き合って結合しないのか、という問題は量子力学でなければ解けない。
では、相対性理論と量子力学という二つの技法を持ってすれば宇宙を理解できるのか?というと、そうではない。相対性理論と量子力学は、普段は全然異なる状況で用いられるのだが、特異な状況では重力と量子力学の理論を用いなければならないようになってしまうのだ。それは巨大な質量が微小な領域に押し込まれた世界。ブラックホールやビッグバンといった宇宙を説明するには必要不可欠な領域で二つの理論を用いなければならなくなるのに、これらの理論は互いに矛盾する点を含んでいる。一般生活で問題になるような矛盾ではなくとも物理の世界では大問題なのだ。
そんなわけで、物理学者たちは一つの理論で宇宙を説明できるようにしたいと願ってきたのである。そして、その一つの有力な候補が本書で取り上げられている「ひも理論」である。著者は将来を嘱望されている物理学者である。著者の優れたところは、専門家にありがちな専門用語を駆使してひたすら難解になりがちな子の手の本を、巧みな比喩を用いつつ、極力専門知識のない一般人にイメージしやすいように書いてあるところである。
そして数式を離れて相対性理論や量子力学から導かれる世界を覗き見ると実に面白い現象が目白押しで、そこに巧みな比喩が組み合わさると実に面白い本が誕生することになる。ただ、それでも後半のひも理論の中核に至るとさっぱり理解できないことが多いのだが、それは数式で理解しない身の限界かもしれない。しかし、宇宙論を取り巻く驚くべき理論の進展に目をみはるのは、それはそれで楽しいのだ。宇宙論に興味がある方にはぜひお勧めしたい。
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