J・D・ワトソン〔著〕 / 江上 不二夫訳 / 中村 桂子訳
講談社 (1986.3)
\490
評価:☆☆☆☆☆
ジェームズ・ワトソンの本は、『DNA』を過去に紹介している。『DNA』ではタイトルから予期されるようにDNA全般の話題に付いて現在までに解明されていることを広く、専門知識を過度に避けることなく面白く書かれていたが『二重らせん』は随分毛色が違う。本書はジェームズ・ワトソンとその相棒のフランシス・クリックがどのようにしてノーベル賞を獲得する研究を成し遂げるに至ったのかという研究と、当時の研究者たちとどのような交流があったのかということを織り交ぜて書かれた自伝である。
自伝と言っても、この人の場合は伊達じゃない。まず、書かれているのは25歳までである。このワトソンの年齢を見ただけで、如何に彼が若くして大発見を成し遂げたかが分かろうというものである。また、出てくる人々が大御所ばかり。相棒のクリックは当然として、DNA構造を追うのは天才化学者ライナス・ポーリング、ミオグロビンの解明で化学賞を取ったジョン・ケンドルーとマックス・ペルツ、ワトソンが師事したのはX線解析で物理学賞を取ったローレンス・ブラッグ、ニールス・ボーアにアーネスト・ラザフォード。
こんな大物に囲まれていつつ、一緒に研究するのは変人で有名なフランシス・クリック。ここに頭脳明晰な若者が入り込んだらなにかが起こらずには済まなかったに違いない。その結果でてきたのは、周知の通りの大発見――ワトソン自身が、「ひょっとしたら、ダーウィンの著書以来、生物学史上でもっとも画期的といえる発見」と言っている――であった。彼らの発見が、生物のもっとも奥底に眠る秘密を解き明かしたといって過言ではない。
そんな発見までの個人史であれば、面白くないわけがない。ゴールは、DNAの二重らせん構造の発見で、勝者はワトソンとクリック、という結果は分かっていても、たどり着くまでの試行錯誤や他の競争相手に負けないように奮闘する姿には引き込まれるし、発見のその瞬間にはワトソンたちの喜びを少しは共有できるような気になる。
人間模様だけでも抜群に面白い上、科学史上稀な発見を当事者が語る、と言うこと自体が珍しい。理系の道を志す方も、DNAに興味のある方も、変人をちょっと見てみたいという方も読んで楽しめる良書である。
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