ロバート・ハインライン著 / 矢野 徹訳
早川書房 (1981)
\966
評価:☆☆☆☆
ヒューゴー賞受賞の、SFでは超有名作品。とあるところで知り合った方に勧めて貰ったので手にとって見たら手に汗を握る長編小説で、一気に読みきってしまった。
設定としては決して珍しくない、地球からの独立物語。人類は月に植民地を抱えている。ここにはかつてのオーストラリアのように罪人達が片道切符で送り込まれていた。地球のやり方に賛同できない人々が、非政治的な主人公を絡めて地球への反乱を企てるが、彼らには移動手段も無ければミサイルも無いので、彼我の戦力は圧倒的に違うのだ。
そういった不利な状況をどうやってひっくり返すのか、というところにこそ作者の力量が問われるだろう。そして、ハインラインは見事に応えている。月世界の家族構成などの設定や、社会構成もきっちり組み立てられていて――コンピューターを過大評価しがちなのは措いておかねばならないだろうが――実にしっかりした世界を構築している。
主人公達が警察機構から逃れるために組み立てる細胞組織などは実際の地下組織のやり方を参考にしているのが見て取れるし、地球独立の日時など、近代史をちょっと知っていたら思わずニヤリとしてしまいそうなネタに溢れている。
いよいよ反乱勃発に至るわけだが、圧倒的に不利な主人公達は果たして状況をひっくり返せるのか?月と、地球の将来はどうなるのか?
SFやファンタジーが好きな方は大いに楽しめるだろう。
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メルヴィン・ブラッグ著 / 三川 基好訳
アーティストハウスパブリッシャーズ (2004.5)
\1,890
評価:☆☆☆☆
ああ、英語。その呪わしき響きよ。
大体、なんで同じ発音をするのに母音の使い方が何種類にも分かれているのか。おかげで音を聞いてもどうやって書けば良いのか分からない。綴りが分かっても発音の仕方が分からない。どうなっているのかね、まったく。
ロンドンに新婚旅行に行っておきながら私は英語がダメのダメダメなのだ。人間の価値を定める唯一の指標があって、それが英語の能力だとしたらそこは私にとって地獄の世界である。この忌まわしき言葉がどうしてこんなにも世界にはびこってしまったのか。
その謎を知ろうと思ってこの本を手に取ったのだが、これがどうして、随分と面白いのだ。わずか15万人が、世界の果ての島国のそのまた片隅でしゃべっていた言葉は幾多の危機を乗り越えて、大きく羽ばたいていく様は冒険譚と言っても過言ではない。英語がフランス語、スペイン語、アラビア語などから次々と自らの血となり肉となる言葉を取りいれ、幾つかの構造改革を経て今の姿になっていく様は、幾つもの試練を乗り越えた勇者のようにも見える。
そんな英語の歴史を決して退屈ではなく、いや、むしろ読む人の興味をそそるように書けているのは著者が英語そのものについての広い知識のみならず、文学作品や歴史などのエピソードにも深い造詣をもっているためだろう。チョーサーやシェイクスピア、マーク・トゥウェインなどの文豪達がどのような英語を使いこなしていたのか。外来語や方言をどのように扱ったのか。どうやって英語に新しい言葉が足されて行ったのか。どのような危機があり、それをどうやって切り抜けてきたのか。その一つ一つのエピソードに命が吹き込まれているような文章は見事。
英語を好きな人も、嫌いな人も、きっと楽しめる本である。英語圏の歴史や文化、風俗に興味があるなら、私が楽しんだ以上に楽しめることであろう。そして、読む前よりも、ちょっと、英語が好きになっているかも知れない。しゃべれるようにはなっていないだろうが。
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